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アルネスの街編
3.スミレさんが女子会を楽しんでるのは多分本当(3)
しおりを挟む「リンドウ様は特権階級というものを便利な身分証明程度にしか考えておられませんし、どちらかと言えば、むしろ煩わしく思っておられます。『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』の教えに従っておいでですので」
スミレさんはここで一旦言葉を区切り「それとこれは、飽くまで念の為に言っておくことになりますが、どうかお気を悪くしないでくださいね」と念押ししてから話を続けた。
「これらの話は、皆さんから説明を求められた際、別に話しても構わないとリンドウ様がおっしゃられたので話したことで、本当は一家全員が知られたくないことなのです。ですので、リンドウ様に関わる話は他言無用でお願いします」
スミレさんが頭を下げたが、そんなお願いなどされなくても俺たちはそうするつもりでいた。というのも、森に住んでいるという時点で、身を隠さねばならないような事情を抱えているのでは、と渡り人組で話していたからだ。
お世話になった人たちが困るような真似はしたくないので、元々誰にも話す気はなかったという訳である。
そんなことより、俺は話の中に福沢諭吉の名言が出たことに気を取られていた。イノリノミヤ渡り人説がより信憑性を増したように思え、俺は若干の胸の高鳴りを感じ、妙な興奮を味わっていた。
がしかし、それはそれとして、ちゃんと知っておきたいことはあった。
「あの、確認なんですが、公爵って、その、要するに、貴族が持ってる爵位の、一番上ってことですよね?」
「はい。魔素溜まりの処理はそのまま魔物の氾濫を抑えることに繋がりますから、その功績を讃えられ、四年前に国王陛下から公爵位を授与されたのです。リンドウ様は断固拒否されたのですが、不遜であると泣きつかれまして」
不遜であると泣きつかれる、という言葉の意味がまったく分からなかったので詳しく聞いたところ、国王は当時まだ四歳だったと判明。
「五年前、先王が病で崩御したのですが、その直前に次期国王と目されていた第一王子が『やりたくない』と王位継承権を放棄しまして、それを合図にするかのように、『じゃあ俺も』『じゃあ俺も』と世継ぎ候補が次々と王位継承権を放棄してしまったんです」
「えぇ……? どんな国っすかそれ?」
「ええ、その、少し変わった国なのです……」
スミレさんいわく、先王の遺言は『後継は初代様の教えに従え』というもので、その教えというのが『王なんてものはやりたい奴がやればいい。やりたくない奴にはやらせるな』というものらしい。
つまり、『やりたくない』という思いさえあれば王位継承権の放棄も『どうぞどうぞ』と容易く認められるようにできているとのこと。
なんだそれ。芸人じゃあるまいし。と、心で呟いたが、話はまだ続いていた。
先王は王妃との間に子がなく、本来であれば寵姫の子である第一王子以下が継ぐと思われていたのだが、即位するに足る年齢と能力を持った第七王子までのすべてが拒否。
その理由が、第一王子から順に『器じゃない』、『柄じゃない』、『胃が痛い』、『向いてない』、『面倒臭い』、『興味ない』、『関係ない』というものだったとか。
スミレさんが溜め息を吐く。
「国家運営に関しても王妃と宰相に丸投げしているような状況でしたので『今後も任せる』と」
「はぁ、すごい国もあったもんですね。後半にいくほど理由が酷いことになってましたけど」
「私もそう思います。それで、困り果てた宰相が、王妃にまだ幼い……当時三歳の第八王子を養子にとるよう提案し、言い方は悪いのですが、第八王子の実母である第四寵姫を丸め込み、第八王子を王妃の養子にすることを認めさせたのです」
結果、第八王子が王に相応しい人物になるまで、一時的に傀儡とすることで王国の体裁を保つ、という宰相と王妃の目論見通りにことは運んだらしい。
だが、一年の服喪期間を終え、国王即位の儀を済ませた辺りから悪い方へと転がり始めたとのこと。
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