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グッズ専門店

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※※※※

 そんなこんなで日曜日がやってきた。

 朝から私より敦さんがソワソワしていた。

「あんまり遅くならないでくださいね」

「分かってるわ」

「男の店員さんには近寄らないで下さいね」

「ええ」

「困ったことがあったらすぐ連絡して下さい」

「はーい」

「知らない人についていかないで……」

「大丈夫だって。雪華さんも一緒だし」

 さすがの私も呆れてしまった。

「そんな遠くに行くわけじゃないのよ。それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい……」

 不機嫌そうに見送る敦さんを気にしないようにして私は家を出た。



 時間ピッタリに待合せ場所に着いた。

「お待たせ」

 先に待合せ場所にいた雪華さんに私は駆け寄った。

「おはようございます。来るとき旦那様に何もいわれませんでしたか?」

「すっごく注意事項を淡々と言われたわ」

「まあ、それは予想通りですね。付いてきている気配はありますか?」

「気配は無いけど。GPSもあるし、あとから来るんじゃないかしら」

「うー、ケータイ落としたふりでもしてどこかに置いていっちゃいません?」

「さすがにそこまでしないわよ」

 私は苦笑いした。

「そういえば、誘ったけどやっぱり鈴川さんに断られちゃったわね」

 私は思い出したように言った。

「そんなの、美香さんのせいですよ。『夫の浮気相手と日曜日遊びに行くんだけど一緒に行かない?』なんて誘い方するから……」

「冗談だったのに」

「冗談言ってる顔じゃなかったですよ。私、立場的にドギマギしたんですからね!」

 雪華さんが憤慨して私に文句を言う。

「ごめんごめん、しばらく人付きあいしてなかったから、冗談の言い方がわからなくなっちゃって」

「そういう言い方されると、なんにも言えないです」

 雪華さんはむくれた顔をしたが、すぐにまた笑顔になってくれた。

「ま、今日はとりあえず楽しみましょう」

「そうね、まずは予行練習……」

「予行練習はあとで!とりあえずショッピング行きますよ!」

 そう言うと、雪華さんはノリノリで先にたってあるき出したので、私は慌ててついて言った。



 結構若い子向けのファッションビルの中に意気揚々と入っていく雪華さんを、私は必死で追いかけた。

「雪華さん、こういうの好きなの?」

 高校生や大学生の女の子達が多く歩いている売り場をのぞき込んだ。やっぱり若い子ね、と思っていたけど、雪華さんは笑いながら首を振った。

「違いますよお、男の人が一人で居づらそうなとこに入ろうと思って。ほら、旦那様がついてきてたらすぐにわかるように」

 なるほど、と私は頷いた。

「それにしても、このファッションビル入るの、学生の時以来よ。随分とお店も変わったわねえ。」

 私は案内板を見ながら唸った。

「あ、私このお店行きたいかも」

「行きましょう行きましょう」



 こうして私達は店内のウインドウショッピングを楽しんだ。

「ところで美香さん、今のところ、旦那様付いてきている気配はありますか?」

 しばらくしてから、雪華さんは私に身を寄せてこっそりと尋ねた。言われて私は辺りを見渡した。

「うーん、今のところ見当たらないけど」

「そうですか、あ、美香さん、私ちょっとこっちのお店行きたいんですけど」

 なんとなく演技がかった様子で、雪華さんは私を急がせるように引っ張った。

「そうそう、私この雑貨屋が見たくてぇ」

 白々しい口調で連れてこられた雑貨売り場は、ごく普通のオシャレショップ。

 そして、その近くに――

「せ、雪華さん、こ、この街に、こんなお店いつの間に出来てたの」

 私は、雪華さんの袖を引っ張りながら、オシャレ雑貨屋の向かいにある、ゴチャゴチャしたお店を指差した。

「あー?あれ?知りませんでしたー。面白そうなお店ですねぇ」

 雪華さんはニヤニヤしている。絶対に知ってて案内したでしょ!

 そう、アイドルグッズ専門店に!!



 ショップの前で私は怯んだように立ちすくんでいた。

「私、こっちのお店見てるんで、そっち見ててもいいですよ」

 雪華さんは私の背中をポンと押した。はっと我に返って私はキョロキョロと辺りを見渡す。

「……でも……」

「一応周り見ましたけど、旦那様付いてきてなさそうでしょう?」

「……そう、だけど」

 罪悪感と、目の前にチラつくお宝の数々……。

「買わなくても、見るだけ見たくないですか?」

 雪華さんが悪魔の囁きをしてくる。更に

「あ、そうそう。わたしは先にトイレ行きたいんだった。このフロアのトイレじゃなくて向こうのちょっと遠くのフロアのトイレ行ってこようかなー」

 と言って、手を出してきた。

「美香さんの携帯、その間貸してください。ちょっと持ってあっちのフロア行ってきます。念の為、です」

 携帯のGPSを誤魔化そうとしてくれているのね。そんな至り尽くせりされちゃったら……。

「お、おねがいします」

 私は抗うことが出来ずに、雪華さんに携帯を渡した。雪華さんはフフ、と、笑う。

「じゃあ十五分後くらいしたら戻りますのでー」

 そう言って、雪華さんは颯爽と別フロアへ行ってしまった。



 雪華さんの後ろ姿を見送ると、私は目の前のアイドルグッズ専門店へ足を踏み入れた。そしてすぐに星川良馬を探し出すのだった。

 

――十五分後

「美香さん、もうお店出てたんですね」

 口実のトイレから戻ってきた雪華さんが、近くのベンチに座っている私を見て意外そうな顔をした。

「十五分なんて短いかと思ってたんですけど」

「いいえ、違うの」

 私は私は力なく首を振った。

「理性が、飛びそうで」

「は?」

 雪華さんがポカンとしたので、私は少し気まずくなりながら言い訳するように言った。

「何年かぶりに、ああいうグッズを見たら……写真とか、欲しくなっちゃって……」

「はあ、まあそうなりますよね」

「でも、買ったらレシート問題があるし……。それに買っても家に持っていけないし」

「隠しておいたらどうですか?それか、会社に置いておくとか」

「嫌。バレてまた燃やさなきゃだめになったら……良馬くんが可哀想」

「まあ、そうですね」

 雪華さんが少し残念そうな顔になったので、私は慌てて言った。

「せっかく連れてきてくれたのにごめんなさいね。でも面白かったわ。お店の中で興奮しすぎて鼻血出たわ」

「マジですか、なんかそう言えば美香さんちょっと鼻赤いなと思ってたんですよ!」

「やだっ、まだ付いてる?」

 私が急いで鞄からティッシュを取り出そうとする前に、雪華さんは笑いながら「嘘ですよ」と言った。

「そんなお店の中で流血騒動しているなんて思ってもいませんでした。やっぱり美香さん面白いですね」

 面白がられてもね。

 私は念の為もう一度ティッシュで鼻を拭った。


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