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もう一人の渡り人編

18.気分が優れない話の後は美味しい食事で誤魔化す(2)

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「どうした? 顔色が悪いぞ?」

「ああ、いえ、お気になさらず。続きをお願いします」

 イワンコフさんが「ああ、分かった」と言って両膝に手を叩き置く。

「半年ほど前に、冒険者ギルドのマスターをしておる者にチエを任せたんだが、不思議なことに、それからずっと問題があるという報告は受けとらん」

「露骨ですね。逆に怪しいですよそれ」

「そうなんだ。だから使用人に様子を見させに行ったりもしとったんだが、報告はいつも『問題なし』だ。わしも事前連絡なしに何度か足を運んどるんだが、それまでの気性の荒さが何だったのかと思うほどに鳴りを潜めとった」

 それがどうにも気持ち悪かったが、やっとチエから解放されるという思いの方が強かった、とイワンコフさんは言う。

「振り回されている間に溜め込んだ仕事もあったからな、それからは定期的にチエの様子を報告させることでこの件は仕舞いにしたんだが……」

 イワンコフさんが髭を揉みながら「うーん」と唸って続けた。

「どうにも嫌な感じだな。ユーゴの話で浮き彫りになってきた」

 俺は顎に手を遣り「はい」と答えて首肯する。

 イワンコフさんの言うように、情報に繋がりが見えてきた。

 チエがウェズリーに現れたのは約一年前。ドグマ組長の専属医に扮した工作員が魔物化の呪いを完成させたのもその時期。呪いの情報は既にラグナス帝国に渡したと白状している。そこにドゴンが任されていた仕事を加えると……。

「ドゴンが騙されて行っていたのは、やはり人身売買と見て間違いないでしょうね。引き取り先はラグナス帝国で、目的は魔物化の呪いの研究の為ではないかと」

「うむ、あるいは、既にその呪いが完成しとるのかもしれん。呪いを施した者をこちらに送り返しておるということも考えられる。行方知れずになっておった家族が帰ってきたという話がないかを調べんとな」

「あ、待ってください。嫌な話になりますが、工作員が紛れ込んでいる可能性が大いにあるように思われます。ここは信用のおける者に作業を任せるべきかと」

 イワンコフさんがハッとした様子を見せた後で顔をしかめる。

「そうか、領主館の使用人も工作員の可能性があるか。わしの耳に入っとった報告が虚偽であったとすれば、チエが急におとなしくなったことにも説明がつく」

「はい。お忍びで顔を出したつもりが、実は情報がダダ漏れで対策済みだったということも十分にあり得ます。むしろその線で考えた方が良いように思われます」

 こうなるともう、チエはラグナス帝国の工作員としか思えない。或いは、問題行動を起こしていたのも、自身の要望を通させる為だったのではないだろうか。

 そりゃそうだよな。冒険者ギルド職員や領主館勤めの方が成果は出せるもんな。

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