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ウェズリーの街編
6.成長する賢人(1)
しおりを挟むこの危機感や緊張感のなさは進捗状況にある。本当に良くやったと思う。ダンジョンは苦痛だった。分かっていたことだが、張り合いがなかった。
ヤス君が凄すぎて俺とサクちゃんはずっと照明係。フィルもほとんど手を出していない。褒賞値をもらいつつ散歩をしているだけの状態だった。
そんな中、唯一パーティーで戦うことになったのは三十階層の主ジャイゴーレム。動く巨大な岩人形。通常のゴーレムは二メートル程度なのに対し、一回り大きく、ちょっと気圧されるくらいの存在感。難敵の気配に胸が踊った。
「これは強そうだね」
そう思わず呟いてしまうくらいに期待したのだが見当外れ。
守りが堅固で力も強いが如何せん動きが遅かった。俺が慎重を期して様子見している間にサクちゃんが突進。二刀流のトンファー連撃と【地縛槍】で滅多打ち。
ジャイゴーレムが怒り狂ったように地団駄を踏み、腕を振り上げたところでサクちゃんが飛び退き遠距離組が攻撃開始。フィルが【烈風刃】で切り裂き、ヤス君が【氷柱舞】で刺突を繰り返しているうちに消滅した。
そう、俺は何もしていない。「えぇ……」と顔を引き攣らせて呟いただけだ。
三十階層からは気温が高くなってきたので【冷涼薄霧】と名付けたひんやり術を使ってどうにか貢献することはできたが、戦闘での活躍は一切できずフラストレーションを溜めることになった。
それもこれも、ヤス君が強すぎるからなんだよなー。
今回のダンジョンで、ヤス君はとんでもない活躍を見せた。罠は見抜くし解除するし、敵がどこにいるかも、どれだけいるかも探知してしまう。
しかも、これまでは弓矢で真っ直ぐにしか攻撃できなかったのが【氷柱舞】で曲がり角にまで対応してしまった。「その先にいますね」とヤス君が言ったら、もう敵は死んでいるような状態だったのだ。
まったく役に立てなかったなー。
宿の部屋でベッドに座り溜め息を溢していると、隣のベッドに寝転がって読書をしていたフィルが「どうしたのさ」と顔だけ向けて声を掛けてきた。
「ダンジョンのこと考えてたんだよ。何もできなかったなーって」
俺が肩を竦めて答えると、フィルは苦笑した。
「そんなの僕だってだよ。ユーゴは照明と【冷涼薄霧】だっけ? 環境整備っていうかさ、快適さを提供できる分まだいいじゃない。僕なんて【烈風刃】を数発撃っただけだよ。何もしてないのと同じだよ」
「いやー、攻撃がねー、一回もできなかったことがちょっと悔しいんだよね。そりゃ楽でいいんだけどさ、パーティーに貢献している感が薄くてね。攻撃する隙間の見極めが下手なのかなーって」
「そんなことはないと思うよ。ナッシュさんとクロエさんとやった模擬戦のこと思い出しなよ。自覚してないんだろうけどさ、僕はずっとびっくりしてたよ」
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