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ウェズリーの街編

19.契約完了と賢人の秘術

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 俺は闇竜に肩から手のひらに移ってもらい、つぶらな黒目と見つめ合う。

「ヤミーはどう?」

 闇竜が「ピギー……」と腕組みして首を傾げる。なくはないが、悩ましいところだ、と言いたげに。もっとしっくりくるのを求めているようだ。

「アカスジは?」

 闇竜が「ピギッ⁉」と驚愕したような反応を見せ、それはないだろお前、と言いたげに前足で俺の手のひらをペチペチ叩く。ちょっと怒った感じがまた可愛い。

「じゃあ、サブロ」

 闇竜が動きを止め、ちょっと考えるような素振りを見せた後で「ピギッ!」と頷いた。承諾を得られたので、待機中の表示部分にある命名の欄に名前を入力する。決定を押した途端に、待機中表示が消えた。

 突然、心臓が一度強く脈打った。外側から体全体に浸透する圧力を掛けられ、胸に集約したような不思議な感覚。一瞬、息が詰まったが、不快感はまったくなく、自分のかたわらに新たな力が置かれているのが理解できた。

 サブロの方もそれを感じたようで、少し驚いたような様子を見せた。だがそれも僅かの間だけで、嬉しそうに一鳴きすると腕を伝って左肩に乗り、また頬に抱き着いてきた。ひんやりした体温が伝わってきて心地良い。

「お、契約完了っすか?」

「うん、サブロにした。気に入ってくれて良かったよ」

 俺が答えると同時に、フィルが軽く溜め息を吐いて席を立った。

「決まったんなら、冒険者ギルドに向かおう。従魔登録して、従魔証明になる物を付けないと。いつまで経っても不審な目で見られちゃうからね」

「そうだな。しかし、本当にどこでくっついたんだろうな?」

 確かに、と思いつつ席を立つ。サブロは目立つが、隠せる場所がないので肩に乗せたまま店を出た。まさかズボンのポケットに入れる訳にもいくまい。

 冒険者ギルドに向かうまでの間に、ヤス君が使った術について話してくれた。術名はなく、小型戦車と呼んでいるらしい。電池で走る四駆の玩具をモデルに作ったらしく、駆動装置に魔力を流すと走るのだとか。

「その装置を【魔力モーター】って名付けました。一気に全体を作ろうかとも思ったんすけど、個別に生成した方が利点があると思って分けました。魔力を流すと回転するだけの物ですね。その回転を利用してタイヤが回るような部品を組み合わせただけで、玩具と違うのは座席とハンドルがあるくらいっす」

 ハンドルから【魔力モーター】に直接魔力を送れる仕組みになっているとのこと。操作は念動力で補助をしつつ行っているのだとか。それと【傀儡操作クグツソウサ】という闇術も加えて扱っていることも教えてくれた。

「【傀儡操作】は人形を操作する術なんですけど念動力よりも精密に動かせるんですよ。これが戦車操作にも活用できたんすよね」

 高速ドリフトなどの技巧はそれがあるからできたのだとヤス君は笑う。

「普通は無理っすよ。ゲーム感覚だからできてるってだけっす」

 他に訊きたいことはないかと問われ、フィルが砲身について質問した。ヤス君は隠し立てするつもりはまるでないらしく、平然とすべてに回答した。

 発射していた弾頭は土術で生成したもの。発射する為に使っているのは弓の弦を引くときの力をイメージしたらしい。

「感覚的にはバリスタっす。普通に発射するイメージで念動力を使っても大した速度が生まれなかったんで、硬い弦を引き絞るイメージで念動力を使ってみたら、あの通りの威力が出たって感じっすね。【張力念動チョウリョクネンドウ】って名付けました」

 硬いのなら防御に転用できないかと助言してみたのだが、ヤス君は既に試していた。そしてそれがただの【障壁】になったと苦笑した。

「車体のコーティングに使うことも考えたんすけど、そこまでやると操作が追いつかなくて。【氷柱舞】もあるんで無理だなって。砲弾発射後に内部で新しい砲弾を生成したり、もうわちゃわちゃっす。実はかなり忙しいんすよ」
 
 
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