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花言葉
しおりを挟む翌日には第1種取締課の方が当家に捜索に来られ、帳簿を持ち出したり、お父様やお義母様ミカリーナの部屋からなにかの手紙類を持って行っていらっしゃいました。聞くところによるとクワッド伯爵家にも捜索が入っているそうです。
そうそう、クワッド伯爵家では結婚式から誰も帰宅せず使用人たちは困惑していたそうです。そして翌日には捜索の為に第1種取締課の方が来られ、当主たちも当分帰らない旨を伝えられたそうです。クワッド伯爵家筆頭執事が私宛に訪ねてこられ、「当主不在分の資金を」とおっしゃられますが、わけがわかりません。どうして他人様の使用人の分の資金を私が確保しなければならないのでしょう。こういうのも当主の教育の賜物なのでしょうね。
そんなばたばたの日常の中、数日おきにジョージ様が花束を持って訪ねて来てくださいます。
今日はピンクの色がかわいい東洋からきたというモモという花の花束ですね。
ピンクの花びらが特徴のこの花の花言葉は『私はあなたのとりこ』です。
ジョージ様は来て下さるたびに甘い言葉は下さらないのにこのように素敵な花束を下さるのです。
前回はネムノキの花束『胸のときめき』で、その前はカリンの花束『唯一の恋』を頂きました。
私婚約者はおりましたが恋焦がれる方はしりません。でも大事にして頂いているのは分かっているのです。でもそれはもしかしたら妹のような関係なのかもしれません。花言葉ももしかしたらご存じないのかもしれません。だから何もおっしゃらずに花束を下さるのかもしれません………そう思うとなんだか悲しくなってしまいます。
「シャロン嬢?どうかした?」
花束を頂いて固まってしまった私を見てジョージ様が顔を覗き込んで来られます。
「いえ、本日は天気がよいのでよければお庭のほうでお茶を召し上がられませんか?」
そうお誘いすると「それは素敵なお誘いだね。ぜひ」と微笑んで下さいます。
これは本当に花言葉をご存じなく、ただ誰かにその花を勧められているのかもしれませんね……
私たちはセッティングを頼んでおいたガーデンスペースにジョージ様にエスコートされながら向かいます。
そして頂いた花束を抱きながら、席に座ると、気持ちを整えてジョージ様に告げます。
「ジョージ様、いつもきれいな花束をありがとうございます。お返しにはなりませんが、私も一輪花をジョージ様のポケットに添えてもよろしいでしょうか」
「花?そんなの気にしなくてもいいのに。でもシャロン嬢からもらえるのなら喜んで」
そう笑ってくださいます。
私はわからないもやもやなどずっとは抱えていられないのです。できることならはっきりとさせたい。でもこの関係が終わってしまうと思うのも心が締め付けられてしまいます。でしたらジョージ様がはじめた花のプレゼントをお返しすることにします。
事前に用意していた大きすぎない花弁のペチュニアをジョージ様の胸のポケットに挿し込みます。きっと私の顔は真っ赤になっていると思います。
こんな小さなことが私には大きな出来事なのです……
………どうか気づいて……
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