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カナン大平原編
18.カナン大平原を越えよう(18)
しおりを挟むヤス君はしばらく袖で涙を拭い続けたが「すいません、ちょっと外します」と涙声で言って部屋から出て行った。
デネブさんが慌てて追い掛けようとしたが、俺が止めた。そっとしておきたかった。誰にもヤス君の邪魔はさせたくなかった。
俺とヤス君では、心への負担が違う。俺の場合は、コーキを救う為にできたことは何一つなかった。
気休め程度でもそれができたのは、コーキ自身ではなく、その家族に向けてだけ。そして明確に死を知らされることもなかった。いなくなったコーキを、おそらく生きてはいないと諦める時間も十分にあった。
だがヤス君の場合は、山に行くというサーヤを止めることができた。
そんなことは未来予知でもできない限りは無理だが、それでも、あのとき止めていれば、という思いは出てくる。
それに俺とは違い成人していた。だから直接携わることができてしまった。
周囲を頼ったが無碍にされ、自分だけが借金を負い、民間捜索隊に動いてもらった挙げ句に、返ってきたのは死に疑いを差し挟めもしない、破れて血濡れた遺品だけ。
その結末に、ヤス君はどれだけ苛まれただろう。今頃、心の整理をつけるのに必死になっているに違いない。そういうときは一人になりたいもんだ。少なくとも俺は。
「サーヤ・シンドゥーか。ヤスヒトの友人も、生きてたんだな」
「そうみたいだね。俺たち全員、知り合いがこっちに来てたことになるね」
「ユーゴのときもそうだったけど、素直に喜んでいいのか分からなくて困るよ。生きてたのに会えないなんてさ、そんなの結局、同じじゃないか」
フィルが不貞腐れたような顔で言う。
「でも生きた証は残るよね」
俺の場合は、エドワードさん。あの人がコーキの子孫だし、他にも七人はいる。それにクリス王国もだ。
俺たちが暮らすこの環境も、ユオ族だってそうだ。すべて、コーキが生きた証だ。
コーキが何を望んで予言を遺したのかは分からないけれど、それもきっと何かに繋がるのだと思う。
「あのー」
アープがこちらを窺うように小さく挙手する。
「英雄様たちはー、こちらに何をされに来られたのでしょうかー?」
「あ! そうだよユーゴ! 風の属性を授けてもらいに来たんでしょ!」
「それでしたらー、こちらにー」
アープが部屋の隅に置いてある、呪符の貼られた木箱を開ける。中から黒い祠が現れる。光の祠、闇の祠と同じ色と形状。どうやら祠は全属性、見た目が同じようだ。
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