ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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一ヶ月目

焼肉屋の謎の多さたるや。

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映画は評判程面白いものではなかったが、それでもそこそこ面白かった。
まぁ、そこそこな。

「………あんまり期待しないで良かったって感じ。」
「確かになー。ま、円盤代は節約できたな。」

空になった映画のコラボポップコーンバケツを抱えながら言うことじゃないと思うが、とはいえ俺達には刺さらなかったので仕方ない。
そういうのってあるよな。
評判めちゃくちゃ良いけど、個人的には全然面白くない映画って。

「アクションっていうより、爆発映画って感じだったね。」
「最近多いよな………取り敢えず爆発しとけみたいなの。特撮は良いけどな。」
「特撮も観るの!?」
「ああ。康介は観ねえのか?」

意外そうに目を瞬かせる康介に、なんてことない風に答える。
特撮はわりと昔から好きだ。
怪獣モノも、ヒーローモノも。

「観る!観るよ!B級とかは!?観る?」
「興奮するのは良いけど、バケツ落とすなよ?観るよ。って言っても、観てぇと思ったやつだけだけどな。」

今までにない位キラキラと目を輝かせて興奮する康介のバケツをそっと支えてやりながら、ぐいぐいと来る問いに答えてやる。
真剣に探して観ている訳ではないが、噂になっているようなやつで円盤化されてるやつは買ったりしている。
まあ、どうしようもなく刺さらない作品は売ったり他人にやったりしてるけど。
これは?これは観た?と矢継ぎ早にくる質問を適当に答えながら、駐車場へと向かう。

「耀司くん!」
「分かった分かった。車に荷物置いたら、昼飯行こうな。」

興奮冷めやらぬといった状態になってしまった康介を取り敢えず宥めながら、後部座席を開ける。
似たようなラインナップで買ったから、混ざらないように小物が多い俺の分は適当にバケツの中に突っ込んでおいて、康介の分は一応丁寧に………置く場所はないので、座席のポケットに突っ込んでおく。

「忘れんなよ。」
「うん!ご飯どこで食べる?下?」

下って下の階か。
確かにフードコートやらファミレスやらあったな、そういえば。
でもなー………

「そんな気分じゃねぇなぁ………」
「まあ、学生の頃ならまだしも、この歳だしね。どうしようか。」

悩む。
どこに行くかまで考えてなかったからマジで悩む。
この辺昼飯食うところないんだよな。
あるのはあるが、焼肉屋か居酒屋か焼肉屋。
焼肉屋の謎の多さたるや。
別に確かにランチあるっちゃあるけど、ポップコーンにホットドッグ食った胃と口には何だかコレジャナイ感。

「焼肉って気分でもないしね。普段耀司くんはどうしてる?」
「車だからな。好き勝手行けるから行ってる。てかお前腹減ってる?」
「………正直、そんなに。」

でしょうね!
という俺自身も腹減ってない、が、そんなこと言おうモノならじゃあ今日は解散ねなんて言い兼ねない。
デートは続けたいが、飯食う気分でもない。

「なあ、さっき言ってた映画。」
「ん?」
「俺ん家に円盤あるけど、来るか?」

真剣に悩み始めた康介の頬を揉みながらそう聞いてみる。
別に下心は、無い。
男とのそういうのは確かに興味があるがこんな地味な男に対して欲情はしないし、流石に初デートで家に連れ込んでヤるだけなんて爛れたことはしない。

「………今日は、いいや。次のデートの時、観たい。」

首を横に振る康介にガッカリとしてしまったが、その後に続いた言葉に思わず期待してしまう。
次、という言葉にも。
観たい、という言葉にも。

「次もデートしてくれんの?」
「だって、恋人、なんでしょ?」

視線を逸らして、でも顔を赤くして。
そんなことをこんな静かで周りに俺たちしか居ない空間でいうものだから、これは別にコイツが地味だとか隠キャだとかそんなの関係なくキスしたくなるだろ。
ふざけてんのか

「でも今日は、いっぱい僕と話してくれる約束、でしょ?」

んな可愛いこと言って拗ねたように唇を尖らすな。
マジでキスしたくなるだろうがなめてんのかクソ。
でも昨日交わした約束は俺から言い出したことだから、仕方ない。

「俺の家でもゆっくり話せるぞ?」
「緊張するから、まだダメ。………来週は?会える?」

とはいえこのまま引き下がるのは癪に障るからからかってやれば、何倍ものカウンターパンチを喰らわされた。
俺のシャツの袖を摘むなクソが、可愛いとか思うだろうが。
お前みたいなのがそんなあざとい動作したところでキッツイだけな筈なんだがなぁ!!

「土曜日でも日曜日でも好きな方空けてやるよ。ほら、来い。下のファミレス行くぞ。」

頬を揉むのは止めてやって、もう一度康介の手を握って車に鍵を掛ける。
彼氏の家に上がるのに緊張するとか言ってるあまちゃんには、ファミレスで十分だろう。
多少長居しても、罪悪感無いしな。

「えー、ファミレス?単価安いじゃん………僕の奢りなのに。」
「いっぱい喋るんだろ?デザートとかそこそこ頼んでやるよ。」

ケラケラと笑いながら、そういえば抵抗なく手を繋がれてるなと気付く。
湧き上がる喜びはきっと、手懐けようとしている野良猫が懐いたからとかそんなのだろう。
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