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カナン大平原編
24.カナン大平原を越えよう(24)
しおりを挟む「英雄様。すべてはユオ族の風習が原因です。私はローガ兄様に命を救われました。ですがその所為でローガ兄様は人生を狂わせました。悪事を行ったことに言い訳はできないのは分かります」
でも、どうかローガ兄様の命は奪わないで欲しいのです。と、アープは悲しげな顔で言う。
「我儘なのは分かっています。でも、でもあんまりです。それじゃあ何の為に生まれてきたのか分かりません。私もそうです。ローガ兄様が赤い毛で疎まれたように、ただ青い毛を持って生まれてきたってだけで族長にされました」
アープはずっと家族とは別の家に閉じ込められて育ったらしい。デネブは世話役として側で守ってくれたらしいが、今でも長く家を出るのを許されるのは、季節の移動のときだけだという。
セイオは自由に過ごせていたのに、どうしてなのかと訊くと、なんとそれもこれもすべてセイオの所為だった。
幼い頃はセイオから守るために、成人後はセイオのような勘違いをさせない為に部族民から閉じ込められてしまったのだとか。
どうやらアープは族長というより、生き神のような扱いになっているようだった。
「ローガ兄様が聞いたら怒るかもしれないけど、命を助けてもらったのに、これじゃあ何の為に生まれてきたのか分かりません。アチシは、これも血の憎悪だと思っていますー。本当はアチシ、族長なんてやりたくないんですー。アチシも外でいっぱい遊びたいよー」
アープが途中から声を震わせ、泣き出す。デネブさんが引き継いだ。
「英雄様、俺からもローガの助命をお願いします。アープの言う通りです。俺も今はっきりと分かりました。血の憎悪というのは、ローガのことではなく、この風習そのもののことだったのです」
アープもまた、幼少の頃より自由を制限されてきた。無理な願いだとは承知しているが、それでも通したい。と、デネブさんは言葉を続ける。
「俺は、弟妹を救いたいのです。その為なら、この命を捧げても構いません。どうか、この血の憎悪を断ち切る妙案を頂けないでしょうか。何卒、お力を……」
血の憎悪を断ち切る――?
何かが引っ掛かり、その言葉を反芻する。
「アープは族長やりたくないんだね?」
俺が訊ねると、アープは泣き顔を上げてコクコクと頷いた。
「ユーゴ、何か思いついたの?」
「そうだね。権力フル活用すれば何とか。上手くこじつけられる」
「何をするつもりだ?」
「それは明日、ヤス君が合流したときに話すよ」
その後、用意してもらった寝床に入って眠りに落ちた俺は、夢を見た。
暗闇に炎が現れて揺らめく。現れたのは、数人の男たちに囲まれた一つの狂気。
血のような黒ずんだ赤毛を持つ、凶悪な顔つきの男。取りつく男たちを振り払い、頭と体を掻きむしる。
目が合うと、嘲るような笑みを浮かべて口を開いた。
俺は母親を食ったんだ。飢えて飢えて、このまま死んで楽になりたいって思ったのに、母親が最期に言った言葉が『生きて』だったんだ。
どうしろってんだ。獣一匹狩れやしねぇ馬鹿なガキだった俺が、どうしたら生き延びられるってんだ。
この体の血肉が、半分母親で出来てるのが、俺は苦しくてたまんねぇんだ。
もう楽にしてくれ。躊躇うなよ。罰を与えてくれよ。誰でもいいから、俺を殺してくれ。
そうでなきゃ皆殺しだ。
何故かって、俺は忌み子だからだ。災いをもたらす化け物だからだ。神がそうあれってこの世界に寄越したんだ。
だから俺はその役割を全うするんだ。早く俺を殺さねぇと、死体の数が増えるばかりだぜ。
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