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食事と目的設定②

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「あん? 飯食ったあとの話か」
「それもあるけど、もう少し大きな話」

 クゥは続けた。

「昨日まではシグは迷宮の三層まで行くのが限界だったけど、今はぼくがいるからもっと深くまで潜れると思う。……けど、別に生きていくだけならそんなリスクを冒す必要もない。三層までの魔物を狩るだけでお金はけっこう手に入るしね」

 それを踏まえて聞くけど、と前置きしてから、

「シグはこれからどうしたい?」

 そう尋ねてきた。

 迷宮は潜れば潜るほど出現する魔物が強くなり、出口から遠ざかるので撤退が難しくなる。今のシグは精霊術や身体強化を使えるが、死ぬ危険がないわけではない。

 その危険にわざわざ飛び込む必要はあるのか。

 シグはやや遠い目をして言った。

「……俺は、今までさんざん見下されてきた。王宮でも、学院でも、この街でも」

「……、そうだね」

「昨日みてえに実際に襲われることだってあった。学院にいたときとか、しょっちゅう寮の部屋を嫌がらせで荒らされたりしてたな」

 思えばろくな人生ではなかった。

 出来のいい兄と比較され蔑まれたり、両親から王家を追放されて家名を無くしたり、ガラの悪い冒険者に絡まれたり。

 恵まれた生まれではあったが、シグからすれば受けた仕打ちと釣り合うものではない。

「……見返してやる」

 シグは低い声で言った。

「今まで俺を見下してきた連中に仕返ししてやんなきゃなあ。今までは泣き寝入りしなきゃならねえ時もあったが、今はそうじゃねえ。やられたからにはやり返すのが礼儀ってもんだよなあああ?」

「シグ、顔。顔が怖いよ」

 思いっきり根に持っているシグだった。悪人オーラ全開である。

「……見返すのには賛成だけど、具体的な案はあるの?」
「六大魔境を制覇する」

 シグが口にしたのは、まさしく大言壮語だった。

 迷宮を含む六大魔境には、それぞれ最深部に強力な『守護者ガーディアン』がいる。それを倒すとその魔境を踏破したと見なされるのだが、有史以来、六大魔境すべてを突破した人間はいない。

「そうすりゃ誰だって俺のことを認めざるを得ねえ。見下してた人間が、自分なんかじゃ及びもつかねえ成果を出す――プライドの高い貴族どもの鼻っ柱をヘシ折るにはもってこいだろ」

 容易ではないだろう。

 昨日までのシグなら不可能だったはずだ。

 だが、今はクゥがいる。練度1にも関わらず、多数の精霊術や上級相当の身体強化をシグに与える反則的な精霊が。

 ぽかんと口を開けてそれを聞いていたクゥが、シグに尋ねた。

「……昨日から今日までの間に、そんなこと考えてたの?」
「反対するか?」
「ううん、しないよ。ぼくはシグのものだし……お礼参りよりは面白そうだ」

 笑みを浮かべてクゥが賛同を示す。

 それからこう提案した。

「それじゃあ、まずは迷宮の守護者退治かな。さっそく行くかい?」
「いや、先に冒険者ギルドだ」

 立ち上がってそんなことを言ってくるクゥに、シグはこう応じた。


「守護者に挑むには、『試験』に受かる必要があるからな」
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