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46 ヒロインとの共同戦線
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「ルイスを相手に選んで “聖魔力欠乏症”を治癒して欲しいの…」
これは身勝手な願いだとは、勿論のこと理解はしている。
それでも、口にしてしまったのは兄の…ルイスの未来が既に死へと向かっていることを知らされたせいかもしれない。
このままルイスの死出の道行きを、“運命”などという、ありきたりな言葉で決められてしまう事だけはどうしても許せなかった。
「私に出来る事なら何でもする。先ほど言っていたフランツとの関係を修復する手伝いもするし、それ以外にも貴女の望みは私が出来る限り叶えるから…お願い…」
一度口にしてしまった想いは後から感情を引き連れてくる。
泣いて同情を得ようとしているのか――そう罵られるのが怖くて、マリアーナの顔も見られず、頬を流れ続ける雫が地面にいくつもの痕をつけていくのを只見つめていた。
“ハァ”と目の前からため息が聞こえ、知らず体が震える。
…すると目の前に真っ白なハンカチーフが差し出された。
「…アンタにそんなに泣かれたら、まるで私が悪者みたいじゃないの‼私だって、このままだとゲーム・オーバーになって、最後には使い魔エリクに食べられる未来なんて真っ平ごめんなの‼私にとっては最後の希望なんだから、今この瞬間からルイス様の攻略を目指すに決まっているでしょう⁈」
“ほら、涙吹きなさいよね‼”と乱暴に涙を拭われると、彼女の頬がうっすらと染まっているのが見えた。
「…マリアーナは本当にそれで良いの?後悔しない…?」
「当ったり前でしょう⁈ルイス様も素敵だなーって前から思っていたのよ。モブだと信じていたから攻略するのは無理だと諦めていたけれどね。アンタが手伝ってくれるんだったら、彼の恋人になって、彼の命も、それに自分の身だって絶対に救ってみせるんだからねっ‼私は諦めが悪いんだから‼」
“だから協力しなさいよ⁈”と腕を組んで私を見つめる彼女に、頷いて立ち上がった。
今はまだ、諦めて泣き崩れている場合ではない。
――最悪の事態を回避するために私たちは共同戦線を張るのだから。
その後、ベンチへと移動した私たちは沢山の話をした。
マリアーナが、生まれて直ぐにアウレイア領で、一人で暮らす祖母の元へ引き取られていた事や、社交デビュタントを機に王都へ戻ったこと、王宮舞踏会の会場に入った時、此処が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だと、初めて気づいた事なども話してくれた。
「そう言えば、隠しキャラがいるって言っていたでしょう?それは誰?あと、マリアーナ以外にこの世界をゲームだと知る人はいないのかな?」
「ううん…それが全然判らないのよねぇ…。攻略対象を全てクリアした後でしか、隠しキャラのルートは解放されなかったし、私以外の転生者にも今まで、会ったことは無いわ」
「そうか…。やっぱりマリアーナ以外から話を聞くのは難しいみたいだね。大分、貴女の知るゲーム世界と現状で話が嚙み合っていない部分が多い処が気になったんだけど…」
「うーん…そう言われると、確かにそうよね。そもそも、アンタたち双子が入れ替わっていたことも、ルイスが学術院に通っていることも大きくシナリオから逸脱しているもの」
確かにその通りだ。そして、マリアーナから聞き出したゲーム世界と現実の最も大きな違いは、ディミトリ王太子殿下の王位継承権問題だろう。
ゲームの世界では、ディミトリ殿下は第一王子であり、その世界では第二王子まで誕生していた。確かに、本来の王位継承者には、常にスペアとして兄弟の存在が不可欠なものだ。
病気であれ、暗殺の危険であれ、権力の周りには常に死の危険が付きまとうのは当然の事で、今のアーデルハイド王国の王位継承権の状況の方が他国から見れば異常だろう。
――現在のアーデルハイド王国にいる王位継承者はディミトリ殿下のみ…そう考えると、先ほどマリアーナから聞いた王家の秘匿能力の話がより信憑性を帯びてくる。
“アーデルハイド王家の秘匿能力である“精神領域干渉”は記憶や精神の領域に干渉することで、記憶障害を起こさせ、精神不和を引き起こすことが出来る恐ろしい能力だ“
ディミトリ殿下が、この能力の発現により継承権を得たことで、暗殺の危険が減ったから、一人っ子でも問題が無くなった――そう考えれば確かに辻褄は合う。
…まあこんな事は、いくら考えても推測の域を出ない以上、何の意味も無いのだけれど。
「そう言えば、さっき“ゲーム・オーバーになったら使い魔エリクに食べられる”って叫んでいたでしょう?あれって比喩表現?どういう意味なの?」
「ああ…あれは比喩でも何でもなく事実なのよ。三年間の間に誰にも愛されず、聖女として目覚めることが出来なかったヒロインは、自分の聖魔力を制御できなくなって、力を暴走させちゃうの。その時、使い魔エリクが『僕が暴走を止めてあげるよ☆』と笑顔を見せて、聖魔力とヒロインの体を丸のみするっていう、BAD・ENDが…」
「…マリアーナ☆これ以上話すのはゲームシステムの規約違反に抵触するよ?どうする?一足先にBAD・ENDを体感したいの?」
マリアーナとの会話を遮るように、エリクが”ニヤリ”と怪し気な微笑みを浮かべて口を挟んできた。
その瞬間の、マリアーナの怯えた表情と、エリクの舌なめずりに、これは突っ込んではいけないと理解する。――よし、今の話は聞かなかったことにしよう‼
「…あ…っと、そう言えば私もそろそろ戻らないと不味いんだよね。作戦も練りたいし、今度は夏季休暇中に我が家に来て貰って、ゆっくり今後の話をしようか」
ルイスと顔合わせをする場には、私もいた方が良いだろうと思い、彼女に尋ねると何故か彼女は私の両手をギュッと強く握りしめた。
「取り敢えず、ルイス様と親しくなることが一番の目標なの‼それからフランツ様とも友好関係を築かなくちゃいけないし、これはカールの頑張りに掛かっているんだからね⁈」
――うん …うん⁈ 私の頑張りって何…?
驚く私に「さっき何でもするって言ったのはアンタでしょう?何とか策を考えなさいよ」と、マリアーナは問題を丸投げしてくる。
(待て待て待て…‼確かに言ったけれど~~⁈全部私に丸投げは酷くない⁈)
「あのさ…いくら何でも「あーっと、私も今日は忘れ物を取りに学術院に来ただけで、そろそろ帰宅しないと、お父様に叱られてしまうわぁ」
「マリアーナ…あの「そんな訳で、ゴメンあそばせ♡素晴らしい策が決まったら連絡して頂戴ねぇ♡」
「ボクも、カールの頑張りに期待しているからねぇ~☆」
私の言葉を遮るようにした二人は、呆れるほどのコンビネーションで、止める間もなく立ち去って行った。
…結局私が兄とフランツ好感度を上げる手立てを一人で考えなければいけないらしい。
ノロノロと立ち上がり、再度教室へ戻ると置き去りにしていた本を手に、釈然としない思いを抱えながら医務室へと戻る。
「…こんな時間まで何をしていたんだ?随分と遅かったじゃないか」
――ヒイッ⁈ディートハルト先生がもう帰ってきている。
「忘れ物を取りに教室へ向かわれたにしては、随分と時間が掛かりましたわね。カール様は取りに行かれた本でも教室でお読みになられていたのですか?」
メイドのリリーが首を傾げるのを見て「そ…そうなんだ‼つい面白くて読みふけっていたらこんな時間に…」とこれ幸いと頷いておく。
「――でも、先ほど、教室の方まで様子を見に行った時には本も机の上に置き去りで、カール様はどこにもいらっしゃいませんでしたけど?」
“不思議ですわねぇ?”とニッコリ微笑むリリーの目は当然冷めていて、全く笑ってはいない。
(リリーっ⁈ ~~カマをかけるのは止めてよーっ‼)
「あ…の、ここ数日は寝たきりだったから、リハビリを兼ねて少々、庭で散歩などを…」
「二時間も?校舎を一体、何周したんだ?」
「…中庭のベンチで…昼寝をしていました‼…気が付いたら時間が経っていたの‼」
「風邪ひきの病み上がりが、外で寝ていたのか?…お前は本気で馬鹿過ぎるだろう⁈」
「カール様のお姿が見えなくて、本当に心配したのですよ⁈既に迎えの馬車も到着して、御者にまで学術院中を捜索させる羽目になったことをもう少し、自覚なさって下さい‼」
こうして、私は二人からその後もたっぷりとお説教をくらう羽目になったことは…まあ、推して知るべしだ…。
これは身勝手な願いだとは、勿論のこと理解はしている。
それでも、口にしてしまったのは兄の…ルイスの未来が既に死へと向かっていることを知らされたせいかもしれない。
このままルイスの死出の道行きを、“運命”などという、ありきたりな言葉で決められてしまう事だけはどうしても許せなかった。
「私に出来る事なら何でもする。先ほど言っていたフランツとの関係を修復する手伝いもするし、それ以外にも貴女の望みは私が出来る限り叶えるから…お願い…」
一度口にしてしまった想いは後から感情を引き連れてくる。
泣いて同情を得ようとしているのか――そう罵られるのが怖くて、マリアーナの顔も見られず、頬を流れ続ける雫が地面にいくつもの痕をつけていくのを只見つめていた。
“ハァ”と目の前からため息が聞こえ、知らず体が震える。
…すると目の前に真っ白なハンカチーフが差し出された。
「…アンタにそんなに泣かれたら、まるで私が悪者みたいじゃないの‼私だって、このままだとゲーム・オーバーになって、最後には使い魔エリクに食べられる未来なんて真っ平ごめんなの‼私にとっては最後の希望なんだから、今この瞬間からルイス様の攻略を目指すに決まっているでしょう⁈」
“ほら、涙吹きなさいよね‼”と乱暴に涙を拭われると、彼女の頬がうっすらと染まっているのが見えた。
「…マリアーナは本当にそれで良いの?後悔しない…?」
「当ったり前でしょう⁈ルイス様も素敵だなーって前から思っていたのよ。モブだと信じていたから攻略するのは無理だと諦めていたけれどね。アンタが手伝ってくれるんだったら、彼の恋人になって、彼の命も、それに自分の身だって絶対に救ってみせるんだからねっ‼私は諦めが悪いんだから‼」
“だから協力しなさいよ⁈”と腕を組んで私を見つめる彼女に、頷いて立ち上がった。
今はまだ、諦めて泣き崩れている場合ではない。
――最悪の事態を回避するために私たちは共同戦線を張るのだから。
その後、ベンチへと移動した私たちは沢山の話をした。
マリアーナが、生まれて直ぐにアウレイア領で、一人で暮らす祖母の元へ引き取られていた事や、社交デビュタントを機に王都へ戻ったこと、王宮舞踏会の会場に入った時、此処が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だと、初めて気づいた事なども話してくれた。
「そう言えば、隠しキャラがいるって言っていたでしょう?それは誰?あと、マリアーナ以外にこの世界をゲームだと知る人はいないのかな?」
「ううん…それが全然判らないのよねぇ…。攻略対象を全てクリアした後でしか、隠しキャラのルートは解放されなかったし、私以外の転生者にも今まで、会ったことは無いわ」
「そうか…。やっぱりマリアーナ以外から話を聞くのは難しいみたいだね。大分、貴女の知るゲーム世界と現状で話が嚙み合っていない部分が多い処が気になったんだけど…」
「うーん…そう言われると、確かにそうよね。そもそも、アンタたち双子が入れ替わっていたことも、ルイスが学術院に通っていることも大きくシナリオから逸脱しているもの」
確かにその通りだ。そして、マリアーナから聞き出したゲーム世界と現実の最も大きな違いは、ディミトリ王太子殿下の王位継承権問題だろう。
ゲームの世界では、ディミトリ殿下は第一王子であり、その世界では第二王子まで誕生していた。確かに、本来の王位継承者には、常にスペアとして兄弟の存在が不可欠なものだ。
病気であれ、暗殺の危険であれ、権力の周りには常に死の危険が付きまとうのは当然の事で、今のアーデルハイド王国の王位継承権の状況の方が他国から見れば異常だろう。
――現在のアーデルハイド王国にいる王位継承者はディミトリ殿下のみ…そう考えると、先ほどマリアーナから聞いた王家の秘匿能力の話がより信憑性を帯びてくる。
“アーデルハイド王家の秘匿能力である“精神領域干渉”は記憶や精神の領域に干渉することで、記憶障害を起こさせ、精神不和を引き起こすことが出来る恐ろしい能力だ“
ディミトリ殿下が、この能力の発現により継承権を得たことで、暗殺の危険が減ったから、一人っ子でも問題が無くなった――そう考えれば確かに辻褄は合う。
…まあこんな事は、いくら考えても推測の域を出ない以上、何の意味も無いのだけれど。
「そう言えば、さっき“ゲーム・オーバーになったら使い魔エリクに食べられる”って叫んでいたでしょう?あれって比喩表現?どういう意味なの?」
「ああ…あれは比喩でも何でもなく事実なのよ。三年間の間に誰にも愛されず、聖女として目覚めることが出来なかったヒロインは、自分の聖魔力を制御できなくなって、力を暴走させちゃうの。その時、使い魔エリクが『僕が暴走を止めてあげるよ☆』と笑顔を見せて、聖魔力とヒロインの体を丸のみするっていう、BAD・ENDが…」
「…マリアーナ☆これ以上話すのはゲームシステムの規約違反に抵触するよ?どうする?一足先にBAD・ENDを体感したいの?」
マリアーナとの会話を遮るように、エリクが”ニヤリ”と怪し気な微笑みを浮かべて口を挟んできた。
その瞬間の、マリアーナの怯えた表情と、エリクの舌なめずりに、これは突っ込んではいけないと理解する。――よし、今の話は聞かなかったことにしよう‼
「…あ…っと、そう言えば私もそろそろ戻らないと不味いんだよね。作戦も練りたいし、今度は夏季休暇中に我が家に来て貰って、ゆっくり今後の話をしようか」
ルイスと顔合わせをする場には、私もいた方が良いだろうと思い、彼女に尋ねると何故か彼女は私の両手をギュッと強く握りしめた。
「取り敢えず、ルイス様と親しくなることが一番の目標なの‼それからフランツ様とも友好関係を築かなくちゃいけないし、これはカールの頑張りに掛かっているんだからね⁈」
――うん …うん⁈ 私の頑張りって何…?
驚く私に「さっき何でもするって言ったのはアンタでしょう?何とか策を考えなさいよ」と、マリアーナは問題を丸投げしてくる。
(待て待て待て…‼確かに言ったけれど~~⁈全部私に丸投げは酷くない⁈)
「あのさ…いくら何でも「あーっと、私も今日は忘れ物を取りに学術院に来ただけで、そろそろ帰宅しないと、お父様に叱られてしまうわぁ」
「マリアーナ…あの「そんな訳で、ゴメンあそばせ♡素晴らしい策が決まったら連絡して頂戴ねぇ♡」
「ボクも、カールの頑張りに期待しているからねぇ~☆」
私の言葉を遮るようにした二人は、呆れるほどのコンビネーションで、止める間もなく立ち去って行った。
…結局私が兄とフランツ好感度を上げる手立てを一人で考えなければいけないらしい。
ノロノロと立ち上がり、再度教室へ戻ると置き去りにしていた本を手に、釈然としない思いを抱えながら医務室へと戻る。
「…こんな時間まで何をしていたんだ?随分と遅かったじゃないか」
――ヒイッ⁈ディートハルト先生がもう帰ってきている。
「忘れ物を取りに教室へ向かわれたにしては、随分と時間が掛かりましたわね。カール様は取りに行かれた本でも教室でお読みになられていたのですか?」
メイドのリリーが首を傾げるのを見て「そ…そうなんだ‼つい面白くて読みふけっていたらこんな時間に…」とこれ幸いと頷いておく。
「――でも、先ほど、教室の方まで様子を見に行った時には本も机の上に置き去りで、カール様はどこにもいらっしゃいませんでしたけど?」
“不思議ですわねぇ?”とニッコリ微笑むリリーの目は当然冷めていて、全く笑ってはいない。
(リリーっ⁈ ~~カマをかけるのは止めてよーっ‼)
「あ…の、ここ数日は寝たきりだったから、リハビリを兼ねて少々、庭で散歩などを…」
「二時間も?校舎を一体、何周したんだ?」
「…中庭のベンチで…昼寝をしていました‼…気が付いたら時間が経っていたの‼」
「風邪ひきの病み上がりが、外で寝ていたのか?…お前は本気で馬鹿過ぎるだろう⁈」
「カール様のお姿が見えなくて、本当に心配したのですよ⁈既に迎えの馬車も到着して、御者にまで学術院中を捜索させる羽目になったことをもう少し、自覚なさって下さい‼」
こうして、私は二人からその後もたっぷりとお説教をくらう羽目になったことは…まあ、推して知るべしだ…。
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