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征夷副大将軍

第109話一八三二年、ロシアの現状

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 ロシアは三方面で戦いで苦境に陥っていた。
 ポーランドとの激戦が続いていたし、コーカサスでの戦いも続いていた。
 これに加えて松前藩の騎馬部隊や犬ぞり部隊、トナカイそり部隊がシベリア方面からウラル山脈をうかがい、ロシア軍駐屯地とコサック村を襲撃していた。
 安全を最優先する松前藩の攻撃は嫌がらせ程度で、ウラル方面や西部シベリアのロシア軍を、ポーランドやコーカサスに移動できない程度の効果しかなかった。
 だがポーランドとコーカサスは連動して戦い、常にロシア軍が一方に大攻勢をかけられないようにしていた。

 松前藩では、アムール川支流のビラ川やゼヤ川沿岸と周辺地域に入植していたコサックを襲撃したが、基本は皆殺しだった。
 だが、ロシアを裏切って密偵として働く気のあるモノは許した。
 壊滅状態にあるウクライナ・コサックを松前藩の騎馬部隊に組み込むためだった。
 許した者が逃亡したとしても、追放刑にしたのと同じで実害はなかった。

 松前藩はトルコに逃げ込んだウクライナ・コサックの残党、ドナウ・コサックとロシア・コサックの一派であるヘクラソフ衆を調略して味方に加えようとしていた。
 クバーニ地方の防衛を担当するクバーニ・コサックも調略しようとしていた。
 ポーランドの十一月蜂起、トルコとの戦争、コーカサスでの戦いに参加しているクバーニ・コサック内から裏切者が出れば、ポーランドとコーカサスでの戦いが続き、松前藩のシベリア侵攻が有利になるのだ。

 コーカサスでの戦いでロシアを消耗させるためには、ロシアがウクライナのコサックをモデルに設立した、半農武装集団のロシア・コサックを弱体化させる必要があった。
 そのうち松前藩が領土化を進めている地域にある、ザバイカル・コサック、アムール・コサックなどは軍団化して強大になる前に殺すか調略することができた。

 問題はドン・コサック、ウラル・コサック、テレク・コサック、アストラハン・コサックといった、すでに軍団化され強力な戦力となっているコサック軍だった。
 彼らが少しでもポーランドやコーカサスに投入されないように、投入されても味方の裏切りを警戒して全力が出せないように、松前藩の味方に付いたコサック衆を調略の使者に送った。
 
 松前藩としては、別に彼らが再度寝返ってくれても構わなかった。
 コサックの理想、音楽と自由のある生活、その生活を護るためのしぶとさ、人生の儚さと死の覚悟した戦いの生活、コサック・ママーイ。
 生き残るためには恥を考えずに逃げだす、コサック逃亡の伝統を知っていたので、圧倒的な戦力を投入できるようになれば、戦わずに勝てると考えていた。
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