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ウェズリーの街編
20.半月斧を持つ赤い鎧の青年はかく語りき(1)
しおりを挟む通りにいる人の数はさして多くなかった。昼どきだし、昼食をとりに屋内に入ったのだろう。お陰で俺たちはなんの気遣いもせずに悠々と歩くことができた。
冒険者ギルドに到着し、中に入ると、先ほど来たときにはいなかったドワーフ以外の種族がちらほらと目についた。雰囲気がやや殺伐としたものに感じられる。冒険者たちの目つきや外見がそう捉えさせる原因。なんで威圧するかな。
受付に向かおうとすると、精悍な顔つきの青年が一人近づいてきた。頑健な体に見合った赤い重鎧を身に着けており、手にした半月斧の柄を肩に載せて遊ばせている。斧の刃先は革製の鞘で覆われているが、何の意味もない気がした。もし振るわれたら柄に当たっただけで死ぬ。感覚がそれを教えてくれた。
体格はエドワードさんやサイガさんには程遠く、身長は俺と変わらない。だが筋肉の密度がまるで違うように感じられた。多分、魂に刻まれているという能力値の高さが伝わっているのだと思う。格の違いを察して背筋が冷たくなる。
こっちには来るなよ。という願いも虚しく、青年は俺の前に立ちはだかった。
「何か?」
俺は青年の鋭い視線を真っ向から受けて訊いた。太腿が細かく震えて、内心ヒヤヒヤものだったが、どうにか取り繕うことができた、と思う。多分。
俺が問い掛けて間もなく、青年は何かを言い掛けて逡巡した様子を見せた。そしてまた何か言おうと口を開くが、閉じる。黙って少し待ったが、その間に青年は顔色を悪くし、じっとりと汗を掻き始めた。これはもしや。
「あのー、もしかして、極度の緊張しぃですか?」
青年は目を見開き、薄く涙を溜めて微笑みコクコクと頷いた。唇が震えている。威圧感のようなものが解け、張り詰めていた空気が一気に弛緩する。
「あらーそれは大変ですね。でもちょっと急いでますんで、すいませんが用件は後で良いですかね? 早いとこ、この子の従魔登録を済ませてしまいたいんで」
肩に手を近づけ、サブロに手の平へと移動してもらう。すると青年はサブロを指差して、困ったような表情を浮かべた。そして「そ」と言う。言ったあとでゴクリと喉を鳴らし「そ」とまた言う。そって何だよ。
「ユーゴさん、もしかしてサブロはこの人のなんじゃないっすか?」
ヤス君が目の前の青年に助け舟を出す。すると青年は、そうそれ、とでも言うかのように手を叩いてヤス君を指差し、頷いた。
なんですと⁉ もう従魔契約済ませちゃったよ⁉
「うわ、マジか。えー、どうしよう……」
これは困ったと思いつつ頭を掻く。流石に返す訳にはいかない。サブロは俺の手の平で尻尾を支えにして立ち上がり「ピギー……」と鳴いて腕組みをする。表情は難しげで、こちらも非常に困っているように見えた。
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