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エコバッグ

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 会社の外では、いつものように敦さんが待っていた。

「お待たせ」

「じゃあまたいつもの公園に行来ましょうか。あれ?そのエコバッグはどうしたんですか?」

 敦さんがすぐにエコバッグに反応した。

「これ?会社のノベルティの余ったやつなんですって。イベントで結構大量に配ったみたいよ。そういえば、今日来るときもこれ持ってる人見たけど、敦さん気づかなかった?」

「全然気づかなかったです。結構派手なんですけどね。僕は美香さんしか見てなかったから」

 うん、そうよね。敦さんはそういう人よね。

 まあ、朝このエコバッグ持ってる人見たなんて嘘だけどね。


 二人でいつもの公園に行き、ベンチに座ってお弁当を広げて食べた。ちなみに今日のお弁当には、トマトが入っていない。

 食べ終わった弁当を片づけて、二人でボーッとおしゃべりしながら過ごしていたとき、あ、と敦さんが声を上げた。

「美香さん、本当にいましたよ。同じエコバッグ持ってる人」

 敦さんは公園にたった今入ってきた若い女性に目をやった。

「やっぱり、派手だからすぐわかりますね」

 女性は、こちらに気づくと、自分と私のエコバッグを交互に見て、恥ずかしそうに会釈してきた。

「ふふ、なんだかこうしてすれ違ったりすると、ちょっと恥ずかしいわね。お揃いみたいで」

「……ズルい」

 お揃い、という言葉に反応したのか、敦さんは不貞腐れた。

「まあ、あんまり今後使わないようにするから。私もちょっと恥ずかしくなっちゃったから」

 私が慌てて言うと、敦さんはコクンと頷いた。

「じゃあ、私そろそろ行かないと。あ、会社帰る前にトイレ行ってくる」

 私はエコバッグを持って立ち上がった。

 目の前を見ると、あの同じエコバッグの女性とトイレに向かっていた。


 トイレから戻り、公園を出て、会社に向かう。会社に着く一歩手前で、私は、あっ!と声を上げた。

「なんか重いと思ったら……、これ私の荷物じゃない」

 そう言ってエコバッグを覗いた。中には小冊子のようなものが数点入っていた。

「やっぱり。どうしよう。さっきトイレに行ったとき、取り違えちゃったみたい」

「見せて」

 敦さんがエコバッグを受け取って中を覗いた。中身を確認するように少し手を入れて見ていたが、突然サッと顔色が変わってバックの口を閉じた。

「ど、どうしたの?」

「これは危険物です」

「そんなわけないでしょう」

 さすがにエコバッグに危険物入れたりはしないでしょ。

「私にも見せて」

「だ、だめです!!」

 敦さんは大げさに首を振った。

「これは美香さんには目の毒です!」

「め、目の毒?」

 その時、敦さんのスマホが鳴った。

「あれ?美香さんからの着信だ……」

「え?どういう事?」

 私は敦さんのスマホを覗く。画面には確かに、私からの着信が出ていた。

「もしもし?」

 敦さんが、私にも聞こえるように、スピーカーにして電話に出た。

『もしもし、あの……この電話の持ち主のお知り合いの方ですかね?』

 聞こえてきたのは女性の声だ。

「バック取り違えた人ですか?」

『そ、そうです、ごめんなさい』

「いえ、こちらこそ。今から取りに行きますか?」

『あ、いえそれが、今から私、用事があって、すぐに行かないと駄目なんです』

「そう、ですか」

『私の方は財布も携帯も入ってなかったのでいいのですが、こちらの携帯の方はすぐに返した方がいいとは思うんですが……』

「別に大丈夫よ。これからあとずっと会社にいるだけだし、帰りは敦さん迎えに来てくれるしね」

 私は電話口の人の困ったような口調を聞いて、敦さんに言った。敦さんはため息をついてから電話口の人に言った。

「こちらは大丈夫です。用事は何時頃終わりますか?」

『六時くらいです』

「わかりました。じゃあそれくらいに荷物の交換をしましょう」

 敦さんは電話を切ると、私に言った。

「そんなわけだから、帰りに一緒に取りに行きましょうか」

「分かったわ。ごめんなさい、私の不注意で迷惑かけて」

「いいよ。向こうもお互い様でしょうし」

 そう言って敦さんは自分のスマホをいじる。

「あ、電源切られちゃった。今どこにあるのかGPSで確認しようと思ったのに」

「これから用事があるって言ってたし、携帯の電源入ってちゃだめなところに行くのかもしれないわね。病院とか?」

「じゃあ仕方ありませんね」

 敦さんは何度めかの大きなため息をついた。そんな敦さんを後目に私は会社に戻っていった。


 会社の自分の席に戻る。昼休みなので誰もいない。さっさと荷物を持って最後の仕上げに取り掛かる。その時だった。

「か、神田さん!」

ゼーハーと荒い息をした鈴川さんが現れた。走ってきたようで顔が真っ赤だ。

「ど、どうでしたかね?うまくいきました?」

「バッチリ」

 私は手で丸を作ってみせた。

「これでGPSの問題は完全に大丈夫ですね」

「正直、こんな面倒な事しなくても、携帯会社に置いておくだけで充分だった気もしないでも無いけど……」

「この作戦は先を見据えてるんです」

「そうみたいね」

 私はそう言った。


 そう、あの同じエコバッグを持っていた女の人は鈴川さんである。私達はトイレでわざとお互いの荷物を交換した。これで、私はGPS付きスマホから開放されることができる、という計画だ。

 また、GPS問題の他にも、これをすることによっていいことがあるのだ。

「ところで、鈴川さんの持ってたエコバッグには何が入ってたの?夫の顔色スゴいことになってたんだけど」

 私はふと疑問に思ったことをたずねた。しかし鈴川さんはニコニコ微笑んでいるだけで何も言わなかった。

「な、何が入ってたの……」

「大したものじゃないです。私の黒歴史というか……、まあそんなことどうでもいいじゃないですか」

 鈴川さんはそれ以上質問を受け付けないようだった。

「あとは、夫が会社に直接電話かけてこないかだけが心配だけど。一応緊急時以外は会社にかけてこないように約束してあるから大丈夫だとは思うけど」

 私が不安そうに言うと、鈴川さんも困った顔をした。

「私もそれ心配したんですけど、石川さんは大丈夫だっていってましたよ。理由は教えてもらえませんでしたけど」

「そう」

 雪華さんが何か企んでくれているらしい。信じるしかないわね。

「じゃあ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい。また後で」

 鈴川さんはひらひらと手を振った。

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