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第1章

第33話:ウェストミース王国併合

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アバコーン王国暦287年8月22日・ウェストミース王国王都野戦陣地・美咲視点

「戴冠式直後のお忙しい所を、我らが不甲斐ないせいで女王陛下に親征していただく事になってしまい、誠に申し訳ございません」

「気にする事はありませんよ、騎士団長。
 これはわたくしをウェストミースの民に見せつけることが目的の親征です。
 騎士団長や領主達が不甲斐ないせいではありません。
 国1つ滅ぼすとなれば、普通なら数年かかるのが当然です。
 それを1月や2月でやれないからと言って、無能扱いはしませんよ」

「温情あるお言葉、感謝に耐えません。
 しかしながら、女王陛下の温情に甘える訳にはまいりません。
 どうか不甲斐ない我らに先陣を賜りますように、伏してお願い申し上げます」

 第4騎士団の団長さんも大変だ。
 急速に膨れ上がった騎士団を統制しなければいけないうえに、雑多な領主が連合を組んだ軍を率いてウェストミース王国を抑える事を命じられちゃった。

 あくまでも抑えであって、討伐を命じられたわけじゃなかった。
 カニンガム王国を併合するまでの間、邪魔させなければよかった。
 エマも私もそれだけしてくれれば十分だと思っていました。

 実際団長さんはよくやってくれました。
 ウェストミース王国軍はカニンガム王国に援軍を出せなかった。
 だから身体強化や魔術なしで1カ月もかからずに併合する事ができました。

 それどころか、新顔の騎士団員はもちろん、雑多な貴族家や士族家の一族や兵士が、ウェストミース王国の民を害する事のないように統制してくれました。
 エマの名誉に傷をつけなかった事は、十二分の働きと言っていいのです!

 ですが、世間はもちろんハミルトン王国内での評判はあまりよくありません。
 エマが1カ月もかからずにカニンガム王国を併合した事と比較されてしまうから、どうしても無能なように見えてしまうのです。

 ですが、精強無比と武名轟くブラウン侯爵軍でさえ、中小国どころかタルボット公爵家さえ併合できていないのです。
 
 2カ月足らずでウェストミース王国の三分の一を占領した第4騎士団の団長さんは、ブラウン侯爵よりも優秀な面もあるのです。

 まあ、その、彼の評判がよくないのは、私の責任でもあります。
 エマに挑発された私は、女王戴冠式で行われた腕比べで無双してしまいました。
 並みいる名高い騎士や将軍を一蹴してしまったのです。

 その中には、王都を護る騎士団長はもちろん、先陣を切る勇猛果敢な第7騎士団長までいました。

 ですが、身内の騎士団長に勝っただけなら、エマの影武者に花を持たせたと考える人もいたでしょう。

 対戦相手の中には、ブラウン侯爵の護衛騎士や騎士団長までいたから、手を抜いたとは誰も思わないよね。

 それに活躍したのは私だけじゃないのです。
 エマの命令で、アリアやルーナまで活躍させてしまいました。

 ブラウン侯爵や私と対戦が決まった時に棄権させたから、どう考えてもブラウン侯爵や私に花を持たせたと思われちゃうよね。

 力比べでは私達4人がダントツの成績だったし、そう思わせるようにエマが仕掛けたんだよね。

「余もお前達の武勇と忠誠を安く扱う気はない。
 だが、城門の破壊はこちらでやらせてもらう。
 名誉ある騎士同士の戦いならしかたがないが、城門の破壊でケガする事もない」

「はっ、女王陛下のご配慮感謝いたします」

 ああ、騎士団長さんも貴族家の当主も私の方を気にしているよ。
 この人たちは戴冠式に参加していないから、噂だけ聞いているんだよね。
 カニンガム王国併合戦も噂しか知らないんだよね。

 噂半分だと思って、ライバル心をむき出してしているのかな?
 こんな人たちの前で、怪力を披露するのは嫌だな。
 もう騎士の人達の心が折れるところは見たくないんだけど……

「ミサキ、城門を破壊してくれ」

「……はい」

 これも、エマの挑発に乗った私が悪いんだよね。
 あの時本気でエマと戦わなかったら、ここまでライバル視されていなかったよね。

 もっとエマと距離を取っていればよかった。
 誰にも明かせない秘密を共有する関係だと思って、気安く接していた自分が悪いのだけど、それを利用するエマの性格が悪すぎる!

 力比べに集まった、怪力自慢の騎士や戦士が持ち上げる事のできない大岩を、お手玉のように5つも扱ったのはやり過ぎでした、ごめんなさい。
 あの人外を見るような奇異の目は、忘れたくても忘れられません。

 あれで正気に戻ったので、次でわざと負けようとしたのに、またエマの挑発に我を忘れてしまった自分が情けないです。

 決勝戦で、人外の速さで戦うエマと私を見て、貴婦人や武に関係のない貴族はもちろん、歴戦の騎士まであんぐりと口を開けて呆然としていました。

 力自慢の騎士が両手で持ち上げられなかった大岩を、互いに投げ合って破壊したのも悪かったです。

 普通なら欠けさせる事も不可能な大岩を、大剣で破壊するどころか、一刀両断してしまったのもやり過ぎでした。

 普通なら折れるどころか曲がる事すらない大剣で討ちあい、何振りも粉砕してしまったのも人間技ではなかったです。
 過去にさかのぼってやり直せるならやり直したいです。

 ドッガーン

 などと反省をしていても、エマに命じられた事を無視できません。
 影武者であり軍師であり護衛騎士でもある私が、女王となったエマの命令に逆らう事は、女王の威信を傷つけることになるからです。

 この国の民が戦乱で苦しむ事のないように、覚悟を決めて女王に戴冠したエマの足を引っ張れるほど、私は厚顔無恥ではありません。

 好きでも無い年下と従弟か、実のお爺様から根性なしと言われるような親戚の男と、多くの民の幸せのために結婚する覚悟を決めた友人を邪険にはできません。

 私が覚悟を決めて人殺しができていれば、エマには別の選択があったかもしれないのです。
 バケモノのように見られるくらいはガマンします。

「突撃!」

「「「「「ウォオオオオ!」」」」」

 第4騎士団を先頭に、この戦いに最初から加わっている、貴族士族の私兵が必死の形相で続きます。

 ハミルトン王国で立場を築く為には、この戦いで手柄を立てなければいけない事は、よほどのバカでなければ分かります。

「ミサキ、わたくし達もまいりますわよ」

「はい」

 第4騎士団と貴族士族連合軍を露払いにして、エマ女王陛下直卒の近衛騎士団が本陣を敵城内に進めます。

 ウェストミース王国の王都は昨日の戦いで制圧しましたから、後は居城に籠る連中を降伏臣従させるか皆殺しにするかです。

 できる事なら早めに降伏臣従して欲しいのですが、カニンガム王国の比べると忠誠心の厚い騎士が多いようです。

 カニンガム王国を相手にしていた時は、城門を突破された時点で降伏臣従する騎士が大半でしたが、この国ではまだ抵抗しています。

 第4騎士団と貴族士族連合軍が降伏臣従の申し出を無視しているのでしょうか?
 そんな事をしたら、見たくない粛清が始まってしまいますよ。
 エマはそういう事にはとても厳しいのですよ、分かっていますか?

 エマはチチェスター王家に仕えていた貴族士族を、皆殺しにしたいと思っているのですから、口実を与えるような失敗はしないでください!

「ギャアアアアア!」
「バケモノだ!」
「バケモノがいるぞ!」

 最前線に人間離れした巨体がいます。
 味方の騎士や傭兵を無力な人形のように吹き飛ばしています。

「ミサキ、どうやらあなたが恐れていたことが現実になってしまったようです。
 わたくしが戦いましょうか?
 それともミサキが戦ってくれますか?」

 エマや私のように、身体強化で強くなっているのか?
 それとも、身体能力のお陰で根本的な筋力を高めているのか?

 私のような知識がない限り、例え魔術を知っていたとしても、魔力を蓄えることはできないはずです!

 魔術を使って戦える時間が限られているはずです。
 普通に考えれば私達に勝てる敵などいないはずなのです。
 ですが、根本的な魔術レベルが違う可能性もあります。

「最初は私が戦います。
 エマは最悪の状況にそなえて、いつでも逃げられるようにして下さい」

 ここでエマを死なせるわけにはいきません!
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