ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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一ヶ月目

前言ってた好きな奴って………

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あの初デートから何かが大幅に変わったかと言われると、そうでもない。
確かにファミレスでは学生時代ぶりに長時間居座って話をしたが、どうにも友人のまま感が否めない。
あの駐車場での可愛さは何だったんだとも思うが、二人きり限定だと思えばそれはそれで可愛いじゃねぇかと思う。
犬猫可愛い的な意味の可愛い、な?

それにしても。
アイツは元彼から散々つまらないと言われてきたようだが、土曜日はなかなかに楽しかった。
オタクとまではいかなくとも映画好きだから、話が合わなかったとかか?
どうでもいいっちゃどうでもいい話しだが、仮にそうだとしたら、それはそれで勿体ない話だなと思う。

「うーん………それもあると思う。話、あんまり膨らまなかったから。」
「お前らなんで付き合えたんだ?」

終業後のいつもの時間にストレートに聞いてみたら、康介は思ったよりも真剣に答えてくれた。
少しは懐いたのだろうか。
まだ一ヶ月も経っていないが、最初の頃の警戒心がなくなった気がする。

「一番最初の彼氏と二番目の彼氏は学生時代の話だよ。」
「浮気して別れたって奴は?」
「三番目の人。あの人とはマッチングアプリで知り合った。」

三人だけなのは別に意外でも何でもなかったが、マッチングアプリで出逢ったということが意外過ぎて俺はガッツリ表情に出してしまったと思う。
康介は呆れたような、それでいて少し悲しそうな顔をして微笑んだ。

「知らない人なら、僕のこと好きでいてくれると思って。」
「知らねえ奴だから、康介のことなんざ雑に扱えるだろ。」

康介が投げやりな態度でそう言うモノだから、何故かムッとしてしまう。
いや、別にコイツがどんなクズに引っ掛かろうとも構わないけれど、それでもまるで自分がどうなろうとも構わないという態度にムカついてしまう。
浮気されただけで終わって良かったと思うべきなんじゃないか?
下手したら借金背負わされたり、殺されたりしてもおかしくはなかった。
別にマッチングアプリを使おうが自己責任だが、変なのを引っかけそうな思考で使うのは良くない。

「サインとかしてねぇだろうな………」
「失礼だなぁ。流石にそこまではしてないよ。ちゃんとその人のこと好きだったし。」

信号が赤なのを見計らって、康介が俺の肩に頭を乗せた。
あのデートの後からスキンシップを仕掛けてくるのも多くなった気がする。
まだ信号は変わりそうにないから、取り敢えず肩に乗っかる康介の頭を撫でてやりながら、ずっと考えていたことを口にする。

「前言ってた好きな奴って………」
「ん?」
「その三番目の元彼?」

俺の言葉に康介はゆっくりと姿勢を正し、じっと俺の目を見つめた。
その瞳は何故か仄昏い、何も映ってないような色合いで―――

「ねえ、耀司くん。」
「こうす………」
「信号、青だよ。」

康介の言葉にハッと我に返り、慌てて………それでも事故らないようにアクセルを踏んで進む。
離れてしまった熱が寂しいというよりも、味わったことのない感情が込み上げてきて気持ちが悪い。
聞き方を………否、そもそも聞く内容を間違えたのか?
康介に関わり出して初めて感じる沈黙と気まずさにどうしたらいいのかが分からない。
結局お互い黙ったまま、最寄駅へと着いてしまった。

「………耀司くん。」
「なんだよ。………うわっ!」

名前を呼ばれて一応返事してやれば、何故かぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜられる。
やめろ!
結構時間かけて毎朝整えてるんだぞ!
そう怒鳴りたい気持ちと、康介の掌の温度と撫で方が心地好いと感じる気持ちがごちゃごちゃになる。

「そんな顔しないで。ごめんね、嫌な思いさせて。」
「………別に。てかどんな顔だよ。」
「んー、気まずいなって顔。」

俺の髪を未だ掻き混ぜながら康介はそう言ったが、意味不明過ぎてどんな顔なのかますます気になる。
だが気まずいと感じていたのは本当なので黙っていると、どうしようもない子供を見るような目で康介が俺を見つめた。
気恥ずかしい、けれども、もしかして………

「………気まずかった。」
「うんうん、ごめんね。もうしない。」

甘えるように今度は俺が康介の肩口に頭を乗せて擦り寄ってみる。
案の定、康介はまるで子供をあやすようにそう言って、俺を優しく抱きしめてきた。
ちょろい。
けど、心地好い。

「日曜日、いっぱい映画観ようね。」
「………土曜日じゃねえのか?」

土曜日なら泊まれるのに。
日曜日とか帰る気満々のスケジュールじゃねぇか。

「ダメ、日曜日だよ。」
「ん。わかった」

叱るように言われたので、ここは一旦素直に引き下がる。
別に日曜日に泊まっちゃいけねぇって決まりはないしな。
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