家の中で空気扱いされて、メンタルボロボロな男の子

こじらせた処女

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 俺は特別な人間ではない。そう悟ったのはいつだっただろうか。中学受験に落ちた時?俺が苦労してやっと習得したことを弟に軽々とやってのけられた時?公立中学での定期試験ですら1位を取れ無かった時?
 亜季が中学受験に合格した時?

 俺は特別どころか普通の人間にもなれない。中学受験のリベンジをさせてもらったのに、頭が真っ白になって一問も解けなくて落ちた。偏差値のさほど高くない高校への進学が決まった時から、両親の態度は大きく変わった。

 俺の分のご飯だけお椀に移してもらえない。俺が学校の話をしても、相槌を打ってくれる人は居ない。参考書のお金が欲しいとねだると、ドブに捨てる様なものだと父さんが言って、笑いが起きる。

 亜季が模試でA判定をとり始めた頃から、扱いはどんどん酷くなっていった。
 風呂は絶対最後。抜かれている時の方が多い。朝の洗面台は亜季や父さんが居る時は入ってはいけない。俺を抜いての旅行は当たり前。
 慶君は俺の事を人として扱ってくれる。ご飯をよそってくれるし、話したら返してくれる。毎週行くのは迷惑だって分かってたけど、辞められなかった。


 とある日の朝、俺は夜尿をした。頭が真っ白になって、でも片付け方なんて分からない。
「っは?あんたもう高校生よね?恥ずかしくないの?」
恥を忍んで母親に相談したけど、怒られるどころか、呆れられて目を合わせてもくれなかった。

「兄ちゃんおねしょしたの?何で?」
「ねぇ~、お母さんも分からないわよそんなの…嫌ねぇ~」

心配してくれるんじゃないかって思った俺がバカだった。
 上手く洗えないくせに、何度も失敗するものだから、黄色いシミがじっとりと残った。

「またおねしょしたの?恥ずかしくないの?もう高校生じゃん」
亜季にも舐められて、名前で呼ばれなくなった。
「母さーん、おねしょ君、また風呂場使ってるー」
「朝からごちゃごちゃされるの、目障りなのよねぇ」
「頭悪いから、体までバカになっちゃったんじゃないの?」
「亜季はこんな風になっちゃだめよ?」
顔が熱い。惨めで惨めで仕方ない。家族が怖い。目を見れなくて、自分の部屋を出たら、ずっと下を向いて歩くようになった。
 まともに寝れなくなって、おかしくなりそう。最近ずっと頭が鈍く重い。夜布団に入ると不意に涙が溢れるし、朝、体が重くて息切れが苦しかったり。



 お金を盗んだのは、むしゃくしゃしたから。俺以外の家族がケーキを食べて談笑している姿に、心がぐちゃぐちゃになったから。そんなに食べ物に執着がないはずなのに、その日は慶君の家に行ってもずっとケーキのことばかりを考え続けてしまったから。 2000円札を盗んだ時、罪悪感があったものの、何故かスッキリした。
 帰りにデパ地下で高いケーキを3つも買って、涙を流しながら夜の公園で食べて。俺は俺で美味しいものを食べてるから大丈夫。胃が苦しくて、食べ過ぎて胸焼けして仕方なかった。でも、心は確実に軽くなった。


 盗みがバレたのは本当に早かった。慶君はめちゃくちゃキレてて、こんな事するんじゃ無かった、って後悔した。馬鹿みたいに胃に詰め込んだケーキも、お菓子も、漫画も。慶君が一生懸命働いたお金だって改めて認識して、死にたくなった。
 謝りに行くのも怖くて、何回もインターホン前に行ったけど、どうしようもなくて帰った。バカな上に窃盗とか笑えない。ちゃんと謝罪をすることさえも出来ない。あそこが唯一の居場所だったのに。慶君にさえ嫌われた。俺、詰んだ。








「ただいまー」
挨拶をしても、誰も返してくれない。ただ、3人で嬉しそうに喜んでいる。
「本当にすごいわぁ!あの〇〇中学に受かるなんて!!」
父さんは親戚中に電話をして、大騒ぎ。
「亜季、よくやった。おめでとう」
ああ、頭、撫でられている。良いな。俺も、亜季だったら良かった。高校、受かればあの輪に入れてたのかな。
「ささっ、お祝いに食事に行きましょうか。レストランを予約しているの」
誰も俺の目を見ない。綺麗な服を着て、俺の横をすり抜けていく。手の先が冷たくなった。

 テーブルの上に置かれた1000円。これは今日の夕ご飯代ってことなのだろう。まだ俺のことは考えてくれている。1000円もくれるって優しいじゃないか。美味しいもの、いっぱい食べれるじゃないか。
 ここじゃないどこかに行きたい。ご飯を誰かと一緒に食べたい。この家に居るのが苦しくて、家を飛び出してひたすら走った。
 今頃皆は高いレストランで楽しんでいるんだろうな。俺だって、亜季におめでとうって言いたかった。俺とは違って賢いな、すげえなって。ただ、輪の中に入りたい。それだけなのに。

 カレー、ご飯、うどん出汁。ご飯屋さんの匂いがするのに全然腹が減らない。むしろ、吐きそう。
 無意識だった。無意識に、慶君の家の近くに行き、玄関の前に着く。
 インターホンを鳴らそうかどうかと迷っていると、スーパーの袋を持った慶君がエレベーターから降りてきて。

「おなか、すいた、」
何言ってんだ自分って思った。あれだけのことをしておいて、図々しいのは分かってる。でも、もうダメだった。寂しくて寂しくて仕方なかった。
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