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甘々のストロベリー担々麺
041:熟睡中の勇者、精気を狙う一つの影
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ある日の深夜の出来事――
いつものように仕事を終えた勇者は、絶賛隠居中の隠れ家で疲労を癒すため睡眠を取っていた。
腹を出して「まーちゃん、むにゃむにゃ……」と寝言を吐きながらの熟睡だ。
そんな勇者を紫紺の瞳を揺らしながら見つめている一つの影があった。
(嘘でしょ。嘘でしょ。嘘でしょ……ものすごい精気を感じたから来てみたら……まさか行方不明の勇者を見つけてしまうとは……)
彼女は驚きと困惑の感情に心が支配されかけていた。
完全に支配されなかったのは別の感情も混ざっていたからだ。
「……ハァハァ」
興奮。彼女は興奮しているのだ。
と思っていたら、じゅるり、と涎を啜り、首を横にぶんぶんと振り始めた。
直後、彼女は冷静さを取り戻す。
(ダメダメダメ。国に勇者を見つけたって報告しないと。国にとって一大事よこれは……でもちょっとくらいはいいよね……こんなに栄養がたくさん……いいえ、ダメよ! 三年以上も行方不明だったんだから、今すぐに報告しないと……でも、今夜の私の栄養はどうなっちゃうの? いいえ、私なんかよりも国よ! でも栄養が……でも国のために報告を……でも栄養が…………あーもう――!!)
彼女は葛藤していた。
「……ハァハァ……じゅるり……」
息を荒げ涎を垂らし、熟睡中の勇者に触れようとしている。
それでも中々触れないのは己の中の正義感と葛藤しているからだ。
しかしその状態はいつまでも続かない。
抑えられない衝動が彼女を動かす。
「ちょっとだけ……ちょっとだけならいいよね?」
興奮した面持ちで勇者に触れた。
その瞬間、彼女の姿が消えた。
彼女は勇者の中に――勇者の夢の中に入ったのだ。
そう。彼女は淫魔――サキュバス。男性の精気を栄養とする悪魔族の一種だ。
背中に蝙蝠のような小さな羽根を生やし、尻尾の先がハートのような形になっている。布面積が少なく、下腹部には淫紋が刻まれているのが見える。
彼女が――サキュバスが勇者の夢の中へと入ったのは、栄養を――勇者の精気を吸い取るためである。
「ここが勇者の夢の中ね。一体どんな夢を……!?」
紫紺の瞳に映った光景に衝撃を受けるサキュバス。
「え? なんで!? なんで……勇者の夢の中に……魔王が!?」
魔王と勇者が一緒にいる光景。それを見て衝撃を受けているのだ。
しかし魔王と勇者が一緒にいてもおかしくはないだろう。魔王と勇者は敵対関係にあり長きに渡って死闘を繰り広げていた関係にあるのだから。
そしてここは勇者の夢の中の世界。魔王を倒すためだけに戦ってきた勇者ならば、夢の中に魔王が登場してもおかしくないのである。
ではなぜサキュバスは衝撃を受けているのか。
それは魔王と勇者の行動がなんでもありの夢の中だからと言っても、あり得ないと思ってしまうような行動を取っているからだ。
その行動とは……
「まーちゃん、まーちゃん」
「ゆーくん、ゆーくん」
「今日も大好きだよ。世界一大好きだよ」
「妾も大好きなのじゃ。世界で一番大好きなのじゃー」
手を握りながら愛の言葉を交互に掛け合う魔王と勇者。その姿はまるで初々しいカップルのようだ。
現実世界でも夢の中でも平常運転と言いたいところだが、それを知らないサキュバスからしたらこの光景に衝撃を受けるのは必然であろう。
「う、嘘……勇者って……魔王のことが好きなの!? じゃ、じゃあ世界大戦で戦ってたのは何? ど、どう言うことなの? なんなのこの夢は!?」
取り乱しているサキュバス。彼女にさらなる追い討ちがかかる。
「そ、それにこの変な場所は何? 夢にしては鮮明ね。もしかして現実にもある場所なの?」
サキュバスの紫紺の瞳に映っている変な場所とは、担々麺専門店『魔勇家』の店内のことだ。
「この大量の料理も何!? 見たことがない料理なんだけど……」
見たことがない料理とは担々麺のことだ。
担々麺専門店『魔勇家』で提供している担々麺がテーブルの上に置かれているのである。それも異常なまでの数が。
担々麺のことを知らないサキュバスにとっては、理解が追いつかない状況である。
「魔王以外の登場人物も異様ね……夢の中だからと言ってもここまで異様な登場人物は初めてよ……」
勇者の夢の中の登場人物は、エルフ、女剣士、女魔術師、鬼人、正義の盗賊団、龍人、邪竜、羊人――担々麺専門店『魔勇家』の常連客たちだった。
そう。勇者は夢の中でも仕事をしているのだ。
担々麺専門店『魔勇家』の店内も、常連客たちも、担々麺も全てが現実世界と全く同じ。
記憶力が長けている勇者だからこそ、夢の中でも寸分違わずに再現できているのだ。
一つだけ違うところがあるとすれば、魔王とのイチャイチャ度だけだろう。
「大好きだよ。まーちゃん」
「妾も大好きじゃ。ゆーくん」
現実世界でもイチャイチャはしているのだが、ここまではしていない。
夢というのもあって勇者の願望や欲望が一歩前に出てしまっているのかもしれない。
「勇者が魔王のことを……それに大量の知らない料理、異様な登場人物と異様な場所……夢だってわかってるけど……わかってるけど……こんなに情報量が多い夢は初めて……」
サキュバスは情報量の多さにしばらくの間、呆然と立ち尽くしたのだった。
いつものように仕事を終えた勇者は、絶賛隠居中の隠れ家で疲労を癒すため睡眠を取っていた。
腹を出して「まーちゃん、むにゃむにゃ……」と寝言を吐きながらの熟睡だ。
そんな勇者を紫紺の瞳を揺らしながら見つめている一つの影があった。
(嘘でしょ。嘘でしょ。嘘でしょ……ものすごい精気を感じたから来てみたら……まさか行方不明の勇者を見つけてしまうとは……)
彼女は驚きと困惑の感情に心が支配されかけていた。
完全に支配されなかったのは別の感情も混ざっていたからだ。
「……ハァハァ」
興奮。彼女は興奮しているのだ。
と思っていたら、じゅるり、と涎を啜り、首を横にぶんぶんと振り始めた。
直後、彼女は冷静さを取り戻す。
(ダメダメダメ。国に勇者を見つけたって報告しないと。国にとって一大事よこれは……でもちょっとくらいはいいよね……こんなに栄養がたくさん……いいえ、ダメよ! 三年以上も行方不明だったんだから、今すぐに報告しないと……でも、今夜の私の栄養はどうなっちゃうの? いいえ、私なんかよりも国よ! でも栄養が……でも国のために報告を……でも栄養が…………あーもう――!!)
彼女は葛藤していた。
「……ハァハァ……じゅるり……」
息を荒げ涎を垂らし、熟睡中の勇者に触れようとしている。
それでも中々触れないのは己の中の正義感と葛藤しているからだ。
しかしその状態はいつまでも続かない。
抑えられない衝動が彼女を動かす。
「ちょっとだけ……ちょっとだけならいいよね?」
興奮した面持ちで勇者に触れた。
その瞬間、彼女の姿が消えた。
彼女は勇者の中に――勇者の夢の中に入ったのだ。
そう。彼女は淫魔――サキュバス。男性の精気を栄養とする悪魔族の一種だ。
背中に蝙蝠のような小さな羽根を生やし、尻尾の先がハートのような形になっている。布面積が少なく、下腹部には淫紋が刻まれているのが見える。
彼女が――サキュバスが勇者の夢の中へと入ったのは、栄養を――勇者の精気を吸い取るためである。
「ここが勇者の夢の中ね。一体どんな夢を……!?」
紫紺の瞳に映った光景に衝撃を受けるサキュバス。
「え? なんで!? なんで……勇者の夢の中に……魔王が!?」
魔王と勇者が一緒にいる光景。それを見て衝撃を受けているのだ。
しかし魔王と勇者が一緒にいてもおかしくはないだろう。魔王と勇者は敵対関係にあり長きに渡って死闘を繰り広げていた関係にあるのだから。
そしてここは勇者の夢の中の世界。魔王を倒すためだけに戦ってきた勇者ならば、夢の中に魔王が登場してもおかしくないのである。
ではなぜサキュバスは衝撃を受けているのか。
それは魔王と勇者の行動がなんでもありの夢の中だからと言っても、あり得ないと思ってしまうような行動を取っているからだ。
その行動とは……
「まーちゃん、まーちゃん」
「ゆーくん、ゆーくん」
「今日も大好きだよ。世界一大好きだよ」
「妾も大好きなのじゃ。世界で一番大好きなのじゃー」
手を握りながら愛の言葉を交互に掛け合う魔王と勇者。その姿はまるで初々しいカップルのようだ。
現実世界でも夢の中でも平常運転と言いたいところだが、それを知らないサキュバスからしたらこの光景に衝撃を受けるのは必然であろう。
「う、嘘……勇者って……魔王のことが好きなの!? じゃ、じゃあ世界大戦で戦ってたのは何? ど、どう言うことなの? なんなのこの夢は!?」
取り乱しているサキュバス。彼女にさらなる追い討ちがかかる。
「そ、それにこの変な場所は何? 夢にしては鮮明ね。もしかして現実にもある場所なの?」
サキュバスの紫紺の瞳に映っている変な場所とは、担々麺専門店『魔勇家』の店内のことだ。
「この大量の料理も何!? 見たことがない料理なんだけど……」
見たことがない料理とは担々麺のことだ。
担々麺専門店『魔勇家』で提供している担々麺がテーブルの上に置かれているのである。それも異常なまでの数が。
担々麺のことを知らないサキュバスにとっては、理解が追いつかない状況である。
「魔王以外の登場人物も異様ね……夢の中だからと言ってもここまで異様な登場人物は初めてよ……」
勇者の夢の中の登場人物は、エルフ、女剣士、女魔術師、鬼人、正義の盗賊団、龍人、邪竜、羊人――担々麺専門店『魔勇家』の常連客たちだった。
そう。勇者は夢の中でも仕事をしているのだ。
担々麺専門店『魔勇家』の店内も、常連客たちも、担々麺も全てが現実世界と全く同じ。
記憶力が長けている勇者だからこそ、夢の中でも寸分違わずに再現できているのだ。
一つだけ違うところがあるとすれば、魔王とのイチャイチャ度だけだろう。
「大好きだよ。まーちゃん」
「妾も大好きじゃ。ゆーくん」
現実世界でもイチャイチャはしているのだが、ここまではしていない。
夢というのもあって勇者の願望や欲望が一歩前に出てしまっているのかもしれない。
「勇者が魔王のことを……それに大量の知らない料理、異様な登場人物と異様な場所……夢だってわかってるけど……わかってるけど……こんなに情報量が多い夢は初めて……」
サキュバスは情報量の多さにしばらくの間、呆然と立ち尽くしたのだった。
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