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2章

6.キトルムの街

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 大公の統治方針は、昔から保守的で手堅い。
 元々妖精が余計な争いごとや人の醜い欲望を嫌うこともあって、あくまで次代の繋ぎと考えている大公としては、派手なことはせず現状維持に務めるつもりなのだろう。
 下手に名君ぶりを発揮して、跡継ぎをと期待をかけられては面倒なことになる。虹色の瞳があるから仕方なく王座に座ってますという姿勢を崩すつもりはないようだ。

 そんなわけで、現在ルジュナは最低限の外交と最低限の交易を除いて外から人を招き入れたがらない。
 絶対にどんなやつでも断るような感じではないけど、歓迎してもないって感じだ。
 せっかくの旅行で招かれざる客扱いされたいと思う人は少ないだろうから、自然と観光客も減り、自然と用事があってやってくる旅人以外はあまり訪れない国となっていた。立地的に絶対に通らないといけない要所でもないしな。

 そんな国の国境から続く街道だけあって、きちんと舗装された道なのに行き交う人は少なかった。
 時折すれ違うのは、恐らく砦に物資を運びにいくのであろう簡素な馬車ばかり。
 盗賊などが現れるようなこともなく、なんとも長閑な場所だった。そりゃあ兵士も平和ボケしそうにもなる。

「ここまでとは思わなかったなぁ。超平和じゃん」

「今の統治方針で悪さをする方が難しいだろうからな」

「どゆこと?」

「王に虹色の瞳がある以上、嘘がつけないだろう。すぐバレるからな。嘘がつけないということは、汚職ができない。今の大公は年の暮れのパーティーに主要な貴族を強制参加で招いて、挨拶の際に必ず『今年は一年何事もなかったか?領地の不正監視と対策に努めただろうか?』と尋ねるそうだ。最後に嘘を吐いていないか確認されるらしい」

「うへぇ……」

 怖すぎる。そこでバレたら一貫の終わりというやつだ。
 ちゃんと不正を見抜く努力をしてきちんと対処したかどうかも確認されるんじゃ、知りませんでしたも通用しない。
 きっと予め調査もされてるんだろうな。国の貴族が一堂に会する場所で審議されるんだから堪らない。
 ちょっとやそっとの小金で悪さをしようなんて気は木っ端微塵になる。
 一年の締め括りに審判が来るとわかっていたら、領内の統治を疎かにすることも難しい。領内で面倒事を起こすやつは自分の立場を危うくする敵だから、かなり厳しく取り締まることだろう。治安の良さにも納得だ。

「エグいけど確かに瞳の能力ありきの有効な手だよな。ルジュナの王族は精霊の加護がある場合200歳くらいまでは生きるらしいから、それまでに跡継ぎが生まれればいいけど」

「こればっかりは運だからな。まあ、あと100年近く猶予はあるから大丈夫だろ」

 大公は今107歳ぐらいのはずだから、少なくともあと70年は大丈夫な計算か。あくまでも寿命の話だから、先王のような事故が起きなければだけど。

「噂では最後の国の生命線ってことで、大公はめちゃくちゃ厳重に守られているらしいぞ。息苦しすぎて時折脱走していると聞いたことがある」

「うわぁ……元王子が嫌になって逃げ出したくなるほどの護衛って、もう監視だよな。実際監視ってことはないのか?王室だって大公の動向は気になるだろうし」

「そう思うだろう?ところがどっこい、その護衛役を買ってでいる奴らが全員王族なんだそうだ。虹色の目を持てなきゃ王位継承から外れちまうから、それぞれに身の振り方を考えるんだろうが、皆熱烈な大公の支持者で護衛役の椅子争いのために決闘するらしい」

 なんというマッチポンプ。
 大公が兄の血を引く王室大好きなように、兄の血を引く王族も献身的な叔父様大好きとは、完全なる両思いじゃないか。
 そう考えると、大公が全く報われないってわけでもないのかもしれないな。
 慕ってくれる可愛い年下の身内のために世話を焼いてしまう気持ちはわかる。かわいいもんな、やっぱ。
 でも自分を巡って決闘とか、普通に嫌だけど。『私のために争わないで』って、どんな悪女か昔のアイドルかよ……。

「なんか大変だなー」

「リディも気をつけないとな」

「えっ、俺?」

 いきなり自分に矛先が向いて、俺は自分自身を指差した。
 今はまだ体を小さくされてるからアレだけど、普段は一応Sクラスの冒険者なのに、冗談が過ぎる。
 クラスとしてはSクラスだけど、冒険者レベルはこなしたクエストの数と内容によって上がってくものだから、Sくらいは俺がまだ独身だった22歳の頃までの話だ。
 純粋な強さでいったらあの頃より強くなってるんだし、今ならきっとSSにだってなれると思う。こないだジークハルトのカード見て負けてるの、ちょっと悔しかったんだよな。

「強くなりたい…………」

「もう充分人間としての能力値としてはカンストしそうだと思うが」

「そんなことない!俺はまだまだやれるはず!王宮でおしとやかに暮らしてたから、全然スキルレベル上がってないし。剣ぐらいカンストさせたいし、弓ももっと上げたいし……」


 そんな取りとめのないことを話しながらてくてく街道を歩いていたら、数時間ほどで最初の街が見えてきた。
 村はもう少し手前にもあったんだけど、ここ数十年旅人なんて来てませんって感じで、宿や食事処自体がなかったからスルーせざるを得なかった。
 2時間を過ぎたあたりから疲れてジークハルトにだっこされて運ばれたけど、これは仕方ないと思う。
 ノエルが自分に乗ってもいいよってアピールしてくれたんだけど、あんまり変化しているところを見られたくないし、今回だけはなるべく子犬を擬態しているようお願いした。

 

 ※※※


「やっと街だ~。流石にここには宿あるよな?」

「流石にあるだろ、何も宿を使うのは国外の奴らだけじゃないし」

 なるほど、確かに。国内の流通や、国交を少なくしているからこその国内需要ってものがありそうだ。
 街としてはもっとも辺境に近い場所に位置するここは、キトルムという。規模としてはネモよりも少し大きいかなって感じの街で、武器屋も防具屋も宿もギルドも一通り揃っている。
 全く違うのは、その雰囲気かな。ネモは良くも悪くも余所者がたくさんって感じで雑多な感じだったけど、キトルムは地元の人が多くて平和そうな感じだ。
 それでいて、巡回の兵士が目につく。これがさっきジークハルトが言ってた大公の統治の賜物ってやつなんだろうな。


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