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33.お迎え

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 そう言ってボス部屋にズカズカ上がり込んできたのは、俺の番だ。
 燃えるような赤毛と、金の瞳。大きな体躯と同じほどの尺がある大剣。
 
「お前、確かに死んだはずじゃ……!!!」

 サイラスが叫ぶのにも構わず、ジークハルトはまっすぐ俺だけを見ていた。あっという間に間合いを詰め、剣の一振り二振りで拘束された俺をサイラスから取り戻す。
 俺を巻き込んで魔法を撃つ訳にはいかないサイラスでは、近接戦でジークハルトに抗うことなどできるはずもなかった。
 すぽん、と片手で腕の中に抱き込まれ、心底安心して脱力する。

「おっっっっせぇぇんだよ~~~………もう、ほんとだめかと思ったし~~!!!!」

 涙声になりながら非難すると、ジークハルトはよしよしと俺の髪を撫でて、頬にキスを落とした。

「ごめんな、リディ。色々あって。でも浮気は誤解だ。お前と出会って以来、リディ以外のやつなんか目に入らねぇ。愛してるのはお前だけだ。ちゃんと事情も説明する。傷つけて悪かった」

 許してくれ、と懇願するジークハルトに、俺はツンとそっぽを向く。

「許すかどうかは、話を聞いてから決める。それに、浮気が誤解だったとしても、こんなに遅くなったのは事実だし」

「それは半分以上、あそこにいるクズのせいだな。お前を探してたら、心臓ブチ抜かれて生き埋めにされた」

 しれっと言うジークハルトに、俺の目が点になる。

「は?心臓?」

「ああ。お前の姿を見たって女に行先知ってるやつのとこに案内してやるって言われてよ。したら魔法陣で足止めされて女にしがみつかれたとこを遠隔魔法で派手にやられてな。直前で攻撃されてんのには気付いたんだが、避けたら女が吹き飛んじまうし、そしたらリディが怒るだろうなと思っちまって」

「それで、大人しく心臓ぶち抜かれたのか?」

 ジークハルトはバツが悪そうに頷く。
 確かに他人を巻き込んで犠牲にするのは本意ではないが、だからって甘んじて心臓犠牲にするってやばすぎるんじゃないだろうか。コイツに王の自覚とかはないのだろうか。

「俺のやらかしのせいで女見殺しにするとか、お前が一番ブチ切れそうだろうが。これ以上怒らせたら、帰ってきてくれねぇと思って」

「そ、そんなこと………ないし」

 流石に心臓やられたら普通は死ぬ。そこまで俺は鬼じゃない。

「でも後で知ったらお前、絶対に『自分のせいだ』って悩んじまうだろうが」

 むぐぐ。それはそう。俺が迂闊に城を飛び出したせいでって絶対に思ってしまうと思う。
 収容所で吹き飛ばされた人たちにも申し訳なかったと思うけど、犯罪者と汚職警官だから、罪のない一般人の女の子よりはダメージが少ない。

 でもそうか。俺のためか。俺が気にすると思って、そんなやばいリスク負ってくれたのか。
 そう思うとなんだかキュンとしてしまう。安いと思うかもだけど……いや、命だから安くはないな!?ジークハルトがあんまりにもあっさり言うから感覚がおかしくなる。

「俺のために命張ってくれたんだ」

「当然だろ?お前は俺の番なんだから」

「うれしい!すき!」

 めちゃくちゃ抱き着きたいけど、触手に拘束されて抱き着けないのが残念。
 今更になってサイラスの存在を思い出して目をやると、サイラスは物凄い憎悪の目でジークハルトを睨んでいた。
 まあ、そりゃそうなるよな。


「邪魔するな………リディエールは俺と来るって言ってくれたんだから、返せ!!!」

 サイラスが叫んで、オーラを触手のように伸ばす。ジークハルトを攻撃するというよりは、俺を取り返すための行動なのだろう。まっすぐに俺めがけて伸びてきている。

「返せだぁ?リディは俺のもんなんだよ!俺の番で、奥さんで、5人の母親だ。テメェの出る幕なんざねーんだよ、このクソストーカー野郎が!!!!」

 ジークハルトは俺を片手で抱えたままバックステップで移動すると、器用に触手を避けた。
 触手も負けじと絡んでくるんだけど、ジークハルトには羽があるため、そう簡単には捕まらない。

「アレ、剣で斬れねぇの!?」

「無理だ!つーか斬れなくて心臓やられた」

「あー……」

 なるほど、そりゃあ仕方ない。俺がこうして捕まっちゃったのも剣使えなかったせいだし。まぁそもそも剣抜けなかったんだけどさ。
 でも抜けなかった原因は何となくわかる。多分だけどソードマスターの称号、カードから消されたんじゃないかな。前にソーニャがそんなようなこと言ってたし。そう考えるとソーニャのギルドマスター権限も大概チートだな。

「リディはアイツどうやって倒すつもりだったんだ?」

「悪い、そこはソーニャ任せでさぁ。ソーニャはなんか気付いたみたいだったんだけど……」

「マジか。でもあそこで伸びてんの見るとありゃダメだな。てかあのババァも回収しねぇとやべぇな」

 気付いたジークハルトが、慌ててソーニャの近くまで飛んでソーニャの体をもう片方の手で抱え上げる。
 両手が塞がってしまったジークハルトは低く唸った。

「こりゃダメだ。一旦引くか?」

「ダメだろ!あいつ野放しにしたら何するかわかんないぞ!それに、ノエルを置いてけない!」

「ノエル?」

「俺の新しい家族だよ!30階層で待っててくれてるんだ」

 ピクリ、とジークハルトの片眉が上がる。あ、これやばいやつか?

「新しい家族って、どういう意味だ?」

「い、いや、浮気とかじゃないし!ただの子犬だから!すっげー可愛いからジークもきっと好きになるぜ!ふわふわで。まんまるで、だっこして寝るとすっごくあったかいし、甘えん坊でさぁ。いっつも俺の膝の上に乗ってきて、顔とかペロペロしてくるんだ!」

 ノエルのかわいらしさについてはいくらでも語れる!
 俺はついつい、ジークハルトの不穏な様子を忘れてデレデレ飼い主オーラを出してしまった。
 まさか、ジークハルトの嫉妬が獣にも有効だとは思わなかったんだ。

「俺がリディと引き裂かれて血反吐を吐いてる間、そのケモノは図々しくも俺のリディに抱かれて同じベッドで眠った挙句、日常的に膝の上に乗ってリディの顔を嘗め回してやがったわけだ……」

「え、なんかヤな言い方だな。おい??」

「30階層だっけか?」

 ジークはニッコリと笑うと、ソーニャをひょいっと投げて背中に背負い上げ、手の代わりに羽で受け止めた。
 そして、フリーになった右手で剣を持ちあげる。

「えーと、ジークまさか」

 ジークハルトは勢いよく剣を振りかぶり、ダンジョンの地面に向かって突き刺した。
 ビキビキッ、と音を立てて不吉な音が響き渡る。



 そして、ダンジョンの床が―ーーー抜けた。 



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