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愛称で呼び合おうと提案されました…

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「まぁあ!セラフィーナ様、お似合いですわ…」
「すっごく素敵!まるで花の妖精のようです!」
「とっても似合っているわ、セラフィーナ…」

 結婚披露パーティー当日。私は日が昇る前からたたき起こされて、湯浴みからマッサージのフルコースに放り込まれた。人生初のフルエステは…思った以上に体力と気力を削ぐものだった。意外だ…エステって気持ちいいもんだと思っていたけど、そうでもなかったのね…と遠い目をしたけれど…侍女たち渾身の仕事ぶりで、今の私は別人のようにピッカピカだった。いや、別人なんだけどね…

 ローウェル様から贈られたドレスは、私の瞳と同じ水色を基調として、ところどころに濃い青や黒の差し色が入っていた。濃い青はローウェル様の瞳の色で、黒は髪の色なのは一目瞭然。ローウェル様の色がしっかり主張するドレスだった。
 しかもドレスに合せたアクセサリーは、全てローウェル様の瞳の色と同じ青輝玉、だろう。青色の宝石の中では一番高価で希少なものだ。これらの値段は…ごめん、もう考えたくない…
 婚約した者同士が相手の色を取り入れたドレスを着る事は珍しくなかったが、こうもはっきりしたものが贈られるとは思わなかった。乗り気ではあるけど、半分義務だと思っているんだろうな、と思っていたからだ。

「ローウェル様はセラフィーナ様を大切に思って下さっているのですね」
「ええ、ええ。そうでなければここまで色を揃えたりはしませんわ」

 侍女たちも大興奮だけど…私はと言うと、ここまでされる理由がわからず混乱する気持ちの方が強かった。いや、ローウェル様は凄く気を使って下さるし、根は凄く優しいんだと思うよ。
 でもそれは、世間的には恐れられているご自身の評判を気にされて、私が怯えないようにと気を使って下さっているからだと私は見ていた。
 でなきゃ、一回りの下の格下の令嬢にここまでするだろうか?そりゃあ、セラフィーナの見た目だけは、天使みたいに可愛いんだけど…

 さて、婚約披露パーティーは、男性が女性を家に迎えに来るのが常だ。まだ婚約したばっかりだからね、当然と言えば当然だ。一般的にパーティーが始まるのが夕刻からだから、男性はお昼過ぎには女性を迎えに来て、式が始まる二刻ほど前には会場である家に戻る。慣例に従って、お昼過ぎにはローウェル様がいらっしゃった。

 現れたローウェル様は、黒晶騎士団長の正装でもある、黒を基調とした騎士服だった。そうよね、こういう時、騎士は正装が一般的だった。ローウェル様とお揃いの衣装になるかと思っていたから、ちょっとがっかりした自分がいた。
 しかし…黒を基調とした騎士服は…ローウェル様には物凄く似合っていた。うん、ワイルド系イケメンにとってはベストかもしんない。怖いくらいに凛々しさが際立っている。これだけでご飯何杯いけるだろうか…
 それに…ところどころの小物の色が、私の色でもあるピンクと水色だ。水色はともかく、ピンクはこの人、絶対に選ばないよね?それを選んでいるって事は…そう言う事なのか、そうなのか?もう、こっ恥ずかしいんですけど…!

「ああ、セラフィーナ嬢、よく似合っているな」
「ローウェル様、こんなに素敵なお品をありがとうございます」

 もう、立派な物過ぎて恐縮しかない。玉の輿に憧れたりもしたけど、格差婚って結構ストレスなのだと今になって知ったわ。これが一生続くとなると…貧乏性な私には結構きついかもしんない…一生対等な立場にはなれない気がする…

「セラフィーナ嬢、一つ提案なのだが…」
「な、なんでしょう?」

 出発までの時間、お茶を頂いていた私に、ローウェル様が少し考える仕草をした後でそう切り出した。何でしょうか?悪い話じゃないといいのですが…そう思う私は、完全に格差婚の未来に尻込みしていたせいだろう。

「私達は婚約した」
「ええ」
「だからその…家名で呼ぶのは余所余所しいだろう。出来ればこれからは、名で呼んでくれると嬉しいのだが」
「えっと…」

 あ~そう言われると確かにそうね。家名で呼び合うなんて、周りからすると確かに不仲に見えるし、あんまり聞かないよね、そういう話は。

「それじゃ…アイザック様?」

 高位貴族の名を呼ぶのはそれだけで不敬になる。相手から許可を貰わなければ絶対にダメなのだ。更に言えば愛称呼びなどしたら、王族ではお手打ちになっても文句は言えない。とりあえず許可は出たし、と恐る恐る呼ぶと、ローウェル様が一瞬身を固くした気がした。えっと…マズかっただろうか…

「…出来れば…アイクと呼んで欲しいのだが…」
「ええっ?」

 愛称呼びしていいんですか?と思わず叫びそうになった。だって、愛称で呼ぶなんて家族かよっぽど親しい間柄でないと出来ないんだよ?まだ婚約したばかりで愛称呼びって…名前を呼ぶのですらまだ慣れていないと言うか、今呼んだばっかりなのに?

「そ、それはさすがにちょっと…」
「私は全く構わないのだが…いや、まだ気が引けると言うのであれば無理にとは言わないが」
「お許し頂けるなんて光栄ですが…まずはお名前を呼ぶのに慣れてからで…」
「そうか…残念だが…いずれはそう呼んでくれると嬉しい」
「わ、わかりました、善処します。私の事はどうかお好きなようにお呼び下さい」
「よろしいのか?では…セラフィと呼んでも?」
「セラフィ、ですか…ええ、嬉しいですわ」

 いや~まさか愛称を提案されるなんて思わなかったからびっくりした。しかも相手は国王陛下の甥だよ?婚約者でなかったら一発お手打ちかもしんない相手だ。これはもう、二階級特進くらいの破格な対応ではないだろうか…

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