ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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幸せになりたいだけなのに

所で僕の旦那様はとびきり可愛い

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「………ただいま。」
「おかえりなさい!………あらあら。」

残業代だ、タダメシだとウキウキでおめかしして出掛けた耀司くんが、唇を尖らせて見るからにしょんぼりとしながら帰って来た。
一体どうしたのだろうか?
耀司くんの外面は完璧だし、案外マナーもしっかりしてる。
パーティーの場で失敗するとは思えないから、別のことが理由なんだろう。
僕は耀司くんから荷物やらコートやらを受け取りながら、理由を聞いてみることにした。

「どうしたの?ご飯美味しくなかった?」
「飯は美味しかった。ただ、すっげぇ気に食わない奴に会った。これからソイツ相手に仕事しなきゃいけないかもしれないと思うとうんざりする。」

おやおや。
よっぽどその人が嫌らしい。
意外と思われるかもしれないが、耀司くんは他人に不満を抱いてもそれを表に出したりはおろか、口に出したりなんて滅多にしない。
まぁ、一人例外は居るけど、あの人はあの人でヤバいのでしょうがない。
ぷっくりと頬を膨らませていい年した大人が………と他の人だったら思うんだけど、耀司くんは百点満点に可愛いから許してやろうと思う。

「おいで。お着替えしながらお話しよう。」

手を繋いであげて、ぽてぽてと一緒に廊下を歩く。
ムッとしながらもちょっとだけ落ち着いたのか、耀司くんは大人しく着いて来ながら小さな声で事情を話し出す。

「………なんか、すっげぇ嫌な目で見てくんの。」
「嫌な目?睨まれたの?」
「いや、睨むとかじゃなくて………なんて言ったらいい?なんか見下してくるみてぇな目。」

普段周りを見下してる耀司くんがそれ言っちゃうのかと思ったけど、だからこそ耀司くんは他人からの悪意のある言動はわりと気にせずスルーする。
そんな耀司くんが気にするんだから、よっぽど【嫌な目】を相手の人がしていたんだろう。
そして、今後も多分耀司くんはその目に晒される。
社長がわざわざ耀司くんを指名して連れて行ったんだ。
それは今後取引がある場合は耀司くんが担当しなさいという社長命令とイコールなんだから、担当を誰かに代わってもらうなんてそう簡単にはできない。

「なんか雑談の範疇飛び越えて、めちゃくちゃこっちのプライベートに探り入れてくるしさ。」
「例えば?」
「俺のパートナーがどんな奴なのかとか、結婚生活とか………最初はゲイパートナーっていう物珍しさか?って思ったけど、目が嫌だった。」

………どういうこっちゃ?
担当の人がゲイに嫌悪感がある人だったとか?
まあ、お互い運が無かったと思うしかないよね。仕事だし。
とはいえ僕の可愛い旦那様に嫌な思いをさせた奴の名前だけでも拝んでやろうかと、リビングのソファに耀司くんを座らせて好奇心の赴くままにジャケットの内ポケットにある名刺入れを勝手に取り出す。
本当は宜しくないんだろうけど、耀司くんは何も言わずに靴下脱いでるから大丈夫だろうと勝手に判断して盗み見ると―――

「許斐 宗太郎………?」
「は?何?知り合い?」

なんともまぁ、懐かしい名前が出て来た。
同姓同名かもしれないけど、耀司くんと付き合う前まではわりと頻繁に思い出していた名前だ。
初恋、じゃないけど、一番最初に付き合っていた人だから。

「知り合いも何も、元カレ。」
「は?えっ?でもソイツ、嫁も子供も居るって………」
「だろうね。高校の頃に付き合ってた人だけど、ノーマルだったから学校一番のマドンナ?プリンセス?的存在な人と浮気して別れたよ。」

あー、でも僕の方が浮気相手だったのかもしれない。
当時は凄く好きだったし、浮気されてたことが分かった時も別れ話された時もめちゃくちゃ辛かったけど、今となってはもはや顔すら思い出せないレベルの過去の人になってるからもうどうでもいいけどね。
しかし、耀司くんはそう思えないのか、ジト目で僕のことを睨んできた。
可愛い。
彼氏にヤキモチ妬かれるって、こんなに嬉しくなるものなのか。

「お前、さては面食いか。」
「かもね。」
「でも俺のが一番恰好良いし、イケメンだし。」

名刺をしまいながら軽口を叩けば、ぷりぷりと耀司くんが拗ねる。
あー、本当に可愛い。
僕は自分の顔がでれっとみっともない状態だと分かっているけど、耀司くんがあまりに可愛いので頬やら額やらにいっぱいキスしてやった。

「そうだね。僕の旦那様が、とびきりカッコよくて可愛いよ。」

よしよしと頭を頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細めるから本当に可愛くて仕方ない。
初めて会った時は絶対ソリが合わないって思ったけど、こんなに可愛く思うだなんて思わなかった。

「一緒お風呂入る?」
「入る。」

一緒にお風呂入ったり、僕に抱っこされながらお昼寝したり映画観たりするのが大好きな、甘えん坊の彼氏。
自分の彼氏を甘やかすのがこんなにも楽しいだなんて、知らなかった。
耀司くんにはいっぱい教えてもらってばかりだ。

「よーじくん。」
「んー?」
「好きだよ。」

僕の言葉に、耀司くんは普段は切れ長の目をへにょっと垂れさせて笑った。
ほんの少し、耳を赤くして。

「俺も好きだ。」
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