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第十章 冒険者ギルド編
第428話 冒険者ギルド本部では……
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「……モルトバのあの慌て様、まだ何かを隠しているな」
モルトバとの通信を切ったワシはため息を吐く。
冒険者ギルド本部からフェロー王国王都支部まで、馬車を走らせて十日。
どんなに急いでもそれだけの時間がかかる。
「やはり話を聞いて正解だった。すぐにモルトバの元に向かわなくては……」
事態は急を要する。
取り急ぎ、モルトバのギルドマスターとしての資格を取り上げ更迭したが、これ以上何か問題を起こせば、グランドマスターであるワシをもってしても庇い立てできない。
権力を傘にユートピア商会から取り上げてしまった白金貨百万枚。
これについて、モルトバは大切に保管してあると言っていたが、どこまで本当の事か……。
金は人を変える。
もし万が一、白金貨を使い込んでいる場合を想定し、これ以上使い込まない様に、使い込んでしまった場合の冒険者ギルド本部としての対応を告げたが、あれもどこまで効果があるかわかったものではない。
テーブルの縁に置いてある呼び鈴を鳴らし、ギルド職員を呼ぶと、馬車の手配をお願いする事にした。
チーンッ、と呼び鈴を鳴らすと、ギルド職員がグランドマスター室の扉をノックし、入室してくる。
「ああ、急に呼び出して悪いね。これからフェロー王国にある冒険者ギルド王都支部に向かう。馬車の用意をしてくれないか?」
ギルド職員が扉を開けて入ってきたと同時にそう告げる。しかし、返ってきた返事は想定とは違ったものだった。
「グランドマスター! た、大変です!」
「うん? どうした、そんなに焦ったかの様な表情を浮かべて……」
「じ、実はお話中のグラン様に代わり、通信を取り次いだのですが、フェロー王国トースハウン支部のギルドマスターより商業ギルドとの取引停止を求める通信が入りまして……」
「なに?」
次から次へと……。
「フェロー王国トースハウン領のギルドマスターが、商業ギルドとの取引停止を求めている? 何を馬鹿な事を言っているんだ。そんな事できる筈がないだろう」
「そ、そうですよね? トースハウン領のギルドマスターが凄い勢いで捲し立ててきまして……」
「当たり前だ。商業ギルドには、迷宮で採れる素材の定期的な受け渡し契約を結ぶ事で、やり繰りをしているんだ。取引停止なんてしたら、商業ギルドの元締め、商人連合国アキンドの評議員が動き出し大変な事になるぞ」
まあ、既に大変な事になっているが、これ以上、商業ギルドとの関係を悪くしたくはない。
「わかった。トースハウン支部のギルドマスターにはこちらから連絡をしておく」
「あ、ありがとうございます!」
冒険者ギルドのグランドマスター、グランはため息を吐きながら、そう呟いた。
すると今度は、別のギルド職員が扉をノックし、部屋の中に入ってきた。
「はあ……今度は一体なんだ?」
ワシがそう問いかけると、ギルド職員は言い辛そうに呟いた。
「ボルウォイ領の冒険者とギルドマスターが聖モンテ教会の教皇ソテル様に捕らわれました……」
「な、なんだとっ!」
どういう事だ。一体何が起こっている。
「い、一体何故、そんな事になった。何故、ボルウォイ領のギルドマスターが聖モンテ教会の教皇ソテルに捕らわれる様な事態になっている!?」
「い、いえ、よくわからないのですが、冒険者達がスラム街の整理に赴いた際、その場に教皇ソテル様がいた様でして……」
「な、何故、スラム街に教皇がっ……ま、まさか、教皇に無礼を働いたなんて事はあるまいな!」
そんな事をしてみろ、無礼を働いた冒険者やワシ一人のクビだけでは、収める事ができんぞ。
「い、いえ、冒険者ギルドからは、スラム街の区画整理の為、スラムに住む人々を穏便に追い出す様にと、依頼があった様でして……」
「……いや、それ、どうやったら温便に追い出す事ができるんだ? どう考えても無理があるだろう……それに、その依頼は冒険者ギルドが受けるべき物なのか? それはそのボルウォイ領の領主側が決める事だろう?」
「ど、どうやら、ギルドマスターがそれを受注してしまった様でして……」
「あの、大馬鹿者めっ……」
全くどいつもこいつも……ギルドマスターになってからというものの、昔持っていた謙虚さや猜疑心を失ってしまっている。とはいえ、腕っぷしが強くないと、他の冒険者達に舐められるし、困ったものだ。
「ほ、他にもクノイ領でも、数多くの冒険者が教会関係者によって捕らわれている様でして……どうしましょう……」
そんな事、こっちが聞きたい。
「聖モンテ教会から、何か情報はっ?」
「ま、まだありません」
くっ、一体、フェロー王国で何が起こっているというのだ。
ワシはこれからフェロー王国王都支部に行かなければならないというのに……。
「それでは、教会から連絡があった場合、すぐワシに連絡を繋げ! 昼夜を問わずだっ!」
「わ、わかりましたっ!」
「それでは、ワシはこれからフェロー王国の王都に向かう。馬車の準備を……」
すると、ドタドタ音を立てながらギルド職員が部屋に入ってきた。
「た、大変です! 商業ギルドが! 商業ギルドで、討伐部門と護衛部門が新たに設立されましたっ!」
「な、何っ!? そ、それは全国での話か?」
「い、いえ、フェロー王国のみでの話です」
な、なんだ。驚かせおって……。
それならば問題はない。
「そうか、その件については既に、フェロー王国の国王より連絡を受けている。今回の経緯を考えれば仕方があるまい……」
「い、いえ、そうではなくてですね……」
「うん? まだ何かあるのかっ?」
「は、はい。実はそれだけではなく、フェロー王国中から冒険者ギルドを脱退したいという冒険者が多数出てきまして……」
「な、なんだとっ!?」
今がどういう状況か分かっているのかっ!?
そんな事をされれば、フェロー王国の冒険者ギルドは、ギルドの体裁を取れなくなってしまう。
「な、何故だっ!」
「冒険者に確認を取った所、ごく私的な内容の様でして……」
「し、私的な理由?」
訳が分からない。
こんな事、前代未聞の出来事だ。
「は、はい。何でも、敵に回してはいけない人達を敵に回してしまったとか……他にも、待遇面から冒険者ギルドから商業ギルドに移籍した者も多数おりまして……」
「な、何だそれは、待遇面から脱退した冒険者はともかく、その他の冒険者については理由になっていないではないか……」
「は、はい。申し訳ございません」
ぐっ……敵に回してはいけない人達とは一体誰だ。
ええい、情報が少なすぎて、判断がつかん。
「……わかった。取り敢えず、ワシには行かなければならない所がある。話は馬車の中で……通信用の魔道具で聞く。まずは、王都へ向かう為の馬車を用意してくれ……」
「は、はいっ!」
ワシがそういうと、ギルド職員は馬車の手配に向かった。
モルトバとの通信を切ったワシはため息を吐く。
冒険者ギルド本部からフェロー王国王都支部まで、馬車を走らせて十日。
どんなに急いでもそれだけの時間がかかる。
「やはり話を聞いて正解だった。すぐにモルトバの元に向かわなくては……」
事態は急を要する。
取り急ぎ、モルトバのギルドマスターとしての資格を取り上げ更迭したが、これ以上何か問題を起こせば、グランドマスターであるワシをもってしても庇い立てできない。
権力を傘にユートピア商会から取り上げてしまった白金貨百万枚。
これについて、モルトバは大切に保管してあると言っていたが、どこまで本当の事か……。
金は人を変える。
もし万が一、白金貨を使い込んでいる場合を想定し、これ以上使い込まない様に、使い込んでしまった場合の冒険者ギルド本部としての対応を告げたが、あれもどこまで効果があるかわかったものではない。
テーブルの縁に置いてある呼び鈴を鳴らし、ギルド職員を呼ぶと、馬車の手配をお願いする事にした。
チーンッ、と呼び鈴を鳴らすと、ギルド職員がグランドマスター室の扉をノックし、入室してくる。
「ああ、急に呼び出して悪いね。これからフェロー王国にある冒険者ギルド王都支部に向かう。馬車の用意をしてくれないか?」
ギルド職員が扉を開けて入ってきたと同時にそう告げる。しかし、返ってきた返事は想定とは違ったものだった。
「グランドマスター! た、大変です!」
「うん? どうした、そんなに焦ったかの様な表情を浮かべて……」
「じ、実はお話中のグラン様に代わり、通信を取り次いだのですが、フェロー王国トースハウン支部のギルドマスターより商業ギルドとの取引停止を求める通信が入りまして……」
「なに?」
次から次へと……。
「フェロー王国トースハウン領のギルドマスターが、商業ギルドとの取引停止を求めている? 何を馬鹿な事を言っているんだ。そんな事できる筈がないだろう」
「そ、そうですよね? トースハウン領のギルドマスターが凄い勢いで捲し立ててきまして……」
「当たり前だ。商業ギルドには、迷宮で採れる素材の定期的な受け渡し契約を結ぶ事で、やり繰りをしているんだ。取引停止なんてしたら、商業ギルドの元締め、商人連合国アキンドの評議員が動き出し大変な事になるぞ」
まあ、既に大変な事になっているが、これ以上、商業ギルドとの関係を悪くしたくはない。
「わかった。トースハウン支部のギルドマスターにはこちらから連絡をしておく」
「あ、ありがとうございます!」
冒険者ギルドのグランドマスター、グランはため息を吐きながら、そう呟いた。
すると今度は、別のギルド職員が扉をノックし、部屋の中に入ってきた。
「はあ……今度は一体なんだ?」
ワシがそう問いかけると、ギルド職員は言い辛そうに呟いた。
「ボルウォイ領の冒険者とギルドマスターが聖モンテ教会の教皇ソテル様に捕らわれました……」
「な、なんだとっ!」
どういう事だ。一体何が起こっている。
「い、一体何故、そんな事になった。何故、ボルウォイ領のギルドマスターが聖モンテ教会の教皇ソテルに捕らわれる様な事態になっている!?」
「い、いえ、よくわからないのですが、冒険者達がスラム街の整理に赴いた際、その場に教皇ソテル様がいた様でして……」
「な、何故、スラム街に教皇がっ……ま、まさか、教皇に無礼を働いたなんて事はあるまいな!」
そんな事をしてみろ、無礼を働いた冒険者やワシ一人のクビだけでは、収める事ができんぞ。
「い、いえ、冒険者ギルドからは、スラム街の区画整理の為、スラムに住む人々を穏便に追い出す様にと、依頼があった様でして……」
「……いや、それ、どうやったら温便に追い出す事ができるんだ? どう考えても無理があるだろう……それに、その依頼は冒険者ギルドが受けるべき物なのか? それはそのボルウォイ領の領主側が決める事だろう?」
「ど、どうやら、ギルドマスターがそれを受注してしまった様でして……」
「あの、大馬鹿者めっ……」
全くどいつもこいつも……ギルドマスターになってからというものの、昔持っていた謙虚さや猜疑心を失ってしまっている。とはいえ、腕っぷしが強くないと、他の冒険者達に舐められるし、困ったものだ。
「ほ、他にもクノイ領でも、数多くの冒険者が教会関係者によって捕らわれている様でして……どうしましょう……」
そんな事、こっちが聞きたい。
「聖モンテ教会から、何か情報はっ?」
「ま、まだありません」
くっ、一体、フェロー王国で何が起こっているというのだ。
ワシはこれからフェロー王国王都支部に行かなければならないというのに……。
「それでは、教会から連絡があった場合、すぐワシに連絡を繋げ! 昼夜を問わずだっ!」
「わ、わかりましたっ!」
「それでは、ワシはこれからフェロー王国の王都に向かう。馬車の準備を……」
すると、ドタドタ音を立てながらギルド職員が部屋に入ってきた。
「た、大変です! 商業ギルドが! 商業ギルドで、討伐部門と護衛部門が新たに設立されましたっ!」
「な、何っ!? そ、それは全国での話か?」
「い、いえ、フェロー王国のみでの話です」
な、なんだ。驚かせおって……。
それならば問題はない。
「そうか、その件については既に、フェロー王国の国王より連絡を受けている。今回の経緯を考えれば仕方があるまい……」
「い、いえ、そうではなくてですね……」
「うん? まだ何かあるのかっ?」
「は、はい。実はそれだけではなく、フェロー王国中から冒険者ギルドを脱退したいという冒険者が多数出てきまして……」
「な、なんだとっ!?」
今がどういう状況か分かっているのかっ!?
そんな事をされれば、フェロー王国の冒険者ギルドは、ギルドの体裁を取れなくなってしまう。
「な、何故だっ!」
「冒険者に確認を取った所、ごく私的な内容の様でして……」
「し、私的な理由?」
訳が分からない。
こんな事、前代未聞の出来事だ。
「は、はい。何でも、敵に回してはいけない人達を敵に回してしまったとか……他にも、待遇面から冒険者ギルドから商業ギルドに移籍した者も多数おりまして……」
「な、何だそれは、待遇面から脱退した冒険者はともかく、その他の冒険者については理由になっていないではないか……」
「は、はい。申し訳ございません」
ぐっ……敵に回してはいけない人達とは一体誰だ。
ええい、情報が少なすぎて、判断がつかん。
「……わかった。取り敢えず、ワシには行かなければならない所がある。話は馬車の中で……通信用の魔道具で聞く。まずは、王都へ向かう為の馬車を用意してくれ……」
「は、はいっ!」
ワシがそういうと、ギルド職員は馬車の手配に向かった。
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