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宿場町~裏社会編
38.勧誘する子供たちと楽しい模擬戦の時間(4)
しおりを挟むこれは、しんどいっ!
ナッシュの斬撃を躱したところに、クロエさんの突きがくる。線と点の切り替え、時間差のつけられた不規則な攻撃。
避ける方向を誤ればナッシュの攻撃の餌食になるのが分かっているので、視線をかなり忙しく動かす必要がある。
とはいえ、あまり避けすぎるとフィルに狙いを移される可能性もあるので、適度に掠らせたり拳で弾いたりをパターンに加える。
フィルが気になって一瞬視線を動かすと、よそ見厳禁とばかりにナッシュの斬撃が目前に迫っていた。
やっば!
慌てて後ろに跳んで両腕を交差させる。どうにか守りを堅めるが、間合いから逃れることはできなかった。
食らう、と覚悟を決めたが、斬撃を受ける寸前に「【風壁】!」というフィルの声。俺の目の前で強風が噴き上がり、ナッシュの剣が腕ごと持ち上げられた。
「ちぃっ!」
「おおお、助かった! うおっ!」
バックステップして距離を取った場所に、クロエさんが刺突を繰り出してくる。二発、三発と細かく位置をずらして突いてくるのが物凄く鬱陶しい。
腕の引き戻しと足の運びが速く、大きく避けないと致命打を食らいそうな予感がする。が、突然クロエさんがバク転で俺から距離を取る。それと同時に地面に見えない斬撃が走る。フィルの【風刃】だ。
「やるじゃないか!」
クロエさんが嬉しそうな声を上げるが、表情を確認することができない。俺は少し足を止めていた間に、ナッシュのバックラーでの攻撃を受けていた。
「やっと当たったぜ!」
くっそ!
ダンジョンで魔物から食らった攻撃よりも遥かに痛い。高々バックラーで殴られただけなのに、防御した腕がジンジン痺れている。
あー、これはもう仕方ない。我慢は体に毒だからね。
思うことがあり、敢えて術を使うのを避けていたが、負けず嫌い根性の導火線に火が点いて大爆発してしまった。小型の【過冷却水球】をナッシュの膝付近に設置する。
「なっ!」
当たった直後、足元にも置く。すぐにナッシュが踏んで氷結。思いっきり足を滑らせて転倒する。
「ナッシュ!」
突っ込んで来たクロエさんを細かいバックステップで避けつつ膝下辺りの位置に【過冷却水球】を置いていく。
当然、俺の目の前に配置しているので追い掛けるクロエさんにすべて衝突。一気に氷結し、こちらも転倒する。
俺は倒れたクロエさんを素早く組み伏せ、すべての氷結を解除する。証拠隠滅と同時にナッシュが立ち上がったが、フィルが「武器を捨ててください」と一言。
杖を向け【風刃】の発射準備を済ませているフィルを確認すると、ナッシュは武器を捨てて両手を上げた。
「参った。降参だ」
「それまで! 勝者フィル、ユーゴ組!」
「何が、起きた? 突然、凍ったが……」
驚いた表情のクロエさんに訊かれたが「秘密です」と言っておいた。ビンゴさんのありがたい話から得た教訓。ドグマ組のこともあるので、悪目立ちは避けたい。
少なくとも、エドワードさんと話をするまでは。
ナッシュは降参を宣言したときには呆れたような顔で笑んでいたが、どっかりと地面に腰を下ろすと大口を開けて笑いだした。
「マジかー! 負けちまったー! フッハハハ!」
観覧席に目を遣ると、ミリー、オライアス、トロアが口をあんぐり。あり得ない光景を見たと顔に書いてあるようで、俺はフィルに歩み寄りながら軽く笑った。
「お疲れ」
互いに言って、軽く手を打ち合わせる。
「ユーゴ、あんなに速く動けるんだね。びっくりしたよ」
「フィルも【風壁】だっけ? あれは驚いた。新術?」
「ううん、練習してたんだけど、使い所が難しくて使ってなかっただけ」
「へー、そうなんだ」
フィルと会話をしていると、サクちゃんとヤス君が歩み寄ってきた。四人で反省会をしようと思ったが、ヤス君とサクちゃんからは「良い連携だった」という褒め言葉しかもらえなかった。
「俺たちも負けてらんねーな」
「そっすね。じゃあ、ユーゴさん、俺はやりたいことできたんで行きますわ」
「俺も、今日は術の鍛練日にする。じゃあな」
二人が訓練場から出ていくのを見送る。何だか様子がおかしかったが、多分、俺たちの模擬戦を見て刺激を受けたのだと思う。
ヤス君辺りは何か閃いたような言い方だった。出来上がったら披露してくれるだろうから、それを楽しみに待つことにしよう。
「なぁ、ユーゴ、ちょっといいか?」
ナッシュがそう言いながら近づいてきた。クロエさんも一緒だ。先ほどまでとは違い、二人とも真面目な顔をしている。
「腕を見込んで、紹介したい人がいるんだが――」
なんだか、厄介ごとの匂いがした。
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