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5話

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「ディラン義兄上。
 ご相談したいことがるのです」

「こんな時間にどうしたんだい?
 もう夜も遅いし、明日では駄目なのかい?」

「はい、今夜でなければいけません。
 明日には分かれ道を通過してしまいます。
 それでは手遅れになってしまいます」

「ふむ?
 領地に戻るよりも大切な事があるのかい?」

「はい。
 魔窟封印の事なのです」

「なに?!
 どういうことなのだ?
 魔窟は王都にあるのではないのか。
 グレイスの事だから、ここから戻るという訳ではないのだろ?」

「はい、あのような王都になど絶対に戻りません。
 腐った王侯貴族にために、この身を削る封印を続ける気はありません。
 ですが義兄上のためならば別です。
 領地のためなら少しは頑張る気になります」

「それは、領地を護るために、王都とは違う封印をするという事かい?
 いや、それは違うな。
 それでは王都を護ることになる。
 グレイスはそんな甘い人間じゃないよね。
 降参だ。
 分からないから教えてくれ」

「シーモア公爵領を護るための封印と結界を施すのです。
 実は魔窟は一つではないのです。
 封印を続けていて気付いたのですが、本道は王都の下にあるのですが、幾つかの支道があって、その一つがシーモア公爵領内にあるのです」

「なんだと!
 それはいかん。
 少しでも早く封印と結界を施さねばならん」

「はい、その通りなのですが、場所が悪いのです。
 魔窟の支道は未開地の奥深くにあるのです。
 シーモア公爵領から未開地を突破するのでは、時間がかかり過ぎます。
 次の分かれ道を右に行き、整備された道を急ぎ、他領から未開地に入った方が早く支道にたどりつけると思うのです」

 嘘です。
 真っ赤な嘘です。
 大嘘です。
 どう考えても、公爵家の騎士団徒士団を動員して未開地に入った方が早いです。
 ですがそれでは、今のように、ディランと二人きりで、同じ部屋に泊まる事などできません。

 領内を騎士団徒士団に護られていくなら、私達は陪臣の城や屋敷、豪農の屋敷を接収して泊まることになります。
 未開地に入ってからも、野戦用のテントで別々に泊まることになります。
 ですがこのまま他領を行けば、所々にある宿屋に泊まることになります。
 この辺の宿屋では、貴族用の個室は一つしかないのが普通です。
 他は全部大部屋で雑魚寝になります。
 当然個室はディラン様と私が使うことになります。

 私の目的はそれです。
 何か間違いが起こってくれること。
 それを願っているのです。
 私から誘って、蔑まれるのは嫌なので、ディラン様が酔って、前後不覚になってくださるのを期待しているのです。

「分かった。
 領地に戻らず封印に行くぞ」
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