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アルネスの街編

8.スミレさんが女子会を楽しんでるのは多分本当(8)

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 エドワードさんが苦笑しつつ口を開く。

「カレンダーについても、残念だが商業的に成功するような物ではないな」

 需要が極めて限定的なものになる上、紙もそれなりに高価。印刷まで行うとなると採算はとれないそうだ。

 それを聞いたヤス君は目に見えて落ち込んでいる。世知辛い世の中だ。

「ただヤスヒト、少々不出来ではあるが、材木から一人でオセロ盤を作ったのは凄いことだ。ましてそれで生活基盤を整えようとしていたとは。見上げた根性だ。だからそう肩を落とすことはない。誇っていい」

「そうですよ、私なんて思いつきもしませんでしたから」

「ほえー、オセロって渡り人の世界のゲームだったんだな。俺はこっちでできたもんだとばっかり思ってたぜ。ガキの頃から当たり前に遊んでたからな」

 ジオさんがオセロ盤を繁々と見ながら言った。王都から遠く離れたアルネスの街でも普及しているくらいだ。大昔に渡り人が持ち込み製品化していたということだろう。

 けどまさか、ヤス君がそんなことを考えていたとは。

 オセロ盤を売った金で生活基盤を整える。そういう考えがあったからこそ、リンドウ邸を出てもなんとかなると思っていたのかもしれない。

 黙っていたのは、俺たちを驚かせたかったか、糠喜ぬかよろこびさせないようにしたかのどちらかだと思う。

「すんません、リンドウさんたちが見たことないって言ってたんで、上手くいくと思ってたんですけど」

「いや、何言ってんの、気にしなくていいよ」

「そうだぞ。俺もユーゴも、最初からそういうことを当てにしてない。ヤスヒトが気を落とす必要はまったくない」

「でも、一文無しっすよ」

「ああ、なんだ。何を心配してるのかと思ったが金のことか。ミチル、受け取ったか?」

 ミチルさんが「はい、私のときと同じです」とにこやかに返事をして、ポケットから巾着袋を取り出し、俺たち一人ひとりに手渡す。少ないが、硬貨が入っている感触がある。枚数は、三枚。

「スミレちゃんから渡されてます。私は貰っちゃったんですが、皆さんは借金だそうです。『返済はいつでもいいし催促もしないけれど必ず返せ』ってリンドウさんからの伝言も預かってます」

 それを聞いて、俺はリンドウさんから「簡単に死ぬんやないぞ。どんだけかかってもいいから必ず生きて返しに来んと許さんからな」と言われた気がして少し涙腺るいせんにきた。

 金額も価値もまだ知らないので、安かったらそれはそれで大袈裟な話になるのだが、それでもここまでの環境を整えてくれていたことを思うと、足を向けて寝られない思いだった。

 その後、大した会話もなく無事に冒険者登録が行われた。俺は手にした冒険者証を見つめ、ようやくスタートラインに立てたと感慨深い思いに浸った訳だが、エドワードさんから食事に誘われたことで一瞬で現実に引き戻された。

 断れない誘いほど辛いものはない。会社の飲み会を思い出して気分はぶち壊し、自分でも驚くほどにげんなりした。

 先輩、上司まででもキツかったのに、領主って。

 もちろん、失礼にあたるので表情には出さなかった。長年培ったビジネスライクな愛想笑いが大活躍といったところだ。

 夕食時に、領主館から迎えを出すとのことだったので、それまではジオさんの指示を受けたミチルさんから今後についての説明を受けることになった。

 渡り人三人組の冒険者生活の始まりである。

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