上 下
43 / 80
番外編 第1章

第8話

しおりを挟む
「はあ‥‥はあ‥‥」

 あまりに走りきったものだから俺は疲れてしまい、息切れをしていた。
 なのになぜか姉貴は平気そうだった。

 姉貴はいつもそう、疲れたところや怒るところ、笑うところなどあまり表情や態度にも出さないため俺には姉貴が何を思っているかいまだにわからない。

「逃げきれたようね」
 姉貴が口を開いた。
「あの怪物はそもそも何なんだ?」
「教えてあげるわ。 
だけどその前にお父様のところに向かいましょう」
「父さんに会ってどうする?」
 俺の父さんといえば俺が小学1年生の頃に母さんが離婚して以来、父さんに会ってないが姉貴は離婚してからも頻繁に父さんの家を往復していたらしい。

「今、言っても仕方ない」
「教えてくれてもいいじゃないか、姉弟なんだから」
 俺は嫌味を言ったつもりだが姉貴は表情を変えることなく、くるりと方向転換して歩くので、俺は姉貴の後を追いかけた。
 これは、もしかしたら嫌味に聞こえてないのかもしれない。

「姉貴は状況がわかってるのか?」
「わかってる‥‥つもり」
「つもり?」
「唐突なことだから」
「俺にも説明してくれよな」
「待てないの?」
「そうゆうわけではないけど、気になるんだ」
「何でもは、いきなりできないの」

 姉貴というのはいつでも謎だ。
 何かわかっているような感じはしていても、それが何なのかは教えてはくれない。

「着いたわ」
 目の前には白い屋根のアパートがあった。
「2階がお父様の家よ」
「全然知らなかった‥」
「離婚してから、家なんて変わってないけど、それを知らないとか?」
「仕方ないだろ?」

 そう話しているうちに2階まで着き、姉貴がチャイムを鳴らした。

 インターホーンの上には「芸神げいかみ」という名札がある。
 俺たちの元々の苗字だ。
 離婚してから彩崎に変わったんだよな。

 「何だあ」
 酒の匂いが強いおやじらしき男が戸を開けた。
 この匂い、苦手かも。

 顔を見て、小さい頃の記憶から父さんとわかる。
 けど、こんな酒癖荒い記憶はない。

「彩崎勝恋しょうこよ」
 勝恋は俺の姉貴の名前だ。

 父さんは俺を見て
「誰だ?」
「せか‥」
 俺が答えようとすると姉貴が横から
「宇宙人三世よ」
「何だ、その名前!?」

「なるほど、宇宙人三世って名前か」
「納得しちゃうの?」
「勝恋、中入んな。 ほら、宇宙人三世も」
「その名前やめてもらえますか?俺はせか‥」
「せかされるのが嫌なのか」
「まだ話途中!!」

 俺はムカムカした。
 いくら酔っ払ったとしてもそれはあるか。

 俺が「世界」という名前のことを言おうとする度に父さんは「ああ、わかった」と言うもんだがら「何がわかったんだ?」と聞いたら「ダイヤモンドは光るんだ」って言うもんだから「関係ないだろ!?」とその繰り返しだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:299pt お気に入り:3

夫が選んだのは妹みたいです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,167pt お気に入り:579

試される愛の果て

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,405pt お気に入り:2,048

いちゃらぶ×ぶざまえろ♡らぶざま短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:4,991pt お気に入り:513

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,142pt お気に入り:800

異世界で合法ロリ娼婦始めました。聖女スカウトはお断りします。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:138

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:221,905pt お気に入り:6,195

変幻G在!! ~ゴーレム駆使して異世界サバイヴ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:292pt お気に入り:7

もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:200,384pt お気に入り:4,610

新婚の嫁のクリトリスを弄り倒す旦那の話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:958pt お気に入り:183

処理中です...