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2章
3.ルジュナ大公国
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俺たちが森を抜けたのは、翌日の夜もかなり遅くなってからだった。
目視で砦が小さく見えていたから何とかそこまではと思って頑張ったのだが、まさかこんなに時間がかかるとは。
警備上の問題で、夜遅くなると門は固く閉ざされてしまう。
余程の強力なコネでもないと、開けてもらうことは難しいだろう。
「どうする?リディ。身分を明かせば余裕で突破できるが」
「そこまでしなくてもいーよ。もう森抜けたから転移も使えるし、ここにマーク残して家にかえろ」
「……そうだな。家に帰ろう」
ジークハルトに抱っこされて、チュッとキスされる。
どことなく心許なく不安な気持ちでいる俺は、今『おうちかえりたい』状態なのだ。
自分を脅かすことのない、何一つ不自由のない場所でゆったり過ごしたい。これは決定事項である。
ちゃんと空間魔法で倉庫が開けるのを確認した後、俺たちは10日ぶりに帰宅した。
着いたら真っ暗だったけど、魔導具の灯りをつけたら明るくなって、一心地着く。
やっぱり家はいい。家は。弱ってる時は特に。
「あー、やっぱ家は落ち着くな」
「わかる。ソファいいやつあったら買いたいなぁ」
「ここに置くにはリビング狭くねぇか?改築するか?」
確かに、この家はこじんまりとしているので、リビングとダイニングが兼任になっている。
応接間があるけど、そこはあんまり出番がなさそうだから、壁をぶち抜いて一部屋にしてしまうのもいいかもしれない。
貸りるだけのつもりだったけど、旅に出る前に正式に買い取ったからなんの問題もないはずだ。ちなみに金はジークハルトが出した。
少しの間ラグの上でゴロゴロした後、禁断の夜遅い夕食を食べる。
時間も気力もないが、貯蔵庫さえ開けられれば問題なしだ。
ナイフとフォークで食べる食べごたえのあるハーブたっぷりのソーセージや、温めるだけで食べられるトマトのスープ、ラム酒たっぷりのケーキなんかを並べて、ちょっと火を通したり炙ったりすればOKだ。
きちんとテーブルについてお皿の上の食材を頬張ると、満足感に包まれる。落ち着いて食べてるって感じだ。
「うーん、うまい!」
「ソーセージ悪くねぇな。また買おう。どこで買ったんだっけ?」
「これは確か旅の途中の街の肉屋で買いだめしたやつだから、リピートは難しいかなぁ。近くの肉屋に持ち込んで、こんな感じのやつ作ってくれって言ったらダメかな」
「アリだな。最終手段ウチで作って持ってこさせよう」
ウチ、というのはアルディオンのことだろう。
どこの国の国王が家出中にソーセージ作って寄越せって特注するんだ。
状況が状況だからまだいいけど、普通なら暴君もいいところだぞ。
ワインを傾けてパンを齧りつつ、俺たちは明日の予定について話し合った。
せっかく戻ってきたんだし、明日はソーニャのところに顔を出して、相談に乗ってもらうことにする。
今の俺の体に合った服も少しは欲しいし、妖精の干渉力は侮れないとわかったので、もし再び森に入る必要が生じた時のために旅装も整えたい。保存食も必要な気がするし。
そしてこれまた恒例。
体が小さいままの俺は、食事中に船を漕ぎ始めた。うう。眠い……。
まだ食べたいのだが、瞼が重くて言うことをきかないのだ。子供の体って不便すぎる……!!!
「ジークぅ……ねむ、ねむぃ……」
「大丈夫か?リディ……ってうわっ!いつの間にワインなんか飲んでんだ!?」
俺のコップに入ったワインを見て、ジークが慌てている。
最初はちゃんと水を飲んでいたはずなのだが、うっかりいつもの癖でおかわりを注ぐ時にワインを入れてしまっていたらしい。妙にうまくて、めっちゃ飲んだ。それは眠いはずだ。
「むり……限界」
ぐう、と俺はナイフとフォークを持ったまま値落ちした。
大丈夫、ジークハルトが何とかしてくれる。後は頼んだ……。
翌日目を覚ましてから、珍しくジークハルトにめちゃくちゃ説教されたけど、わざとじゃないからしょうがないじゃん!と反抗し、俺は猫のように首の後ろを掴まれて本気で叱られたのだった。ショボン。
※※※
「それで、こんなに早くおめおめと帰ってきたわけですか!」
すっかり小さくなった俺を見て、ソーニャはまず指を指して大爆笑した。
深刻になられるよりは笑い飛ばしてくれた方がいいが、あんまり笑われると俺だってムッとする。
いきなり子供になるなんて、どう考えても異常事態なんだから、もう少し心配してくれたってバチは当たらないんじゃないだろうか。
「もう!バカにするなら帰る!」
プンスコと頬を膨らませて怒り出した俺を、ソーニャが慌ててなだめる。
「すみませんすみません、そう怒らないでくださいよ。あんまりあなたらしいから、つい笑ってしまったんです。ちゃんと解決方法も教えてあげますから、許してください」
「知ってるのか!?」
なんということだ。流石500年も生きるエルフ。伊達に年は取っていない。
俺が食いつくと、ソーニャはにっこりと笑った。
「確か一度そういう文献を読んだことがあります。ルジュナ大公国の王立図書館だったでしょうか。妖精はお気に入りの人間にそういう悪戯を仕掛けるんだそうですよ。と言っても、妖精には悪気はなくて、ただ若返れば寿命も伸びるし喜ぶだろうと思っているんだそうですが」
「悪意があるわけじゃないのか……」
それを聞いてホッとする。知らない間に何かやらかして怒らせてしまったんだろうかと思っていたから、そうでないとわかっただけで安心した。
善意でされたことならば、最悪直談判して頼み込めば元に戻してくれるんじゃないだろうか。
「元に戻るには、薬を読んだことが調合して飲めばよかったはずです。材料は確か……ドラゴンの鱗とアズラの実、マディラの根とファングタイガーの爪……後もうひとつふたつあった気がしますが、流石に覚えていませんね」
目視で砦が小さく見えていたから何とかそこまではと思って頑張ったのだが、まさかこんなに時間がかかるとは。
警備上の問題で、夜遅くなると門は固く閉ざされてしまう。
余程の強力なコネでもないと、開けてもらうことは難しいだろう。
「どうする?リディ。身分を明かせば余裕で突破できるが」
「そこまでしなくてもいーよ。もう森抜けたから転移も使えるし、ここにマーク残して家にかえろ」
「……そうだな。家に帰ろう」
ジークハルトに抱っこされて、チュッとキスされる。
どことなく心許なく不安な気持ちでいる俺は、今『おうちかえりたい』状態なのだ。
自分を脅かすことのない、何一つ不自由のない場所でゆったり過ごしたい。これは決定事項である。
ちゃんと空間魔法で倉庫が開けるのを確認した後、俺たちは10日ぶりに帰宅した。
着いたら真っ暗だったけど、魔導具の灯りをつけたら明るくなって、一心地着く。
やっぱり家はいい。家は。弱ってる時は特に。
「あー、やっぱ家は落ち着くな」
「わかる。ソファいいやつあったら買いたいなぁ」
「ここに置くにはリビング狭くねぇか?改築するか?」
確かに、この家はこじんまりとしているので、リビングとダイニングが兼任になっている。
応接間があるけど、そこはあんまり出番がなさそうだから、壁をぶち抜いて一部屋にしてしまうのもいいかもしれない。
貸りるだけのつもりだったけど、旅に出る前に正式に買い取ったからなんの問題もないはずだ。ちなみに金はジークハルトが出した。
少しの間ラグの上でゴロゴロした後、禁断の夜遅い夕食を食べる。
時間も気力もないが、貯蔵庫さえ開けられれば問題なしだ。
ナイフとフォークで食べる食べごたえのあるハーブたっぷりのソーセージや、温めるだけで食べられるトマトのスープ、ラム酒たっぷりのケーキなんかを並べて、ちょっと火を通したり炙ったりすればOKだ。
きちんとテーブルについてお皿の上の食材を頬張ると、満足感に包まれる。落ち着いて食べてるって感じだ。
「うーん、うまい!」
「ソーセージ悪くねぇな。また買おう。どこで買ったんだっけ?」
「これは確か旅の途中の街の肉屋で買いだめしたやつだから、リピートは難しいかなぁ。近くの肉屋に持ち込んで、こんな感じのやつ作ってくれって言ったらダメかな」
「アリだな。最終手段ウチで作って持ってこさせよう」
ウチ、というのはアルディオンのことだろう。
どこの国の国王が家出中にソーセージ作って寄越せって特注するんだ。
状況が状況だからまだいいけど、普通なら暴君もいいところだぞ。
ワインを傾けてパンを齧りつつ、俺たちは明日の予定について話し合った。
せっかく戻ってきたんだし、明日はソーニャのところに顔を出して、相談に乗ってもらうことにする。
今の俺の体に合った服も少しは欲しいし、妖精の干渉力は侮れないとわかったので、もし再び森に入る必要が生じた時のために旅装も整えたい。保存食も必要な気がするし。
そしてこれまた恒例。
体が小さいままの俺は、食事中に船を漕ぎ始めた。うう。眠い……。
まだ食べたいのだが、瞼が重くて言うことをきかないのだ。子供の体って不便すぎる……!!!
「ジークぅ……ねむ、ねむぃ……」
「大丈夫か?リディ……ってうわっ!いつの間にワインなんか飲んでんだ!?」
俺のコップに入ったワインを見て、ジークが慌てている。
最初はちゃんと水を飲んでいたはずなのだが、うっかりいつもの癖でおかわりを注ぐ時にワインを入れてしまっていたらしい。妙にうまくて、めっちゃ飲んだ。それは眠いはずだ。
「むり……限界」
ぐう、と俺はナイフとフォークを持ったまま値落ちした。
大丈夫、ジークハルトが何とかしてくれる。後は頼んだ……。
翌日目を覚ましてから、珍しくジークハルトにめちゃくちゃ説教されたけど、わざとじゃないからしょうがないじゃん!と反抗し、俺は猫のように首の後ろを掴まれて本気で叱られたのだった。ショボン。
※※※
「それで、こんなに早くおめおめと帰ってきたわけですか!」
すっかり小さくなった俺を見て、ソーニャはまず指を指して大爆笑した。
深刻になられるよりは笑い飛ばしてくれた方がいいが、あんまり笑われると俺だってムッとする。
いきなり子供になるなんて、どう考えても異常事態なんだから、もう少し心配してくれたってバチは当たらないんじゃないだろうか。
「もう!バカにするなら帰る!」
プンスコと頬を膨らませて怒り出した俺を、ソーニャが慌ててなだめる。
「すみませんすみません、そう怒らないでくださいよ。あんまりあなたらしいから、つい笑ってしまったんです。ちゃんと解決方法も教えてあげますから、許してください」
「知ってるのか!?」
なんということだ。流石500年も生きるエルフ。伊達に年は取っていない。
俺が食いつくと、ソーニャはにっこりと笑った。
「確か一度そういう文献を読んだことがあります。ルジュナ大公国の王立図書館だったでしょうか。妖精はお気に入りの人間にそういう悪戯を仕掛けるんだそうですよ。と言っても、妖精には悪気はなくて、ただ若返れば寿命も伸びるし喜ぶだろうと思っているんだそうですが」
「悪意があるわけじゃないのか……」
それを聞いてホッとする。知らない間に何かやらかして怒らせてしまったんだろうかと思っていたから、そうでないとわかっただけで安心した。
善意でされたことならば、最悪直談判して頼み込めば元に戻してくれるんじゃないだろうか。
「元に戻るには、薬を読んだことが調合して飲めばよかったはずです。材料は確か……ドラゴンの鱗とアズラの実、マディラの根とファングタイガーの爪……後もうひとつふたつあった気がしますが、流石に覚えていませんね」
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