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海辺の開拓村編

13.相手が子供でも棍棒で殴られたらそりゃ折れる(1)

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 翌朝、カーテンの隙間から差し込むの光で目覚めた俺は、隣のベッドで寝息をたてているフィルを起こさないように、肌着のまま部屋を出た。

 足音を鳴らさないように配慮しつつ一階に降りて、【異空収納】から出した衣服と装備品を身に着ける。

 現在は素泊まり宿という経営形態の為、一階には誰もいない。物音を立てないように、昨晩のうちにこっそり用意しておいたサンドイッチを皿に載せ、人数分置いておく。

 具はベーコン、トマト、レタス。大したものじゃないが、きっと皆は喜んでくれるだろう。

 朝食を用意したテーブルを見て、ふと昨晩のことを思い出す。

「凄い反応でしたよ!」

「うん、お父さん、すっごいカッコ良かった!」

 親娘おやこ共々、頬を紅潮させて興奮冷めやらぬといった様子だった。話を聞く限りでは、集会は大成功だったらしい。俺も結果に大満足。ビルさんに任せて大正解だったという訳だ。

 実は、集会の話をお願いしたとき、ビルさんは弁舌に長けた村人に頼むと提案していた。だが俺はそれを許さなかった。断固、ビルさん自身でやってくれとお願いしていたのだ。

 理由は、あの感じ。

 興奮したときの声の大きさ、短い言葉で熱意をぶつける話し方、それらが演説で聴衆の心を惹きつける力になる。そんな気がしたというだけだが、しっかりと村人の心を掴んでくれたようなので、俺の目に狂いはなかったということだろう。

 ただ、お年寄りが何人か泡を吹いて倒れたらしいので、その点に関してのみ今後は気をつけてもらいたいと思う。

 皆、爆笑していたけれども。笑い事じゃないよね。

 人魚亭を出た俺は、すぐにランニングを始めた。トレーニングがてら、このままリンドウ邸まで行ってしまうつもりでいる。

 ギルドで見た地図だと、ザザ村はアルネスと祈りの森の端との中間地点にある。距離はおおよそ十キロ。その程度であれば、装備を着た状態でも三十分もあれば着くだろう。

 と、思っていたのだが、街道に入るなり森から出てきた魔物に不意打ちされた。醜悪しゅうあくな顔つきをした緑色の肌を持つ小鬼。数多くのファンタジー作品に登場するゴブリンだ。

 能天気にも、俺は探知を使っていなかった。苦手だからと、日頃ヤス君に任せきりだったツケを払わされたといったところ。

 咄嗟とっさに右拳でガードしにいったが、まるで間に合わなかった。ゴブリンが飛び掛かりざまに振り下ろした棍棒を、弾きもさばきもできずに、籠手こてのない上腕に食らってしまったのである。

 バキン、と嫌な音が響いて目の前が白く明滅。瞬間的に何が起きたかを理解した。

 痛ったぁっ! 折れたー! 嘘だろ⁉ ゴブリンってこんな強いの⁉

 ダンジョンの上層で見たときは、フィルとヤス君が簡単に処理していたので弱いと思い込んでいた。

 だがそれは飽くまで遠距離からの的確な攻撃があったからだと殴られてようやく気づく。

 対峙するのも攻撃を受けるのも初めての経験で、認識を改める必要があると思い知らされた。

 というか、強いとか弱いとか関係なく、相手が子供でも棍棒で殴られたらそりゃ折れるだろう。ゴブリンの腕力は成人女性を容易に組み伏せるくらいはあるというし、折れないと思う方がおかしい。

 そう考えたら、ゴブリンで良かったと思えてくるから不思議だ。仮にこれがワイルドスタンプの不意の突撃だったら、間違いなくこの程度の怪我では済まなかった。十中八九、俺は死んでいただろう。
 
 
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