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 令嬢たちの視線は一斉にナディアに向く。

「まあ、すごいじゃない!」
「おめでとう、ナディア」

「ありがとう。婚約披露パーティーを開く予定だから、みんな来てね」

 ナディアは離れたベンチで本を読んでいたシルヴィにも声をかけた。

「シルヴィも来てね」

 シルヴィは顔を上げて、「もちろん行くわ。ありがとう」と微笑んだ。

 今夜の慈善パーティーにもエスコートしてもらう予定だとナディアは言った。

 むすっとした顔のアネットが、令嬢たちから離れて歩いてくる。
 シルヴィの隣に座ると「バカみたい」と言った。

「ナディアは伯爵令嬢だから、格上の侯爵家に嫁げるのが嬉しいんでしょうけど」
「エドワールは立派な方だし、いいお話じゃない」
「でも、まだ正式に決まったわけじゃないんでしょ。あんなに自慢して、うまくいかなかったら大恥よね」

 シルヴィは眉を潜めた。

「何かヘンなこと考えてないでしょうね」
「ヘンなことって、何? シルヴィこそ、ヘンな言いがかかりつけるのはやめてよね」

 ツンとすましてシルヴィに言い返したアネットの目が、学舎の渡り廊下に向けられた。
 そこを行く誰かに向かって、にこりと天使のような笑みを浮かべる。

 視線を追うと、ずんぐりした体系の青年貴族が驚いたようにアネットを見ていた。
 モラン侯爵家の第一令息エドワールだ。
 少し前まで、アネットは彼など眼中にもないという態度で接していたのに……。

「アネット……、やめて」
「あら、何? 目が合ったから笑っただけでしょ」

 金色の美しい巻き毛を揺らして、アネットは嫣然と微笑む。
 その美しい笑顔のままベンチから立ち上がり、エドワールのほうへ歩きだした。

「エドワール、今夜ちょっとしたパーティーがあって、私をエスコートしてくださる方がいないの……。もしよかったら、あなたにお願いしたいのですけど……」

 いかにも恥ずかしそうに頬を染めるアネットを、エドワールが目を丸くして見つめる。
 真っ赤になって「ぼ、ぼ、僕で、よければ……」と答えた。

 アネットは勝ち誇ったような顔でシルヴィを振り向いた。
 少し離れた場所では令嬢たちが呆然と二人を見ている。ぎゅっと握られたナディアの拳が震えているのがわかった。

(アネット……。おかしなことはしないでって、たった今、言ったばかりなのに……)

 ナディアの顔を見ることができず、シルヴィはそっと目を閉じる。その場で頭を抱えたかった。

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