シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
380 / 1,309
卒業後

379 星暦554年 藤の月 09日 旅立ち?(20)

しおりを挟む
船を中心とした円を広げながら暫く飛んでいたが・・・何も出てこない。
果てしない水平線ってある程度以上見ると退屈になるんだな。

しかも、最初は船が見えていたので蟻のように小さな船員達が何やら動いているのが面白かったが、更に飛ぶ範囲を広げて船から離れたら、それすら無くなった。

「清早~。ここら辺に、役に立ちそうな島ない~?」
退屈を紛らわすために傍に居る清早に声を掛けた。

「島は幾つかあるけど、どんなのが役に立つんだ?」
姿を現した清早が空滑機グライダーの前の宙に浮きながら聞いてきた。

おっと。
島があるんだ???
考えてみたら、自分で漠然と探さずに、清早に水がある島の場所を聞いてそこの場所と何があるかを確認するべきだったか。

「最低でも、木が生えていて食べられるサイズの動物や海鳥が居る島かな。
もしくは、真水が湧く島。水が取れるんだったら食料が無くても役に立つんだと思う。
人間がいたら更に話が大きくなるな」
話が大きくなることが『良いこと』かどうかは微妙だが。

「ふ~ん。
だったら、もう少しあっちに行ったら木が生えてる島があるぞ。
真水は湧いてないけど・・・湧かして欲しい?」
右前方を指しながら清早が聞いてきた。

マジ???
こんな海のど真ん中にある島に、真水を湧かせられるの???
普通の小さな島って井戸を掘っても海水混じりの塩水しか出てこないって副長は言っていたのに。
「今だけ真水を湧かせるんだったら別に要らないよ。
俺やシャルロが清早や蒼流に頼めば良いだけだからね。
でも、もっと長い間真水が出続けるんだったら凄く役に立つが・・・それって清早の負担にならないのか?」

宙に浮いたままの清早が肩を竦めた。
「真水を循環させる泉を作って、適当にそこら辺に居る水精霊を泉に留まるよう頼めば良いだけだから・・・特に難しい訳じゃあないし、負担でも無いかな?
でも、ある程度してその水精霊が飽きてどっか行っちゃったらそのうち水が涸れるけど」

真水を循環させる泉って・・・。
そんな魔道具を作ろうと思ったらもの凄く大変だぞ。
必要な魔石のサイズもバカみたいに大きくなるし。

精霊がやる分には『特に難しく無い』のかぁ。
蒼流の凄さはちょくちょく見ているが、自分に加護をくれてまだ見た目も幼い清早でもそんなことが簡単に出来るなんて、考えてみると何とも不思議な気分になる。

まあ、空を飛んでいる空滑機グライダーの前を同じスピードで清早が浮かんで動いているのも、なんとも言えず不思議な光景だが。

そこにはっきりと発現して見えていても、俺たちとは根本的に違う存在なんだなぁ。

「う~ん、飽きるのってどの位の時間のことを言ってるんだ?」
精霊の時間の感覚って人間とは大分違うからなぁ。
いつの日か、精霊が飽きたら枯れてしまう水の補給所というのはちょっと危険な気もする。

でも、考えてみたら長期的な話だったら森が伐採されまくって川や井戸が涸れるとか、土が川に流れ込んだせいで港が荒廃するとかってあるらしいからな。
数十年程度だったら十分実用的か?

「さぁ?
直ぐ飽きるかも知れないし、何か面白いことがあったらそれこそ国が出来て無くなるぐらいの期間いるかも知れないし。
分からないね」
残念ながら、清早の答えはちょっと参考にはならなかった。

ううむ。
「何か面白いことって?」

「面白いことは面白いことだよ。
例えば、定期的に何か一生懸命作った物を持ってきてくれたら、面白いかも?」
ひょいっと手の平に以前俺が作って気まぐれであげたダガーを出しながら、清早が答えた。

精霊がダガーなんぞ要らんだろうなぁと思いつつ、色々してもらっていたのでお礼に『いる?』と聞いたら喜ばれて驚いたもんだが・・・そうか、『一生懸命作った』っていうのがポイントなのか。

じゃあ、木彫りの像とかでも良いのか?
でも、寄った船が全部物を置いていったら、その泉の周りが埋もれてしまわないか?
若しくは精霊の存在なぞ分からない不届き者に盗まれて精霊の怒りを買うとか。

いや、清早は俺が渡したダガーをどこかに収納しているから、精霊も収納が出来るか?

まあ、東大陸への航路なんてそれなりに重要かつ長い航路だから、水精霊の加護持ちを乗せている船もそこそこ来るか。
だとしたら、ちょくちょく加護持ちが精霊に何か不満がないか聞けば良いのかもしれない。

そんなことを考えていたら、小さな島が見えてきた。
ウチから村の端ぐらいの距離の直径の、岩がゴツゴツしている島に数本の背の低い木が生えている。
それよりもポイントは、俺から見て左側の岸壁っぽい所に巣を作っているらしき海鳥かな?
あれを捕まえれば新鮮な肉が手に入りそうだ。

・・・でも、小さいな。
魔術師だったら空滑機グライダーで来て上に着陸して、浮遊レヴィアを使って巣にある卵なりそれを温めている母鳥(なんだろうな、多分?)を片っ端から捕っていく事が出来るが、流石に航海中の船員が母船からボートを出してこの島に近づき、岸壁を登るなり降りるなりして海鳥と卵を回収するのは時間的に効率が悪いかも知れない。

泉を創ってもらうならもう少し大きな島で、それこそ牛や山羊でも育ててそれを売りさばく人間も暮らせるぐらいのサイズはあった方が良いだろう。

取り敢えず、場所だけ報告しておくか。
「案内してくれて、ありがとう。
真水に関しては取り敢えずこの島はいいや。
一旦船に戻りたいんだけど、今どこら辺にいる?」
俺が島の周りを見て回っている間にも船は動いていたはず。
同じ方向に戻るだけでは遠回りになるだろう。

「あっちだな」
清早が西(多分?)の方向を指したので、今度は速度と時間に気をつけながらそちらへ飛ぶ。

船に着いたら、航海士に島の位置を割り出して貰わないとならないからな。
一応魔石を一つ置いておいて、必要があったら方向だけは暫くは視えるようにしておくか。

清早に聞けば船の位置が一発で分かるからと位置追跡装置もあれに同調させた魔石を持ってこなかったのは失敗だったな。

次回からは位置追跡装置に同調させた魔石を持って来よう。そうすれば船からの位置関係を簡単に示せるはずだ。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...