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67.泣き言を言いたいけど
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「背は真っ直ぐ!」
「歩幅が大きすぎます! 爪先を意識して⋯⋯」
「目線が下がっています! 顎を引いて」
「次の夜会は王太子殿下が主催されますから、殿下の御前ではもっと深く腰を落として⋯⋯もっと⋯⋯そう、そのまま体勢をキープして⋯⋯ぐらつかない」
(ぐっ、ぐぐ⋯⋯、むっむり~)
ご存知のようにカーテシーは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げます。
そこまでは良かったのですが、それが王族の前となると目線を下げて背筋は伸ばしたままで、ぐっとぐぐっと腰を下ろして⋯⋯下ろして⋯⋯。
無理です! グラグラのプルプルです。
「もっと体幹を鍛えなくてはいけませんが、今回は時間がありません⋯⋯これはもう練習あるのみですね」
続きまして、恐怖のダンスレッスンです。取り敢えず踊ってみようという事になりましたが、ステップは間違えるし足は踏むしですぐにストップがかかりました。
「これは⋯⋯ダンス以前の問題ですね。基本の姿勢からやりましょう」
最後にダンスレッスンをしたのは5年以上前ですし、練習以外では一度も踊ったことがありません。
学園? 影が薄くて目立たない壁の花御一行様の一人でしたから、ダンスはお父様とだけですの。
「お尻を引き締めて⋯⋯脚から頭に向けて上からロープで吊されたようにまっすぐに⋯⋯そう、そこから手を上げて⋯⋯背伸びするような感じでゆっくり手を下ろして。
体の力を抜いて顎を引いて⋯⋯目線は相手の顔です。笑顔を忘れてますよ」
先生、この姿勢から足を動かす勇気がありません。
「正しい姿勢が取れていればあとは男性の腕次第です。
男性が女性より背が高い場合にありがちですが、一番の注意点は大股で踊らない事。大股になると常に重心点が男性から遠ざかりますから、格闘技をしているみたいになってしまいます」
社交ダンスは基本的に女子に男子が合わせるものだそうですが、いくら男性が上手くても女性が壊滅的では合わせられないと言われました。
うぅ、頑張ります。
「でははじめましょう。音楽を⋯⋯⋯⋯足元を見ない⋯⋯肩の力を抜いて⋯⋯」
練習しているうちに少しずつステップを思い出してきましたが、お相手の足を踏みまくりです。
2回目の練習の時から相手役を務めてくれる方が靴に鉄板を仕込んでこられるようになりました。そんな便利な物があるなんて驚きです。
中々上達出来ないので本番でもノア様の靴には鉄板を仕込んでいただけばなんとかなるかも!とズル⋯⋯淡い期待を抱いておりましたが。
「エスコートされるのはどなたのご予定かお聞きしても宜しいかしら?⋯⋯ええっ!フォレスト閣下ですの!?
フォ、フォレスト閣下は今までどなたともダンスをされた事がないと聞いておりますから⋯⋯鉄板では足りないかも⋯⋯ブツブツ⋯⋯閣下のフォローが無理そうなら⋯⋯今回は足を痛めている事にされた方がいいかも。せめてあと一か月、いえ二ヶ月あれば」
とうとう先生から匙を投げられてしまいました。
「リリスティア様、大変言いにくいのですが正直に申し上げて宜しいでしょうか?
王太子殿下の夜会には有力な高位貴族や歴戦の猛者が集結します。今まで女性の影が欠片もなかったフォレスト閣下がそこにリリスティア様をエスコートされれば、会場中の注目の的になるのは間違いありません。
おそらく間違いないと思いますけれど、目を吊り上げて粗探しをした上に血眼になって瑕疵を捏造して引き摺り下ろそうとするご令嬢やご夫人がリリスティア様の周りに群がるはずです。
その方々を喜ばせるよりもダンスは諦められた方が賢明な気が致しますわ」
か、瑕疵を捏造ですか!? 社交界、恐るべし。
夢の夜会ですが⋯⋯わたくしの運動神経が悪すぎて泣きそうです。やはり準備期間が足りなすぎました。
でも、ここで諦めるわけには参りませんの。だって⋯⋯。
「リィ、がんばれえ!」
「リィ~、れぇ」
テラスのガラスに張り付いたちびっこ2人の応援がここまで聞こえてくるのですから。
レッスンがはじまってから毎日、ハンナ達の目を潜り抜けて応援に来てくれるのです。
はじめの頃は黙ってガラスに張り付いていた2人ですが、自主練しているわたくしを揶揄うターニャを見てから声援付きになってしまいました。
因みにグレッグ達の声援内容は完全にターニャのパクリです。
『お嬢様、プルプルしすぎですよ~! 私の明日のおやつあげますから頑張ってプルプル止めましょうね~』
「リィ、グエッグのおやちゅあげから、プルプルとめれえ~」
「リィ、れえー!」
『お嬢様、こっちのドレスで練習しましょう。ダンスレッスンは可愛いドレスの方がモチベーション上がりますから~』
「リィ、かあーいーよおーーー!」
「リィー、よおー!」
『お嬢様、ほらほら! もうちょっと腰を低く! 踵の高い靴なんかに負けちゃ駄目ですよ~』
「リィ、まけないのー」
「リィ~、のぉ!」
グレッグ達が握り拳を突き上げているのもターニャとそっくりです。
子供って、こういうことだけはすぐ覚えてしまうんですから困ります。ほら、先生がお腹を抱えて笑っておられますわ。
ガラスにぺったりと張り付いて顔を赤くし声の限りに叫んでくれるのですから、泣き言など言えませんでしょう?
「歩幅が大きすぎます! 爪先を意識して⋯⋯」
「目線が下がっています! 顎を引いて」
「次の夜会は王太子殿下が主催されますから、殿下の御前ではもっと深く腰を落として⋯⋯もっと⋯⋯そう、そのまま体勢をキープして⋯⋯ぐらつかない」
(ぐっ、ぐぐ⋯⋯、むっむり~)
ご存知のようにカーテシーは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げます。
そこまでは良かったのですが、それが王族の前となると目線を下げて背筋は伸ばしたままで、ぐっとぐぐっと腰を下ろして⋯⋯下ろして⋯⋯。
無理です! グラグラのプルプルです。
「もっと体幹を鍛えなくてはいけませんが、今回は時間がありません⋯⋯これはもう練習あるのみですね」
続きまして、恐怖のダンスレッスンです。取り敢えず踊ってみようという事になりましたが、ステップは間違えるし足は踏むしですぐにストップがかかりました。
「これは⋯⋯ダンス以前の問題ですね。基本の姿勢からやりましょう」
最後にダンスレッスンをしたのは5年以上前ですし、練習以外では一度も踊ったことがありません。
学園? 影が薄くて目立たない壁の花御一行様の一人でしたから、ダンスはお父様とだけですの。
「お尻を引き締めて⋯⋯脚から頭に向けて上からロープで吊されたようにまっすぐに⋯⋯そう、そこから手を上げて⋯⋯背伸びするような感じでゆっくり手を下ろして。
体の力を抜いて顎を引いて⋯⋯目線は相手の顔です。笑顔を忘れてますよ」
先生、この姿勢から足を動かす勇気がありません。
「正しい姿勢が取れていればあとは男性の腕次第です。
男性が女性より背が高い場合にありがちですが、一番の注意点は大股で踊らない事。大股になると常に重心点が男性から遠ざかりますから、格闘技をしているみたいになってしまいます」
社交ダンスは基本的に女子に男子が合わせるものだそうですが、いくら男性が上手くても女性が壊滅的では合わせられないと言われました。
うぅ、頑張ります。
「でははじめましょう。音楽を⋯⋯⋯⋯足元を見ない⋯⋯肩の力を抜いて⋯⋯」
練習しているうちに少しずつステップを思い出してきましたが、お相手の足を踏みまくりです。
2回目の練習の時から相手役を務めてくれる方が靴に鉄板を仕込んでこられるようになりました。そんな便利な物があるなんて驚きです。
中々上達出来ないので本番でもノア様の靴には鉄板を仕込んでいただけばなんとかなるかも!とズル⋯⋯淡い期待を抱いておりましたが。
「エスコートされるのはどなたのご予定かお聞きしても宜しいかしら?⋯⋯ええっ!フォレスト閣下ですの!?
フォ、フォレスト閣下は今までどなたともダンスをされた事がないと聞いておりますから⋯⋯鉄板では足りないかも⋯⋯ブツブツ⋯⋯閣下のフォローが無理そうなら⋯⋯今回は足を痛めている事にされた方がいいかも。せめてあと一か月、いえ二ヶ月あれば」
とうとう先生から匙を投げられてしまいました。
「リリスティア様、大変言いにくいのですが正直に申し上げて宜しいでしょうか?
王太子殿下の夜会には有力な高位貴族や歴戦の猛者が集結します。今まで女性の影が欠片もなかったフォレスト閣下がそこにリリスティア様をエスコートされれば、会場中の注目の的になるのは間違いありません。
おそらく間違いないと思いますけれど、目を吊り上げて粗探しをした上に血眼になって瑕疵を捏造して引き摺り下ろそうとするご令嬢やご夫人がリリスティア様の周りに群がるはずです。
その方々を喜ばせるよりもダンスは諦められた方が賢明な気が致しますわ」
か、瑕疵を捏造ですか!? 社交界、恐るべし。
夢の夜会ですが⋯⋯わたくしの運動神経が悪すぎて泣きそうです。やはり準備期間が足りなすぎました。
でも、ここで諦めるわけには参りませんの。だって⋯⋯。
「リィ、がんばれえ!」
「リィ~、れぇ」
テラスのガラスに張り付いたちびっこ2人の応援がここまで聞こえてくるのですから。
レッスンがはじまってから毎日、ハンナ達の目を潜り抜けて応援に来てくれるのです。
はじめの頃は黙ってガラスに張り付いていた2人ですが、自主練しているわたくしを揶揄うターニャを見てから声援付きになってしまいました。
因みにグレッグ達の声援内容は完全にターニャのパクリです。
『お嬢様、プルプルしすぎですよ~! 私の明日のおやつあげますから頑張ってプルプル止めましょうね~』
「リィ、グエッグのおやちゅあげから、プルプルとめれえ~」
「リィ、れえー!」
『お嬢様、こっちのドレスで練習しましょう。ダンスレッスンは可愛いドレスの方がモチベーション上がりますから~』
「リィ、かあーいーよおーーー!」
「リィー、よおー!」
『お嬢様、ほらほら! もうちょっと腰を低く! 踵の高い靴なんかに負けちゃ駄目ですよ~』
「リィ、まけないのー」
「リィ~、のぉ!」
グレッグ達が握り拳を突き上げているのもターニャとそっくりです。
子供って、こういうことだけはすぐ覚えてしまうんですから困ります。ほら、先生がお腹を抱えて笑っておられますわ。
ガラスにぺったりと張り付いて顔を赤くし声の限りに叫んでくれるのですから、泣き言など言えませんでしょう?
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