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薬指の約束
《10》
しおりを挟むハルを抱っこして家へと向かう帰り道。わたしが歩くのに合わせて、左手首に結んだ鈴がチリン、チリンと優しい音を奏でる。それを聞いたヒロが、「綺麗な音だね」と嬉しそうに笑った。
今日はなんだか不思議なことばかりが起きる一日だった。
智颯に再会したことも、神に仕える神獣だという彼の姿を見たことも、高坂神社から家の近くのお寺まで風のように飛んできたことも。全てが夢みたいな出来事なのに、左手首で鳴る鈴の音は間違いなく現実なのだ。
ハルとヒロと一緒に家に帰り着いたとき、背中から風が吹いてきた。後ろ髪がふわりと風に舞い、左手首で金の鈴が揺れる。
立ち止まって空に向かって左手を翳すと、薬指の痣が昨日までよりもくっきりと濃く見えた。
この痣は、煌めく白銀の髪に綺麗な青紫の瞳をした智颯が、わたしに付けた誓いの徴。そこに彼の唇が触れたことを思い出すと、痣の部分がズキズキと疼いて熱くなった。
『今度は、彩寧が自分の意志でおれに会いに来い』
微かな鈴の音にまぎれて、智颯のささやく声が耳に蘇ってくる。
誰かに恋をしたり、付き合ったり……。
そういう過程を全て飛ばして求婚されるなんて思ってもみなかったし、その相手が神様の御使いだなんて信じられない。
今のわたしには、智颯の言うとおりに彼のお嫁さんになる覚悟もない。
だけど……。
手を揺らす度に優しく鳴る鈴の音色に、トクン、トクンと共鳴する胸の鼓動が、わたしに智颯との次の再会を予期させるのだ。
fin.
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