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海辺の開拓村編
29.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(1)
しおりを挟むザザ村に戻り、仲間と合流した俺は、予想していたよりも順調にことが進んでいたことに驚かされた。
少なからず反発や衝突は起こると思っていたのだが、村人たちは急に現れた余所者の指示にも素直に従ってくれていた。ヤス君によると、彼らは最初から協力的だったそうだ。
これはやはり、昨日ビルさんが熱意を持って訴えてくれたのが大きいだろう。今朝も村人たちに呼び掛けて、どんな作業も率先してやってくれたらしい。お陰で午前中はトラブルもなく、指導は円滑に進んだとのこと。
村人が主体になってワイワイ行われているスパイキークラブの捕獲を手伝いながらそんな話を聞いていたのだが、俺の頼れる仲間二人とビルさん含む数人の村人たちの表情はあまり宜しくない。
何か懸念材料があったようだと覚り、どうしたのか訊ねてみると、ヤス君が腕組みして「うーん」と唸った。
「見ての通り、上手くいってはいるんですけど、一つ問題があるんすよ」
問題? と訊き返すと、昨夜から村長とその取り巻きの姿が見えないという返答があった。
「行方をくらましたと見るべきだろうな」
「すいません。私も村人への周知にばかり気を取られて……」
「いえ、ビルさんの所為じゃありませんよ。俺が考えておくべきでした」
申し訳なさそうに頭を下げるビルさんに言い、今できることについて話す。
「姿が見えないってことは、今頃はどこかで悪巧みしていると思います。それが済めば、間違いなく何らかの行動に出てくるでしょう。現状、ビルさんがこの村のリーダーとして認められているように見えますんで、武力行使があった場合の対応を村人たちと相談しておいてください」
ビルさんは「分かりました!」と力強く頷き、近くにいた見るからに士気の高い村人三人に声を掛けて、俺たちの側を離れた。
「ユーゴ、村長はどう出ると思う?」
「分からないけど、すんなり引き下がりはしないだろうね」
「大方、助けを求めに行ったってところでしょうけど、厄介な話になりそうっすね。俺も今朝聞いて驚いたんすけど、ここはアルネス領じゃないらしいんすよ」
「え⁉ 違うの⁉」
「俺も驚いたが、違うらしい。王国政府直轄地だそうだ」
寝耳に水。それは考えていなかった。エドワードさんが手を出してない時点でそういう可能性があると気づくべきだった。少し早まった気がする。
「もしかして、これって反逆罪とかに問われるやつじゃない?」
「まぁ、よく分からんが、代官を追い出したならそうなるだろうな」
「そこっすよね。自分から逃げ出しておいて、村人が反乱を起こしたなんて喚かれてそうっす。王国政府側も権威の失墜がどうのこうのって村長の悪事の揉み消しやら何やら理不尽なことやってきそうっすよね」
「やっぱそうなるよねー。うわー、これエドワードさんに凄く申し訳ないことしちゃったかもしれないなー。俺の浅慮の所為で、今頃、執務室で溜め息吐いて頭抱えてるかも」
「どうしてだ?」
眉根を寄せるサクちゃんを見て、ヤス君が肩を竦める。
「村長が反乱鎮圧の要請をするとしたら、アルネスの街しかないっすから。エドワードさんは立場的にその要請を受けなきゃまずいでしょ。あんなパツンパツンでも王国公爵なんすから」
「そのパツンパツンがこの村の状況を知っていたとしてもか?」
「知ってるから困るんだよ。要請を蹴って村人の肩を持てば、実はパツンパツンが反乱の首謀者だとか村長に騒ぎ立てられるよ。俺がまずったなーと思ったのは、この村が王国政府の直轄地だってこと。パツンパツンがこの村を自領にしたいが為にやったなんて言われたら目も当てられないよ」
「俺がパツンパツンだったら、引き延ばしが精一杯ってとこっすかね。要請は受けるけど、兵の準備がどうのこうのって理由をつけて時間稼ぎします」
「パツンパツンが引き延ばすのか……ぶふっ」
サクちゃんが噴き出し、顔を伏せて肩を震わす。ヤス君も顔を背けて笑いを堪えている。いじくり倒されたなエドワードさん。この二人、領主をいじくって笑うとは大したもんだ。俺もだけども。
「まぁ、実はエドワードさんに関してはそんなに心配はしてないんだけど、王国政府がどう出るかってところがね。国王が今九歳だし、スミレさんから聞いた話じゃアホの子でしょう? 悪い奴に唆されて、おかしな王命出したりしなきゃいいけど」
それ四年前の話だからな。と、サクちゃんが気休めを言うが、俺はまったく安心できなかった。ヤス君もそうだったようで、軽く鼻で笑っていた。
が、心配したところで何が変わる訳でもない。懸念される部分は打ち出せたのだからそれで十分。卑屈になっても仕方がない。後は俺たちにできることを精一杯やるだけだ。
大丈夫。なんとかなるさ。
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