皇太子から婚約破棄をもぎ取った公爵令嬢は皇叔に溺愛される。

反乱編

１０話

「おなかがすいただろ？
　食事を用意させるから食べようではないか」

「あの、でも、この子達が心配で」

「うむ、心優しいことだ。
　だが腹が減っては戦ができないという言葉もある。
　この者達を助けたいと思うのなら、腹ごしらえをしておくことだ。
　アリアンナが空腹のままでいたら、この子達は元気になっても食事ができない」

　そう言われたアリアンナは、お腹が減っていなくても、全く食欲がなくても、食べられるだけ食べておこうと決意した。
　
「はい、御相伴に預からせていただきます」

「そんな悲壮感に満ちた顔をしなくていいよ。
　この者達は直ぐによくなる。
　そうすれば空腹で我慢できなくなる。
　なくした血や再生した身体の分だけ食べないといけないからね」

「御世話になります。
　宜しくお願いします」

　魔法の説明を受けたアリアンナが、さらに緊張した顔で返事をするのに苦笑したクリスティアンだったが、直ぐに穏やかな笑みを浮かべた表情に戻り、何かつぶやいたが、どのような呪文かアリアンナには聞き取れなかった。

「お呼びでございますか、旦那様。
　食事を頼む。
　ここに倒れている娘たちの分も用意しておいてくれ。
　料理は冷めて構わない。
　ケガが治ったら直ぐに食べられるように、新しい応接間に用意しておいてくれ」

「承りました。
　しかしながら旦那様。
　完璧に行うには手が足りません」

「分かった。
　数を増やしておこう。
　それと無粋な狼藉者が現れるかもしれないから、武装を整えておいてくれ」

「承りました」

　その後の光景は、すでに驚愕することの連続で、もうこれ以上驚くことなどないとと思っていたアリアンナに、さらなる驚きをもたらした。
　どこからともなく紙人形を取り出したクリスティアンが、また何か呪文を唱えたかと思うと、紙の人形が見る見るうちに人に変化したのだ。
　全く人間と見分けがつかない、紙から生まれた者とは信じられない姿だ。
　しかも衣服まで着ているのだ。

「旦那様、お呼びいただき感謝いたします。
　何なりとお申し付けくださいませ。
　うむ、ここで治療を受けている者達のために食事を用意してくれ。
　お前達四人には私とアリアンナの給仕をしてもらう。
　ああ、襲ってくるものは容赦なく返り討ちにしろ。
　手加減は無用だ、殺して構わない」

「承りました、旦那様」

　アリアンナは今度こそ腰が抜けそうなくらい驚いた。
　伝説では紙人形に魂を吹き込んで使役する呪術があると聞いたことはあったが、あくまでも神話の話で、現実にはあり得ないと思っていたからだ。
　それが目の前で行われたことで、自分を助けてくれた皇叔は、神話レベルの呪術師魔法使いなのだと理解した。