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エンドロールという名の蛇足
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日下部祐希はその日、友人である石川雪華と居酒屋にいた。
「ところで、あの前の映画に行くとかどうのこうのっていうのはうまくいったみたいだな」
日下部は、ビールを飲みながら言った。石川はニヤリとしながら頷く。
「先輩のおかげで」
「それにしても、神田がそんな束縛するやつだったとはなあ」
日下部は考えこむように言った。
「なんっつーかむしろ女の子に興味あるとは思わなかったからなあ。俺なんて結婚だって信じてなかったし」
「それはさすがに失礼じゃないですか」
石川は呆れ顔になる。日下部は慌てて言い訳した。
「だって、結婚したとか言っても全然写真すら見せてくれないんだぜ。誰の目にも晒したくないとか言ってさ。冗談だと思ってたけど、まさかあれが本気だったとはなぁ」
「私もびっくりです。あ、でも、神田先輩に直接そのこと言ったり、やめたほうがいいとか言わないでくださいよ」
「ああ?少し注意したほういいんじゃないのか?奥さんに逃げられるぞ」
日下部の言葉にチッチッチ、と指を振って、石川は言った。
「いいんです。美香さんだって、ああ見えてなかなか嫉妬深いし、まあお似合いなんですかから。我々が口出す問題じゃないです」
石川の言葉に、渋々、といった様子で日下部は頷いた。
「まあな。でもこれっきりにしろよな」
「まあ、当分は」
飄々とした表情で石川は返事をした。
「当分ってなんだよ。ていうか俺は凄く心が痛いんだから。隠し事の片棒かついでんの。映画くらいちゃんと説得して堂々といくべきだろ。だいたいこれこそ他人が口を出す問題じゃない」
口をとがらせて文句を言う日下部に、石川は呆れ顔で言った。
「そんな正論はいりませんー。だいたい、自分だって昔、こっそりアイドルのライブ行ったのがバレて彼女に振られたことあるくせに」
「そ、それはちょっと違うだろ。あのときは付き合った記念日だかにライブの日が被ってて、言ったら反対されるのがわかってたからこっそり行ったんだ」
「それで結局バレて別れちゃったんでしょう?」
勝ち誇ったように石川は言う。
「事前に話し合ってたらどうでしたかね?絶対にライブなんか行かせてもらえませんでしたよ。それで、だんだん日下部先輩に不満が溜まって結局別れちゃうんですよ」
「悲しいこと言うなよ。結局別れちゃうのかよ」
「だから!一番いいのは、バレないことなんです!」
石川は堂々と言い放った。日下部は大きなため息をついた。
「なんか、悪いやつだなお前は」
「あらーそんなこと私に言ってもいいんですかぁ?日下部先輩が私にくれたオリジナルラブソングが吹き込まれたデータまだ持ってるんですからねー」
「なっ!!まだ本性に気づいてなくて騙されてた頃の黒歴史をお前は……」
「騙してなんかないですもん」
石川はビールを口に含んでニヤリと笑った。
日下部の事はうまく行けばまだ協力してくれるだろう。なんやかんやで日下部は石川に甘いのだ。
美香は映画の続編を見たいと言っていた。それはもちろん見せに行こう。そう石川は思った。
あとは、最終目標は、美香を星川良馬のライブに連れて行くことだ。難易度は相当高い。でも時間をかけて計画すればなんとかなるだろう。
すっかり石川は美香に夢中だ。
なんとなく神田先輩の気持ちが分からなくもないな、なんて石川は思った。
ふと石川は、美香から預けられているアクリルキーホルダーを取り出した。
「ねえ、神田先輩って、俳優の陣野秋吉に似てると思います?」
「いや、全然違うだろ」
「ふふ、ですよねぇ。かわいいなあ美香さんは」
そう笑って、キーホルダーをそっと撫でるのだった。
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