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断罪編
閑話 アガサ、女官の顔
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アガサは橙色の髪を揺らしながら、長い塔階段を登って行く。
リュリアール皇国の都・シャルドーネ。
其の中央に位置する大聖堂の鐘塔内部に這わせられた螺旋階段には、処何処に明かり窓が開けられ、外からの光が内部を照らし出す。
アガサが其の窓の一つから外を見みると、彼方の空にいつもとは違い黒雲が立ち込める異様な様子に気が付いた。
「あれは、エンルーダーの方角じゃない。何かあったの?、、いけない!『みんな』が帰って来てるはずだから、急がなくちゃ!!」
開けられた窓から外を覗き見していたアガサは急いで上がって来た階段の続きを、女官のお仕着せの裾を持ち上げながら駆け上がる。
アガサが言う『みんな』とは、人では無く王宮が教会内部で管理する鳩の事。
大聖堂が行事にで飛ばす祝福の白い鳩達だ。
「ああ、よかった!みんな戻っているね!!さ、ご飯だよ。頑張ったねー。よしよし。あ、テネブ。どれどれ、いい子ねー。」
鐘塔の頂上まで登ったアガサは、吊鐘の周りで羽を休める鳩達に声を掛けながら、用意した餌を食べさせていく。
学園を卒業したアガサは王都シャルドーネに残り、王宮で働く女官に成っていた。
とはいえ未だ、王子妃パメラから始まった明るい髪色への弾圧めいた偏見が強い為、学園での成績は極めて優秀であったにも関わらず、花形の女官部や表立った王宮配置には成らなかった。
それでも、当のアガサは些末な事と問題にはしていない。
「さ、テネブ、足のモノを取らせてねー。よし!!」
手際よく『テネブ』と呼ぶ鳩を腕に抱えたアガサが、鳩・テネブの足に括りつけられた書簡筒を外し見る。
アガサが、冷遇される事が予想された王宮の女官に成った理由は一つ。
「なになに、、、、これって、とんでもない事になってるじゃない!!テネブ、よく無事に戻ってこれたね!!えらかったよ!!」
小さく丸められたメモに視線を走らせ、刻まれた暗号を読み解いたアガサは、慌てて耳に潜ませた魔道通信を開くと、手を当てながら早口に喚いた。
アガサは女官仕事を利用しながら、マウリオ男爵次男となる兄シャールロ共に、リュリアール皇王族や上流貴族のゴシップ紙を秘密裏に発行をするレジスタンス活動をしていたのだ。
「シャロ兄さん!!テネブが帰って来たわ!しかもエンルーダーが今火の海だって。アーサー兄様が避難結界に入る前に飛ばしたみたい!エンルーダが襲撃を受けたらしいけれど、隣国の暗躍兵に似ているとしか書いてないわ。」
アガサは捲し立てながら片手を目に翳し、遥か遠方の黒雲に目線を定める。
「此処からは流石にわからないけれど、変な黒い雲がエンルーダ方向に広がってるのは見えるわよ。それに『スキヤ』がまだ戻ってないの。」
大聖堂の鐘塔にまで登って来る様な物好きは、きっとアガサ以外には居ないだろう。
ましてや鳥獣飼育に任命されていなければ、鐘塔に足を立ち入れる人間は、おそらく掃除夫ぐらい。
それも年に1回の話。
だからこそアガサ達は、前世代で使われていた伝書鳩を駆使し、リュリアール皇国全土の情報を遣り取りしていた。
「自分の事は何も書いてないないけれど、アーサー兄様は大丈夫なの?まさかエンルーダに、アーサー兄様が直接行くなんて考えなかったわ。」
魔道通信が発達しているとはいえ、ひとたび情報統制が敷かれれば、直ぐさま領土間の通信は遮断されてしまう。
だからこその、大聖堂管轄の鳩に目を付けたアカサ達。
大聖堂の祝福の白い鳩は守護の力も授けられ、おいそれと人も獣も手出しをしない事と、アガサが鳩の世話係に成った事を逆手に、古き手段であった伝書鳩法を使っている。
「わかってるわ、シャロ兄さんの言う通りだと思う。あたしも同感だよ。」
女官の裏方仕事として、教会の鳩達を見るのがアガサの日課。
鐘の動力スイッチでさえ、塔の下にある小屋で操作が出来るのだから、毎日塔の頂上まで登る餌やりなどは、希望者が皆無だった。
「ウイルザード殿下が、婚姻の下賜品を運ぶ隊に隠れて同行したのがエンルーダ領よ?偶然にしちゃ出来過ぎでしょ。それに、パメラ王太子妃も未だに失踪中なんだよ?」
誰も上がって来る心配が無いからこそアガサは、祝福の鳩達に餌をやりながら、仕込んだ伝書鳩の書簡回収が出来るのだ。
そんな鳩達の中でも長距離を飛ぶのが、『テネブ』と『スキヤ』。
「間違いない、エンルーダに逃げた『断罪令嬢達』を根絶やしにするつもりよ。ウイルザード殿下とパメラ王太子妃は、何処まで私達みたいな髪の令嬢を苦しめるつもりかしらね。」
塔の頂上で強い風に吹かれながら、アガサはトレードマークの眼鏡を指で直しつつ、魔導通信に向かって確信めいた声を放つ。
「それに初夜の日から王宮から消えたのは、パメラ王太子妃だけじゃない。大魔術師ガラテア様もなんだよ。魔塔はもちろん大聖堂にもいないのは不可解しかないよ。」
そう通信を続けながらも、アガサはもう一羽の帰りを待ち、空を睨む。
「とにかくアーサー兄様が避難結界に入ったって事は、間違いなくエンルーダーが緊急事態宣言を出したに等しいって事ね。そんな時に戦闘能力が高い人間がこのシャルドーネに不在なのは、作為的って思うわ。」
マウリオ男爵領おかかえ商会の会頭として各地を回る長兄アーサーの鳩『テネブ』と同様に、エンルーダ方面に飛ばしている『スキヤ』の姿が、そろそろ見えてもよい頃のはずなのだ。
「このまま隣国から攻め入れられたりしないでしょうね?え、シャロ兄さん、其の猿人魔獣って何なの?」
強い風が鐘塔に吹き込んだ空の向こう。
白い姿をチラリと視界に捉えたアガサが、魔道通信の向こうで次男兄が放った聞きなれない魔獣の名前に、其の言葉を聞き返した。
リュリアール皇国の都・シャルドーネ。
其の中央に位置する大聖堂の鐘塔内部に這わせられた螺旋階段には、処何処に明かり窓が開けられ、外からの光が内部を照らし出す。
アガサが其の窓の一つから外を見みると、彼方の空にいつもとは違い黒雲が立ち込める異様な様子に気が付いた。
「あれは、エンルーダーの方角じゃない。何かあったの?、、いけない!『みんな』が帰って来てるはずだから、急がなくちゃ!!」
開けられた窓から外を覗き見していたアガサは急いで上がって来た階段の続きを、女官のお仕着せの裾を持ち上げながら駆け上がる。
アガサが言う『みんな』とは、人では無く王宮が教会内部で管理する鳩の事。
大聖堂が行事にで飛ばす祝福の白い鳩達だ。
「ああ、よかった!みんな戻っているね!!さ、ご飯だよ。頑張ったねー。よしよし。あ、テネブ。どれどれ、いい子ねー。」
鐘塔の頂上まで登ったアガサは、吊鐘の周りで羽を休める鳩達に声を掛けながら、用意した餌を食べさせていく。
学園を卒業したアガサは王都シャルドーネに残り、王宮で働く女官に成っていた。
とはいえ未だ、王子妃パメラから始まった明るい髪色への弾圧めいた偏見が強い為、学園での成績は極めて優秀であったにも関わらず、花形の女官部や表立った王宮配置には成らなかった。
それでも、当のアガサは些末な事と問題にはしていない。
「さ、テネブ、足のモノを取らせてねー。よし!!」
手際よく『テネブ』と呼ぶ鳩を腕に抱えたアガサが、鳩・テネブの足に括りつけられた書簡筒を外し見る。
アガサが、冷遇される事が予想された王宮の女官に成った理由は一つ。
「なになに、、、、これって、とんでもない事になってるじゃない!!テネブ、よく無事に戻ってこれたね!!えらかったよ!!」
小さく丸められたメモに視線を走らせ、刻まれた暗号を読み解いたアガサは、慌てて耳に潜ませた魔道通信を開くと、手を当てながら早口に喚いた。
アガサは女官仕事を利用しながら、マウリオ男爵次男となる兄シャールロ共に、リュリアール皇王族や上流貴族のゴシップ紙を秘密裏に発行をするレジスタンス活動をしていたのだ。
「シャロ兄さん!!テネブが帰って来たわ!しかもエンルーダーが今火の海だって。アーサー兄様が避難結界に入る前に飛ばしたみたい!エンルーダが襲撃を受けたらしいけれど、隣国の暗躍兵に似ているとしか書いてないわ。」
アガサは捲し立てながら片手を目に翳し、遥か遠方の黒雲に目線を定める。
「此処からは流石にわからないけれど、変な黒い雲がエンルーダ方向に広がってるのは見えるわよ。それに『スキヤ』がまだ戻ってないの。」
大聖堂の鐘塔にまで登って来る様な物好きは、きっとアガサ以外には居ないだろう。
ましてや鳥獣飼育に任命されていなければ、鐘塔に足を立ち入れる人間は、おそらく掃除夫ぐらい。
それも年に1回の話。
だからこそアガサ達は、前世代で使われていた伝書鳩を駆使し、リュリアール皇国全土の情報を遣り取りしていた。
「自分の事は何も書いてないないけれど、アーサー兄様は大丈夫なの?まさかエンルーダに、アーサー兄様が直接行くなんて考えなかったわ。」
魔道通信が発達しているとはいえ、ひとたび情報統制が敷かれれば、直ぐさま領土間の通信は遮断されてしまう。
だからこその、大聖堂管轄の鳩に目を付けたアカサ達。
大聖堂の祝福の白い鳩は守護の力も授けられ、おいそれと人も獣も手出しをしない事と、アガサが鳩の世話係に成った事を逆手に、古き手段であった伝書鳩法を使っている。
「わかってるわ、シャロ兄さんの言う通りだと思う。あたしも同感だよ。」
女官の裏方仕事として、教会の鳩達を見るのがアガサの日課。
鐘の動力スイッチでさえ、塔の下にある小屋で操作が出来るのだから、毎日塔の頂上まで登る餌やりなどは、希望者が皆無だった。
「ウイルザード殿下が、婚姻の下賜品を運ぶ隊に隠れて同行したのがエンルーダ領よ?偶然にしちゃ出来過ぎでしょ。それに、パメラ王太子妃も未だに失踪中なんだよ?」
誰も上がって来る心配が無いからこそアガサは、祝福の鳩達に餌をやりながら、仕込んだ伝書鳩の書簡回収が出来るのだ。
そんな鳩達の中でも長距離を飛ぶのが、『テネブ』と『スキヤ』。
「間違いない、エンルーダに逃げた『断罪令嬢達』を根絶やしにするつもりよ。ウイルザード殿下とパメラ王太子妃は、何処まで私達みたいな髪の令嬢を苦しめるつもりかしらね。」
塔の頂上で強い風に吹かれながら、アガサはトレードマークの眼鏡を指で直しつつ、魔導通信に向かって確信めいた声を放つ。
「それに初夜の日から王宮から消えたのは、パメラ王太子妃だけじゃない。大魔術師ガラテア様もなんだよ。魔塔はもちろん大聖堂にもいないのは不可解しかないよ。」
そう通信を続けながらも、アガサはもう一羽の帰りを待ち、空を睨む。
「とにかくアーサー兄様が避難結界に入ったって事は、間違いなくエンルーダーが緊急事態宣言を出したに等しいって事ね。そんな時に戦闘能力が高い人間がこのシャルドーネに不在なのは、作為的って思うわ。」
マウリオ男爵領おかかえ商会の会頭として各地を回る長兄アーサーの鳩『テネブ』と同様に、エンルーダ方面に飛ばしている『スキヤ』の姿が、そろそろ見えてもよい頃のはずなのだ。
「このまま隣国から攻め入れられたりしないでしょうね?え、シャロ兄さん、其の猿人魔獣って何なの?」
強い風が鐘塔に吹き込んだ空の向こう。
白い姿をチラリと視界に捉えたアガサが、魔道通信の向こうで次男兄が放った聞きなれない魔獣の名前に、其の言葉を聞き返した。
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