217 / 409
カナン大平原編
33.カナン大平原を越えよう(33)
しおりを挟むんー、あとひと押しといったところかね?
「そうは言ってもねー。俺たちだって暇じゃないでしょ? 【箱庭】の中は空にしておきたいし、承諾してもらわなきゃ、結局全員極刑になるんだから、この場で殺したって一緒じゃない。無駄は極力省かないと。時間が勿体ない」
「確かにな。もう選択肢は提示した。前者を選ぶなら全員この場で殺せばいいだけだからな。破格の条件だと思うんだが、信じないことにはしょうがないよな」
サクちゃんも俺の演技に乗ってきた。目配せがあったので間違いない。いつぞやのフィルのように、とても悪い顔をしている。
「ま、待て!」
ローガが初めて焦ったような顔を見せた。
「まずは俺を殺せ。他の連中は後にしろ。命乞いしたら助けてやれ」
「え、命令? いや、あのさ、自分の立場分かってる?」
「こいつは駄目だな。話にならん。ヤスヒト、連れてきてくれ。俺がやる」
「ま、待て、待ってくれ! 頼む! 頼むから俺を先に殺してくれ!」
ローガが必死さを感じさせる口調で言う。
何だろうかこの不快感は。凄くイライラする。心からの願いなのは間違いないだろうが、こちらの同情心を誘っているようにも感じられる。
ああ、そうか。こいつは――。
「お前、いい加減にしろよ」
俺はサクちゃんを軽く退けて跪き、ローガと目線を合わせる。
「顔に書いてあるんだよ。『もう嫌だ。俺の所為で人が死ぬのは見たくない。俺がいるからこんなことになるんだ。俺なんかいなきゃいいんだ。誰でもいいから殺してください』ってな。なぁローガ、お前、母親に救われたとき何て言われた?」
ローガが困惑したような素振りを見せ、呼吸を荒くする。
「『生きろ』。そう言われたんだろ? お前はそれに従ったに過ぎない。お前が呼び込んだ災いなんて何一つない。周りが勝手にお前をそうなるように仕向けただけだ! お前は忌み子なんかじゃない。ただのまともな男なんだよ!」
「ち、違う。俺は、俺は母親を食った忌み子だ。おやっさんや、おばさんまで死なせちまった。俺が死ねば、皆はーー」
「お前が死んだら、皆死ぬぞ? 皆がお前の後を追うぞ?」
「そうだ。お前は大切に思われてる。だからあいつらも一緒にいるんだ。仲間なんだろう? ならお前が助けなくてどうする」
「ローガの他には誰も助けられないっすよ? あと、死にたがりはもういいんじゃないっすかね?」
「そうだよ。君が死ぬ必要なんて、まったくないんだからね?」
ローガは泣きそうな顔で俺を見つめる。
目に涙が溜まって、溢れる。
「生きろよローガ。お前がまともに生きれる場所を俺が用意してやるから。生きろ。仲間と一緒に」
「生きて、いいのか……? 俺は……?」
俺は「ああ」と首肯する。
「生きてサッカーでもすればいい。いや、野球の方が良いか。控えも取れる人数だ。スポーツは楽しいぞ。色々と発散できる」
「なんだか締まらんな」
「ユーゴさんらしいんじゃないっすか?」
「馬鹿だよねー。黙って頷いて終われば良いのにさ」
酷い言われようだが、なにはともあれ懐柔は完了した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
435
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる