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もう一人の渡り人編

13.レノアイザベラニーナエリーゼ(2)

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「そうか。そのときは、人柄が良くて慕われるような人に能力が足りなかった訳だ」

 エリーゼが「そういうことだ」と首肯する。

「ちなみに何したの?」

「私の聞いた話だと、隊員への暴言暴力は日常茶飯事。無理やり売春を行わせたり、生意気な者をわざと魔物に襲わせて、食われるのを見て楽しんでいたそうだ」

「うえ、性悪娘って表現じゃ済まんだろそれ。変態じゃないか」

 イザベラが明るく哄笑する。

「変態かぁ。そうだなぁ。もっと言やぁクズだな。まぁでも、それが露見してようやくってとこだよ。これまでも人間的にどうなんだって奴は上に立ってたらしいからな」

「それで、隊長が横暴であった場合の抑止の為に、副長は能力ではなく人柄を優先することになったのですわ。投票制はうってつけの選出方法と言えますわよね」

「人気、投票、みたいな、もの。私、六票だった。一票は、自分」

「うーん、だけどそれもさー、金を使った不正なんかが大いにありそうなもんだけど、その辺どうなの?」

 女子たちが眉根を寄せて首肯する。

「ある、としか言えんな。当たり前のように行われているよ」

「貴族らしいっちゃらしいけどよ、そういうときは正々堂々やって欲しいよな」

「禁止されてはいるのですけれども、それもまた力には違いないのですわ。清濁併せ呑まざるを得ないでしょう。逆にこちらも利用できなくはありませんからね。アタクシたちの家には、そんな財力はありませんけれど」

「レノア、悲しいこと言うなよな」

 副長は金と脅しで票集めしたらしい。まぁ、分かっていたけれども。

「あ、そういや癒着についての思い当たる節って何だったの?」

「副長派の金回りだ。異常に良かったんだよ」

 ウェズリーにいる間は衛兵としての給料しかもらえないにも拘わらず、副長派に属する者はそれを使い切っても届かないような生活をしていたそうだ。

「副長投票後はしばらく質素だったから、実家から与えられた金は票集めで使い切っていたはずなんだ。それに我々の巡回経路には冒険者ギルドも含まれる」

「あれま、副長はもっと賢いと思ってたけど、そうでもなかったんだね」

「それでも、確たる証拠は、掴ませなかった。その点は、優秀」

「怪しいと思っても中からじゃ分かんねーこともあるよ。興味もねーし」

「アタクシは冒険者として依頼を受けているものだとばかり思ってましたわ」

 なるほどね。それはそうとして、まだかな……。

 俺については、ウェズリーの領主に一任されることになった。というか、それを提案したのは俺。当初の予定通り、この機会を利用して情報を交換しておきたかった。それでエリーゼに頼んでみたところ「それは名案だ」とすんなりと要望が通った。

 という訳で、現在はイワンコフさんの訪問を待っているところだ。

 しかし、まさかこんなに色々と巻き込まれることになるとは思っていなかった。属性を取得してすぐ帰る予定だった二日前が嘘のようだ。ダンジョン、枝豆、唐揚げ、サブロ、従魔契約、ルード、チエ、ドゴン、そして戦乙女隊の面々と、領主との面会。

 どうしてこうなった?

「もうそろそろ来られても良い頃だと思うのですけれど」

「レノアそれ何回目だよ。ジジイだから動くのが遅えんだろ」

「イザベラ、それ、不敬罪、だよ。それに、領主様は、まだ四十歳」

 女子が四人も揃えば、かしましい。ずっとわいわいやっている。

 そしてエリーゼはちょくちょく俺とのことでからかわれている。

 春が来ただのお似合いだのと好き勝手に言われ「やめて。そういうんじゃないから」と焦った様子で否定するエリーゼは可愛らしい。

 だが、俺の顔には多分、隠居した爺さんが縁側から庭を眺めているときのような、とことん落ち着いた微笑みが浮かんでいると思う。
 
 
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