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第一章

第64話:忠臣コーム・リアナ視点

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 兄上様がとんでもない事を考えておられます。
 事もあろうにコームを私の配偶者候補に選んでいます。
 何一つ口にしてはいませんが、目や態度を見れば私には分かるのです。
 確かにコームは、今まで会った王国貴族とは比べものにならないくらい、思慮深く武勇も飛び抜けた男ですが、兄上様に比べれば大きく見劣りしてしまいます。

 それに、コームには子供の頃に決められた婚約者がいるのです。
 コームの婚約者コリンヌは、取立てて目立つ女性ではありませんが、悪い評判を全く聞きません。
 コームはとても有望な存在ですから、コリンヌに少しでも悪い所があれば、コームと縁を結びたい者が率先して悪評を流すはずです。
 悪い噂がないという事は、とても素晴らしい女性である証拠です。

 相思相愛の関係だとしたら、無理矢理別れさせるなど絶対に許されない事です。
 マライーニ王家から無理矢理婚約を辞退するように圧力をかけられ私が、家臣の婚約者を奪うなど、絶対にやってはいけない事なのです。
 例えマライーニ王家との婚約解消を私が心から望んでいたとしてもです。
 そんな事は私と兄上様以外誰も知らない事です。
 それを理由の一つにしてマライーニ王家と絶縁したのですから。

「兄上様、兄上様らしくない馬鹿な事を考えないでくださいね。
 コームとコリンヌが相思相愛の仲なら、それを引き裂くような悪事をなせば、兄上様も私も歴史に悪名を残すことになります。
 もし陰で嫌い合っていたとしても、そんな事は理由になりません。
 マライーニ王家に婚約辞退するように圧力をかけられたことが、女王戴冠のきっかけになったのですよ。
 そんな私と兄上様が、マライーニ王家と同じように家臣に婚約辞退するように圧力をかけなど、絶対にやってはいけない事ではありませんか」

「そんな事は考えもしていないよ、リアナ女王。
 確かにコームはリアナに相応しい漢だから、女王の王配に選ぶかもしれない。
 だがそのために婚約を辞退させようとは思っていないよ。
 リアナ女王の王配になったとしても、コリンヌとも結婚してもらうよ」

 まさかとは思いますが、兄上様はコリンヌを側室扱いにする心算ですか。
 それはそれで大問題になると思います。
 あ、なんとなく兄上様の考えていることが分かってきました。

 私の王配にするコームは、兄上様が統治するゴードン王国に仕えるブノワの息子として、侯爵が公爵当たりの爵位を与えるつもりです。
 コリンヌと結婚するコームは、私が統治するロスリン王家に仕えるクレマンの孫として、伯爵程度の爵位の貴族同士の結婚にする心算です。
 そんな二重結婚のような真似は絶対にさせません。
 それに兄上様以外の男には、手を触れられるのも絶対に嫌です。
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