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もう一人の渡り人編
24.冒険者ギルド立てこもり事件(4)
しおりを挟むだが、俺は心配が杞憂に過ぎなかったと思い知ることになった。安っぽい銃声のような破裂音が響いたかと思うと、火球が消滅してしまったのだ。
ルードは虫を追い払うように片手の甲で払っただけ。しかもゆっくり。
俺は呆気にとられて声も出せなかった。あんなものを、ただ手の甲で撫で払っただけで無力化してしまうのは異常だ。あまりに格が違いすぎる。
「びっくりするよね。僕も最初に見たときは驚いた」
「最初って、もしかして、ああいうこと何回もやってんの⁉」
「これで六回、いや七回目だな」
「七回も⁉」
耳を疑った。俺は驚きのあまり、思わずサクちゃんに顔を向け聞き直していた。するとサクちゃんは顎に手を遣って首を傾げ「うーん」と眉根を寄せて唸った。
「やっぱり六回だったかな」
「あ、うん、それはどっちでもいいよ」
難しい顔をして何を言うのかと思ったらズレていた。
六回だろうが七回だろうが驚愕したことに違いはない。悩んでまで回数を律儀に伝えようとしなくても良い。そんなところに正確さは求めてないんだ俺は。
「悪い。やっぱり七回だった」
フィルがブフォッと噴き出して「こだわり過ぎだろ!」と笑い、サクちゃんが何笑ってんだお前と言いたげな顔をする。無自覚の恐怖ここに極まる。
「七回ね、ありがとう。それで、あの異常な火球を撃ってきた敵は誰?」
「チエっす。俺たちがこうして手をこまねいてるのは人質がいるからなんすよ」
ルードがギルマスを殴った後、チエは腰を抜かして失禁したそうだ。
「俺らの憐れんだような目が気に食わんかったのか癇癪を起こしてな。ぶっ殺すだの、見てんじゃねぇだの、喚き散らして手近にあった物を投げてきたんだ」
「ルードはカウンターを飛び越えてギルマスを肩に担ぎ上げたんだけど、それがまた平然としてたんだよ。チエなんか眼中にない感じっていうか」
「ああ、完全に無視してたな。ギルマスの安否を気にしてる様子だった。『やりすぎた。回復術は使えますか?』って訊いてきたからな」
「それがチエの感情を逆撫でしたんすよ。で、トドメが『お漏らしか、恥ずかしいな』って微笑んでチエに言ったことっすね」
チエは激昂し、ルードの背中に向かってあの火球を放った。
片手は半月斧、片手は肩に担いだギルマスに添えていた為、ルードは両手が塞がっていた。それでも避けることはできたのだろうが、敢えて受けたのだという。
ギルマスは疎か、射線にいる皆を庇う為に。
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