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11. 男爵家への伝言

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 サンダルボガンの★2の宿『雷豪亭』。
 その食堂の奥の通路。トイレへと続くトコで佇む2人の女。

「で、貴女はミリア=ボルトの代理と思って?」
「話が早くて助かります。シーフ稼業ですがスパイはホント慣れなくて。こちらの視線サイン理解してわかってくれて助かりました」
「迷宮探索が本業でしょう?ホントならこんなのやってられない。余程報酬高めかな?」
「本当に冒険者なのですか?下手な若手より私ら冒険者の実情をご存知で」
「冒険譚、読み漁ったのよ。公爵令嬢の私には絶対に出来ない生き方。貴族の憧れ戯言って思ってくれていいわよ」

 彼女も苦笑。
「次は貴女に雇われたい…、若しくは共に迷宮潜ってみたいわ、マジで」
「それは褒め言葉よね、さて、本題だけど、私達は出来れば王都には戻りたくないの。このまま冒険者稼業が出来ればって思ってるし、国外、ううん、大陸から出る事も考えてる。そうミリアに伝えて欲しいんだけど」
「それを信じろ、と」
「仮に王都へ戻る事になったら、それは王家の横暴に屈したと思って欲しいわね」
「うわぁ、そこまで言い切りますか。ともあれ、了解です」
「また何処かで、違う立場で会える?」
「会いたいですね。私はシルヴィアって言います。私達は王都ギルド所属の『明日の風』って名で活動してます」

 シルヴィアは振り返って去ってく。
 私はそのままトイレへ。身支度済ませて戻ると彼女達は宿を出ていた。

「話ついたんですね」
「直球勝負の冒険者。好感持てたわ」
 事の次第を話すと。
「『明日の風』は若手でも堅実な探索をすると定評ある冒険者達です。何でまたボルト家なんかに雇われたのかしら」
「財力ある新興の男爵家で別に悪業ある成り上がりじゃないわよ。普通に報酬高めで雇われたのでしょう」
「ですね」
「で、向こうさんはどう動く?コッチの言い分を信じると思う?」
「彼女は裏を深読みするわ。しかも殿下の態度が最悪。国外に出る迄は何らかのコンタクトを取ってくると思う。冒険者を雇うならまだ穏便マシ
「男爵家の影を使うかも、と」
「どう考えても、今の私は目の上のコブ。除きたくて仕方ない筈」
「だな。消えてくれなきゃ王家は考え直してくれない訳だしね。ったく、女の嫉妬って面倒クセェなぁ」
「両手に綺麗処がいる身で、それ言うの?」
「カールへの視線、違う意味で怨嗟の対象よ」
「勘弁してくれよ。俺は平凡な人生を望んでいるんだ」
「それは聞き捨てならないわね」
「私達と過ごすのが不満だと?」

 特命メイドとして公爵家でもそれなりの地位を持つリサは公爵家近衛騎士団にとって、ある意味鬼門。メイド長程怖がられてはいないだろうけど…。あ、メイド長って騎士団長の奥様なのよね。

「出来れば歳下の優しげな女性が…」
「ふ~ん、そこで歳を言う?」

 リサも年増って言う程の歳じゃないからね。

 学園生の私が16歳。で成人はしてるの。この国の成人年齢は16だから。
 冒険者としての実績もあるリサは、田舎とかなら行き遅れと呼ばれるかもしれない22歳。兄の乳兄弟で同年代のカールが19。なのでリサとカールは3つしか違わない。

 26を過ぎると、少しヤバいかもしれない。
 成人して10年経っても独り身なのは…。要らぬ詮索されちゃうから。って余計なお世話ね、リサ。

「じゃ、部屋に戻りますか。俺は隣…」
「一緒よ。悪いけど大部屋で3人。個室なんかある訳ないでしょう?」
「…勘弁して下さいよ」

 部屋にベッドは4つ。
 つまりは4人迄泊まれる大部屋。
 基本は2人部屋の宿だけど、それなりに人気宿で2人部屋は満室だった。3人で泊まりたいって交渉した時、偶々大部屋か個室かって事になって。
 金銭的にはまだ余裕はある。
 私を溺愛する心配性のお父様が娘の旅立ちに路銀を持たせない筈も無くて…。
 でも、まず無いと思うけど襲撃とか考えた時、私とリサの2人っきりは拙くない?って思うから。カールには目を瞑ってもらいましょうか、文字通りに。

 尤も兄代わりに過ごした事もあるカールは、幼少期には一緒に泳いだりした事もあるから、私の裸には多少免疫あると思うけど?

「そんな訳ないですよ!お館様に殺される様な事、言わないで下さい‼︎ お嬢様!」

 クスクス。ごめんなさい、カール。
 ホラ、目の保養。役得役得!
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