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異世界居候編
28.短い間でもこうなるのは人柄が良いのが集うから(1)
しおりを挟む一ヶ月が過ぎた。
明日が夏の第二期最終日。空は晴れ渡り、非常に清々しい。
蝉の鳴き声がないことにもいい加減慣れた。日本にいた頃には暑さが増すように感じて煩わしく思っていたが、なければないで、意外と寂しいものなのだと知った。
この一ヶ月で変わったことがいくつかある。そうならなければ問題という話なのだが、それぞれの関係性がより親密になった。
それを分かりやすく示すのが呼び名。俺は心の中でもリンドウ一家に敬称を付けるようになり、カタセ君のことはヤス君、マツバラさんのことはサクちゃんと愛称で呼ぶようになった。
そういった形の親睦の深め方に最も苦労していたのはサクちゃんで、俺とヤス君に話すときの敬語が中々剥がれなかった。元々あまり喋る方でもないので、矯正する側の俺たちも大変だった。
だが努力の甲斐あり今はしっかり敬語と敬称がめくれ落ち、呼び方も名前に変わった。以前より口数も多く話しやすそうにしている。
俺は最年長だが、現在は最年少なのでヤス君にも敬語と敬称は不要と言ったのだが「流石に今更でしょ」と暗に断られた。
確かに、俺とヤス君はそれなりに付き合いが長い。同じマンスリーマンションの隣人という微妙な関係ではあったが、初めて顔を合わせてからはもう三年以上経過している。
そこまでいくと、急にタメ口というのは互いに戸惑うかもしれない。ただ、それでもカガミさんではなくユーゴさんと呼んでくれるようにはなったので、サクちゃんの変化に続き、とても嬉しく思っている。
一ヶ月の間、俺たちはマモリ見習いの二人と共に、リンドウさんから教えられた魔力量の増幅訓練と肉体の鍛練とを行ってきた。一応、俺たちもマモリ見習いと同等の扱いな為、肉体鍛練は義務として毎日課された。
ただ魔力増幅訓練に関しては、スミレさんとサツキ君も義務化されておらず、各々好きにやれとのことだったので、ヤス君とサツキ君はサボる頻度が高かった。
二人がサボる理由はオセロで遊ぶ為だった。器用なヤス君が三週間ほど前に薪を作る為の木材を利用して自作したもので、これがリンドウ一家で軽く流行った。
特にサツキ君は生まれて初めての娯楽に大喜びで、ヤス君との勝負を毎日のように楽しんでいた。
ヤス君はサツキ君に意思疎通の為の簡単な自作手話も教えていて、俺も料理中にしっかりその恩恵に預かっている。
サツキ君の言いたいことを僅かでも知ることができて喜んでいるのは、俺だけでなくスミレさんも。本当に良いものを作ってくれたと感謝している。
しかし、改めて思う。ヤス君とサツキ君は傍目に見ても歳の離れた兄弟にしか見えない。それほどに仲がよいし、ちょっとした場面でも信頼関係が築けているように感じることがある。
それもこれも、やはり同じ部屋で寝起きしているからこそなのかもしれない。
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