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4 恋心を学びましょう
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王宮舞踏会まであと1週間を残した頃、ルイ―セは両親から“事前に衣装合わせがあるから早めに王都入りするように”と書簡を貰い、早々と王都に向けて出発した。
今回の王宮舞踏会では社交界デビュタントの令息や令嬢が大広間に集結する。
その場で兄のカールが健在であると国王陛下の御前で貴族達に印象付けることが今回の目標だった。
更に、辺境に領地があるような貧乏男爵家の嫡男であっても、カールと添い遂げたいと願うような高位貴族のご令嬢に見初めて貰えれば、令嬢が嫁いでくる際の持参金で財政的にも潤うし、カールの将来も安泰だろうという…未婚の令嬢らしくない打算もあった。
(ここで上手く立ち回れば、ティーセル家の未来も明るいわ‼兄様の為にも頑張ろう)
今のように王都から遠く離れたティーセル領に居ると、いくら魅力があっても兄のカールは誰からも見初めて貰えない。
だからこそ今回の舞踏会でルイ―セが貴族令息のように振舞えれば、何もしなくてもカールに縁談が舞い込む可能性があると考えたのだ。
カールの容姿は…妹のひいき目もあるが、美しいのではないかと思う。だからその魅力をもっと高めるためには今の王都で流行りの男性像をリサーチしなければいけない。
誰に聞けば分かるのか…王都へ向かう馬車の中で、ルイ―セは真剣に考え続けたのだった。
久しぶりの王都は賑やかで人が溢れている…いっそ鬱陶しいほどだ。
ウンザリしつつも、王都の片隅にある邸宅に足を運ぶと両親が笑顔で出迎えてくれた。
「おお!よく帰ったな…ムムム…本当にルイ―セなのか⁈ …その身形では令息にしか見えんなぁ。これならカールと偽ってもバレないと安心したわい」
「ルイ―セ…貴女がカールの身代わりになるって聞いたときは心配したけれど、それだけ女性らしさの無い体つきなら大丈夫ね。上手に誤魔化すのですよ」
「…お父様、お母様…ご無沙汰しております。お陰様で女性らしさは欠片もありませんので、しっかりお兄様の身代わりを務めたいと思っています」
久しぶりの対面にもかかわらず、サラッと憎たらしいことを言う両親だが、悪気は無いらしい。
…ただ貴族としてはもう少し腹芸も出来ていれば我が家がここまで落ちぶれることも無かったのにとルイ―セは思ってしまう。
「それで、王宮舞踏会で着用する衣装についてですが、少しでも貴族令息らしい、アビ・ア・ラ・フランセーズを仕立てて頂ければと…」
アビ・ア・ラ・フランセーズは貴族男性が着用する正装の事だ。
「おお‼衣装のデザインも、仕立て屋の用意も出来ておるぞ。後は採寸し袖繰りや丈の微調整をすれば良いようになっておる。早速、採寸の者を呼ぶからな」
採寸の仕立て屋が来る前に、メイドのリリーと前準備をする。…ルイ―セも14歳になり、さすがに胸も膨らみ始めているために布を巻いて胸のふくらみを隠す必要があった。
胸を潰した後はコルセットで上半身を締め上げれば、少し線の細い男性と言われても信じられる体型が出来上がる。
その上からシャツを羽織って、ティーセル男爵家御用達の仕立て屋から来たお針子に採寸をさせた。
ルイ―セが男性だと信じ切っているうら若いお針子は、体に触れるのすら緊張しているのか、手を震わせながら採寸を進めていく。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私は貴女を怯えさせるほど悪い男ではないつもりだからね」
そう声を掛けウインクすると、お針子は真っ赤な顔をして慌てた様子で逃げ出してしまった。
「ねえリリー…私はそんなに怖い顔をしていたかな?」
メイドのリリーに尋ねると呆れた様子で首を振られる。
「ルイ―セ様、違いますよ。…貴方が色気を出してウインクしたから、あの初心そうなお針子は逃げ出したんですよ」
…色気?そんなモノを出した覚えは無いけれど、貴族令息として認められたのだとすれば一応は成功だろう。
「色気かぁ…今回の王宮舞踏会で、ご令嬢からモテる令息になるにはどうしたら良いと思う?リリーだったら、どんな男性が好みなの?」
「…ルイ―セ様は男性としてモテたいんですか?王都で話題なのは、今回社交界デビューされる王太子殿下が見目麗しいと町娘からも絶大な人気ですね。他には恋愛小説なんかに出てくる美貌の貴族令息とか、身分違いのお相手もかなり魅力的かと…」
「恋愛小説…?へぇ~、リリーのおススメの小説を私にも貸してくれる?折角だから今回の舞踏会で口説く参考にしたいし、個人的にも読んでみたいわ」
「ルイ―セ様…貴方がこれ以上男性としての魅力を追及してどうするおつもりですか?まあ、私もそう言うのは嫌いじゃないですし、もちろんお貸ししますけれど」
そう言って彼女が貸してくれた恋愛小説は、ルイ―セにとって今まで読んだことの無いほど刺激的な読み物だった。
“王子と平民の女性が出会って直ぐに恋に落ちるストーリー”も、“貴族令嬢が身分違いで許されざる恋に落ちるラブロマンス”も、今まで領地で平凡に暮らしてきた自分の生活には存在したことの無いときめきを与えてくれたからだ。
(こんなすごいときめきの世界が存在していたなんて…。いつか、私も愛する人に出会ったらこんな情熱に身を焦がすのかしら)
ウットリと夢を見ながらも、『王宮舞踏会で乙女のハートを打ち抜くには、優しい微笑みと乙女心をくすぐる台詞が必要よね?貴族のご令嬢にとって忘れられない夜を演出してみせるわ』と打算的な事を考えるのがルイ―セという少女だった。
その後も宮廷マナーやダンスの練習に加え、恋愛小説で覚えた甘い台詞をリリー相手に披露する毎日が続いた。
「ルイ―セ様の甘いマスクと口説き文句で落ちない貴族令嬢はいませんよ‼今回がデビュタントのご令嬢ならまず、間違いなくメロメロにできますわ!」
ウットリと頬を赤らめるリリーもまたずれた感性の持ち主だった。
今回の王宮舞踏会はカールの身代わりとして参加するのだから、ルイ―セは目立たないように行動するというのが目的だったはずなのに、いつの間にか『如何に貴族令嬢の心を射止めるか』に趣旨が変わっていたのだから。
そして、それがどんな結果に繋がるのかなど、その時のルイ―セは考えもしなかったのだった。
今回の王宮舞踏会では社交界デビュタントの令息や令嬢が大広間に集結する。
その場で兄のカールが健在であると国王陛下の御前で貴族達に印象付けることが今回の目標だった。
更に、辺境に領地があるような貧乏男爵家の嫡男であっても、カールと添い遂げたいと願うような高位貴族のご令嬢に見初めて貰えれば、令嬢が嫁いでくる際の持参金で財政的にも潤うし、カールの将来も安泰だろうという…未婚の令嬢らしくない打算もあった。
(ここで上手く立ち回れば、ティーセル家の未来も明るいわ‼兄様の為にも頑張ろう)
今のように王都から遠く離れたティーセル領に居ると、いくら魅力があっても兄のカールは誰からも見初めて貰えない。
だからこそ今回の舞踏会でルイ―セが貴族令息のように振舞えれば、何もしなくてもカールに縁談が舞い込む可能性があると考えたのだ。
カールの容姿は…妹のひいき目もあるが、美しいのではないかと思う。だからその魅力をもっと高めるためには今の王都で流行りの男性像をリサーチしなければいけない。
誰に聞けば分かるのか…王都へ向かう馬車の中で、ルイ―セは真剣に考え続けたのだった。
久しぶりの王都は賑やかで人が溢れている…いっそ鬱陶しいほどだ。
ウンザリしつつも、王都の片隅にある邸宅に足を運ぶと両親が笑顔で出迎えてくれた。
「おお!よく帰ったな…ムムム…本当にルイ―セなのか⁈ …その身形では令息にしか見えんなぁ。これならカールと偽ってもバレないと安心したわい」
「ルイ―セ…貴女がカールの身代わりになるって聞いたときは心配したけれど、それだけ女性らしさの無い体つきなら大丈夫ね。上手に誤魔化すのですよ」
「…お父様、お母様…ご無沙汰しております。お陰様で女性らしさは欠片もありませんので、しっかりお兄様の身代わりを務めたいと思っています」
久しぶりの対面にもかかわらず、サラッと憎たらしいことを言う両親だが、悪気は無いらしい。
…ただ貴族としてはもう少し腹芸も出来ていれば我が家がここまで落ちぶれることも無かったのにとルイ―セは思ってしまう。
「それで、王宮舞踏会で着用する衣装についてですが、少しでも貴族令息らしい、アビ・ア・ラ・フランセーズを仕立てて頂ければと…」
アビ・ア・ラ・フランセーズは貴族男性が着用する正装の事だ。
「おお‼衣装のデザインも、仕立て屋の用意も出来ておるぞ。後は採寸し袖繰りや丈の微調整をすれば良いようになっておる。早速、採寸の者を呼ぶからな」
採寸の仕立て屋が来る前に、メイドのリリーと前準備をする。…ルイ―セも14歳になり、さすがに胸も膨らみ始めているために布を巻いて胸のふくらみを隠す必要があった。
胸を潰した後はコルセットで上半身を締め上げれば、少し線の細い男性と言われても信じられる体型が出来上がる。
その上からシャツを羽織って、ティーセル男爵家御用達の仕立て屋から来たお針子に採寸をさせた。
ルイ―セが男性だと信じ切っているうら若いお針子は、体に触れるのすら緊張しているのか、手を震わせながら採寸を進めていく。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私は貴女を怯えさせるほど悪い男ではないつもりだからね」
そう声を掛けウインクすると、お針子は真っ赤な顔をして慌てた様子で逃げ出してしまった。
「ねえリリー…私はそんなに怖い顔をしていたかな?」
メイドのリリーに尋ねると呆れた様子で首を振られる。
「ルイ―セ様、違いますよ。…貴方が色気を出してウインクしたから、あの初心そうなお針子は逃げ出したんですよ」
…色気?そんなモノを出した覚えは無いけれど、貴族令息として認められたのだとすれば一応は成功だろう。
「色気かぁ…今回の王宮舞踏会で、ご令嬢からモテる令息になるにはどうしたら良いと思う?リリーだったら、どんな男性が好みなの?」
「…ルイ―セ様は男性としてモテたいんですか?王都で話題なのは、今回社交界デビューされる王太子殿下が見目麗しいと町娘からも絶大な人気ですね。他には恋愛小説なんかに出てくる美貌の貴族令息とか、身分違いのお相手もかなり魅力的かと…」
「恋愛小説…?へぇ~、リリーのおススメの小説を私にも貸してくれる?折角だから今回の舞踏会で口説く参考にしたいし、個人的にも読んでみたいわ」
「ルイ―セ様…貴方がこれ以上男性としての魅力を追及してどうするおつもりですか?まあ、私もそう言うのは嫌いじゃないですし、もちろんお貸ししますけれど」
そう言って彼女が貸してくれた恋愛小説は、ルイ―セにとって今まで読んだことの無いほど刺激的な読み物だった。
“王子と平民の女性が出会って直ぐに恋に落ちるストーリー”も、“貴族令嬢が身分違いで許されざる恋に落ちるラブロマンス”も、今まで領地で平凡に暮らしてきた自分の生活には存在したことの無いときめきを与えてくれたからだ。
(こんなすごいときめきの世界が存在していたなんて…。いつか、私も愛する人に出会ったらこんな情熱に身を焦がすのかしら)
ウットリと夢を見ながらも、『王宮舞踏会で乙女のハートを打ち抜くには、優しい微笑みと乙女心をくすぐる台詞が必要よね?貴族のご令嬢にとって忘れられない夜を演出してみせるわ』と打算的な事を考えるのがルイ―セという少女だった。
その後も宮廷マナーやダンスの練習に加え、恋愛小説で覚えた甘い台詞をリリー相手に披露する毎日が続いた。
「ルイ―セ様の甘いマスクと口説き文句で落ちない貴族令嬢はいませんよ‼今回がデビュタントのご令嬢ならまず、間違いなくメロメロにできますわ!」
ウットリと頬を赤らめるリリーもまたずれた感性の持ち主だった。
今回の王宮舞踏会はカールの身代わりとして参加するのだから、ルイ―セは目立たないように行動するというのが目的だったはずなのに、いつの間にか『如何に貴族令嬢の心を射止めるか』に趣旨が変わっていたのだから。
そして、それがどんな結果に繋がるのかなど、その時のルイ―セは考えもしなかったのだった。
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