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4 迷惑なのはどっち?
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小南さんお勧めのカフェは、春野君のお母さんが美味しい!と言っていたらしいタルト専門店だった。
「なるほど……ここの、だったのか…」
タルトを食べながらやけに納得顔をしている春野君に「どうしたの?」と訊くと、春野君のお母さんはケーキを作るのが上手らしく、今食べているこのお店の人気タルトの味や見た目が、作ってくれていたモノと似ているそうだ。
「春野君のお母さんは、料理上手なんですね。」
「そう…ですね。比較的簡単なモノであれば、パパッと作る事もあるかな?」
何故最後が疑問形なのか……も気になるけど、それよりも──
ー店内に居る女子達からの視線が痛いー
ここに来る前から、ある程度の覚悟はしていた。絶対に注目を浴びるだろうと。ここに来る迄にも、数人に声を掛けられた。まだほんの2時間程だけど、小南さんの心労が理解できた。後は、小南さんの家まで送って行くだけだ。頑張れ!私!
「それじゃあ、そろそろ小南さんの家にいきましょうか。」
「あ、お会計は案内のお礼を兼ねて俺がしますね。」
と、断る隙も無く、私の食べた分までサクッとお会計を済ませてしまった春野君は、本当にモテ要素しか見当たらなかった。
******
「セオ君、おかえりなさーい。翠ちゃん、今日はありがとうね。ついでに、一緒に夕飯食べて行かない?」
「お誘いは嬉しいんですけど、シルヴィの餌も用意していないので、今日はこのまま帰ります。」
「そっか、それは残念。また、改めてお誘いするわね。今日は本当にありがとう。」
小南さんの家のマンションから私の家マンションまでは、徒歩20分程。外はまだまだ明るいのに「家まで送ります」と春野君に言われ、「大丈夫です!」と断っても折れてはくれず、ニコニコと笑う小南さんにも後押しされ、結局は送ってもらう事になってしまった。
「態々送ってもらって、ありがとうございました。」
「こちらこそ、今日は急なお願いだったけど、付き合ってくれてありがとう。」
フワッと笑うと更にイケメン度が増す春野君は、「それじゃあ…」と言って、そのまままた、もと来た道を戻って行った。
いつまで日本に居るか知らないけど、もう会う事はないかな?なんて思っていたけど……そうはならなかった。
「どうしても“連れて帰って来い”って言われてね。明日、ウチに来てくれるかい?」
と、申し訳無さそうに事務局長に声を掛けられたのが、春野君を案内した翌日だった。奥さんが、お礼ついでにご飯を食べに来て欲しいと言ってくれているらしい。勿論、小南夫婦は大好きだから、断る理由はない。「シルヴィも一緒に連れて来て良いからね」と、週末である明日、シルヴィと一緒に小南家に行く事になった。
******
「吉岡さん」
「ん?え?春野君!?」
土曜日、小南家に行く為にシルヴィと一緒に家を出ると、そこに春野君が居た。
「こんな所でどうしたんですか?」
「この時間に吉岡さんが来るって聞いて、迎えに来たんだ。」
「はい!?」
ー迎えに!?何故!?ー
「ん?えっと……この子が、シルヴィ?」
「え?あ…そうです。私が飼っている犬のシルヴィです。」
「犬…………えっと……変わった色の毛色だね?」
「そうなんです。安易ですけど、白銀色だから“シルヴィ”にしたんです。」
「…この子……いや……。あ、みきさんが、まだ時間があるから、この辺りを散歩しながら帰って来いって。」
「そうなんですね。それじゃあ…シルヴィの散歩コースにでも行きますか?」
「うん。宜しくお願いします。」
と、春野君はやっぱり顔だけじゃなくて性格も良い人のようだ。きっと、ご両親も良い人なんだろうな……
ーあの人達とは……大違いだー
もう関係無い─と思っていても、未だにこうして頭に過ると言うことは、まだまだ囚われていると言う事なんだろう。
「どうかした?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。それじゃあ、散歩に行きましょう。」
そう言って、私は春野君とシルヴィの散歩を始めた。
「また会えて嬉しいです!」
「「…………」」
シルヴィの散歩コースである小さな公園を歩いていると、清水さんと遭遇してしまった。
「今日も吉岡さんの相手をさせられてるんですか?いくら小南事務局長と仲が良いからって、吉岡さんも図々しくない?しかも犬連れって……それ、迷惑になってるんじゃない?」
ーもともと、シルヴィ同伴が前提だからねー
何て言っても、また違う事で口撃してくるだろうから、敢えて言わないけど…どうして、こうも遭遇率が高いのか……GPSやら盗聴器でも仕掛けられてるんだろうか?
「シルヴィの散歩をしているから、迷惑になってないし、吉岡さんが俺の相手をしてくれているのであって、吉岡さんが図々しい訳じゃないから、貴方がわざわざ気にする事ではないと思う。」
「やだ、吉岡さんの事庇うなんて、良い人なんですね!あ、私、清水渚沙って言います。貴方は──」
「……春野です。今から予定があるから、ここで失礼しますね。吉岡さん、行こう。」
「え?あ…はい。」
春野君はフルネームでは答えず、更に話し掛けようとした清水さんを無視するように、私とシルヴィに先に進むように促して来た。そんな私達の様子を、引き攣った顔で見ている清水さんには気付かないふりをした。
ーこれ以上、清水さんが何かして来るような事がなかったら良いけど…ー
と、私達は小南家へと向かった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
ও(੭*ˊᵕˋ)੭ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤ❥
❋本日は、もう1話、更新予定です❋
「なるほど……ここの、だったのか…」
タルトを食べながらやけに納得顔をしている春野君に「どうしたの?」と訊くと、春野君のお母さんはケーキを作るのが上手らしく、今食べているこのお店の人気タルトの味や見た目が、作ってくれていたモノと似ているそうだ。
「春野君のお母さんは、料理上手なんですね。」
「そう…ですね。比較的簡単なモノであれば、パパッと作る事もあるかな?」
何故最後が疑問形なのか……も気になるけど、それよりも──
ー店内に居る女子達からの視線が痛いー
ここに来る前から、ある程度の覚悟はしていた。絶対に注目を浴びるだろうと。ここに来る迄にも、数人に声を掛けられた。まだほんの2時間程だけど、小南さんの心労が理解できた。後は、小南さんの家まで送って行くだけだ。頑張れ!私!
「それじゃあ、そろそろ小南さんの家にいきましょうか。」
「あ、お会計は案内のお礼を兼ねて俺がしますね。」
と、断る隙も無く、私の食べた分までサクッとお会計を済ませてしまった春野君は、本当にモテ要素しか見当たらなかった。
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「セオ君、おかえりなさーい。翠ちゃん、今日はありがとうね。ついでに、一緒に夕飯食べて行かない?」
「お誘いは嬉しいんですけど、シルヴィの餌も用意していないので、今日はこのまま帰ります。」
「そっか、それは残念。また、改めてお誘いするわね。今日は本当にありがとう。」
小南さんの家のマンションから私の家マンションまでは、徒歩20分程。外はまだまだ明るいのに「家まで送ります」と春野君に言われ、「大丈夫です!」と断っても折れてはくれず、ニコニコと笑う小南さんにも後押しされ、結局は送ってもらう事になってしまった。
「態々送ってもらって、ありがとうございました。」
「こちらこそ、今日は急なお願いだったけど、付き合ってくれてありがとう。」
フワッと笑うと更にイケメン度が増す春野君は、「それじゃあ…」と言って、そのまままた、もと来た道を戻って行った。
いつまで日本に居るか知らないけど、もう会う事はないかな?なんて思っていたけど……そうはならなかった。
「どうしても“連れて帰って来い”って言われてね。明日、ウチに来てくれるかい?」
と、申し訳無さそうに事務局長に声を掛けられたのが、春野君を案内した翌日だった。奥さんが、お礼ついでにご飯を食べに来て欲しいと言ってくれているらしい。勿論、小南夫婦は大好きだから、断る理由はない。「シルヴィも一緒に連れて来て良いからね」と、週末である明日、シルヴィと一緒に小南家に行く事になった。
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「吉岡さん」
「ん?え?春野君!?」
土曜日、小南家に行く為にシルヴィと一緒に家を出ると、そこに春野君が居た。
「こんな所でどうしたんですか?」
「この時間に吉岡さんが来るって聞いて、迎えに来たんだ。」
「はい!?」
ー迎えに!?何故!?ー
「ん?えっと……この子が、シルヴィ?」
「え?あ…そうです。私が飼っている犬のシルヴィです。」
「犬…………えっと……変わった色の毛色だね?」
「そうなんです。安易ですけど、白銀色だから“シルヴィ”にしたんです。」
「…この子……いや……。あ、みきさんが、まだ時間があるから、この辺りを散歩しながら帰って来いって。」
「そうなんですね。それじゃあ…シルヴィの散歩コースにでも行きますか?」
「うん。宜しくお願いします。」
と、春野君はやっぱり顔だけじゃなくて性格も良い人のようだ。きっと、ご両親も良い人なんだろうな……
ーあの人達とは……大違いだー
もう関係無い─と思っていても、未だにこうして頭に過ると言うことは、まだまだ囚われていると言う事なんだろう。
「どうかした?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。それじゃあ、散歩に行きましょう。」
そう言って、私は春野君とシルヴィの散歩を始めた。
「また会えて嬉しいです!」
「「…………」」
シルヴィの散歩コースである小さな公園を歩いていると、清水さんと遭遇してしまった。
「今日も吉岡さんの相手をさせられてるんですか?いくら小南事務局長と仲が良いからって、吉岡さんも図々しくない?しかも犬連れって……それ、迷惑になってるんじゃない?」
ーもともと、シルヴィ同伴が前提だからねー
何て言っても、また違う事で口撃してくるだろうから、敢えて言わないけど…どうして、こうも遭遇率が高いのか……GPSやら盗聴器でも仕掛けられてるんだろうか?
「シルヴィの散歩をしているから、迷惑になってないし、吉岡さんが俺の相手をしてくれているのであって、吉岡さんが図々しい訳じゃないから、貴方がわざわざ気にする事ではないと思う。」
「やだ、吉岡さんの事庇うなんて、良い人なんですね!あ、私、清水渚沙って言います。貴方は──」
「……春野です。今から予定があるから、ここで失礼しますね。吉岡さん、行こう。」
「え?あ…はい。」
春野君はフルネームでは答えず、更に話し掛けようとした清水さんを無視するように、私とシルヴィに先に進むように促して来た。そんな私達の様子を、引き攣った顔で見ている清水さんには気付かないふりをした。
ーこれ以上、清水さんが何かして来るような事がなかったら良いけど…ー
と、私達は小南家へと向かった。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
ও(੭*ˊᵕˋ)੭ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤ❥
❋本日は、もう1話、更新予定です❋
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