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一章
三十五話 怪鳥
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「うっげ…マジかよ」
野犬達の遠吠えが村の周囲から突然上がった時点で、襲撃されるんだろうなぁとは思ったが……
「よりによって俺の目の前かよ!」
事前から野獣使いによる獣の襲撃に備えて物見を普段の4倍に増やして全周囲を警戒していた。
遠吠えの時点で野犬だなんだと物見櫓の上で叫んでいたので獣共の接近自体はちゃんと察知できていたんだろう。
突然の襲撃にも右往左往せず、物見の指示で防衛担当の村人達が村の出入り口や野犬が集まっている方へ散っていった事からもそれは分かる。
だから、俺は当初の予定通りに集合した村人達によって抜けた警備の穴を埋めるために出入り口と出入り口の丁度中間地点くらいに移動したわけだが……
「何も目の壁をぶち破ってくることもないだろ……」
壁を乗り越えて獣が侵入する場合も考慮しての警戒だったが、まさか壁をぶち抜いてくるとは想定してなかった。
だってぶち破るなら普通入り口だろ。
何でわざわざ頑強な壁を破ってくるんだよ。
……と、愚痴を言いたくなるが、まぁ畜生の考えることなんて流石に理解できんし起こってしまった事態はどうしようもない。
例の振り回すことで音が出る呼子をブンブンと振り回して村への侵入者ありと伝える。
ちなみにライノスの時に使ったのとは用途が違うので鳴る音が段違いにでかい。
不慮の事態に遭遇した時、周囲が騒然としている時に下手に叫んでも何言ってるのか聞こえないことのほうが多いとかで、コレのほうが甲高くて思いの外でかい音が出るとかで緊急時の知らせにはよく使われるらしい。
とまぁ、これで緊急事態だというのは伝わったはず。
後は、突然の音にビビって固まってるデカブツをどうするか、だが……
RPGの主人公であれば、ここは任せろとばかりに飛び出して襲い来る獣をバッタバッタとなぎ倒すところだろうが、このゲームがプレイヤーのレベル相応の敵役モンスターを配置してくれるとかそんな優しく出来ていないことはいくらなんでも理解している。
というか、見た目的に無理だろこれ。
俺でも知ってるし、コイツ。
それなりの数のRPGを嗜んでるなら誰でも知ってるような有名モンスターの一体。
ニワトリの身体に蛇の尾姿の
「コカトリス、いやバジリスク? どっちだっけ……」
コレ、野獣じゃなくて魔獣じゃないのか?
こっちでの魔獣と野獣の違いについては、以前簡単な講義を受けたので事情は把握している。
コカトリスって自然発生するようなものなんだろうか。
でも、こうやって向かい合っていられるって事は、少なくとも見られただけで死ぬ的な有名な能力は持って無いみた いだし、蛇腹のニワトリって形だけの獣……なのか?
――いやぁそんな事ないな。
削られた壁の一部が不自然に白化している。
名前通りの能力なら、石化か?
壁の一部だけ、しかも抉れたようになった所だけと言うことは、ヤバイのは爪かクチバシか。
お約束通りならクチバシは要注意だろうな。
いや、そもそもこの巨体に木の杭で出来た壁をへし折ってぶち抜く馬力ってだけで充分に脅威なんだけどさ。
というかバジリスクって感覚的にニワトリと似たようなサイズだと思ってたけど、ここのバジリスクは違うようで、頭の高さが俺より高いところにある。つまりデカイ。
言ってみれば、素早いライノス的な?
……何それ最悪なんですけど。
サイズではライノスほどはないけど、厄介さも見た目の異様さもライノスより遥かにやばそうだ。
「ケエエエェェェェ!」
そこはコケコッコーじゃないのか。
文字通り化鳥の様な声を上げて威嚇してくるコカトリス。
ライノスみたく問答無用で突っ込んで来るのかと思ったがそうでも無いらしい。
威嚇ということはこっちを警戒していると言う事だ。
厄介な。
馬鹿みたいに突っ込んで来てくれれば、まだにげに徹することも出来るのに、ここまで警戒されると下手な動きが取りにくい。
人である俺より獣である相手の方が身体のスペックが高いからな。
見てから動かれるとどうにもならん。
と思ったのもつかの間、突然の跳びかかりからの爪が襲って来た。
フェイントか?
いや、威嚇に怯んだと見て攻めかかって来たか。
流石に俺も初手には最大限に警戒していたのでこれには対応出来た。
「ふっ!」
すれ違いざまに一撃。
羽根と鱗が飛び散る。
「ギョエエエエエェェェェ!?」
おおっ?
ダメージが通る?
ライノスの時みたく逃げに徹して他の村人が集まってくるまで粘るつもりだったけど、これはもしかして?
飛び上がっての爪を使った蹴りを避けつつ、翼狙いに一撃を入れる。
「ケケェッ」
やっぱりだ。
ライノスの時と違い明確にダメージが通った、そんな手応えがある。
武器の変化もあるが、コイツは素早い分ライノスほど頑強では無いのだろう。
巨体に見合わぬスピードは厄介だが、こちらの攻撃が通るのならば勝機があると言うことだ。
コカトリスは傷付けられ、自分の血を見たからか、目に見えて興奮している。
ここまで頭に血がのぼっているのなら、何とかなるか……?
変に攻めかからず、徹底してカウンター狙いのスタンスに集中して次の攻撃にそなえるのが一番効果的だな。
俺が手を出すのは明らかに弱ったときだけにしよう。
迂闊に手を出して怪我するのも馬鹿らしいしな……
「ゴオオエェェ……」
む、また来るか。
次は蹴りかクチバシか、どっちが……
「ゴゲエエェッ!」
「ちょっ!?」
まさかのゲロである。
凄まじい異臭を放つゲロを吐きかけて来やがった。
飛び掛かりを警戒していた為、判断が一瞬遅れたがギリギリ回避には成功する。
洒落にならん腐乱臭から察するに、ファンタジー的な毒効果が無かろうが、あんな物をまともに浴びれば感染症待った無しだろう。
絶対に喰らうわけにはいかない。
というか単純にあんな臭いもの浴びたくない。
「オラァ!」
再び喉を鳴らし始めたコカトリスの足元に転がり込み足を狙って薙ぎ払う。
あのゲロがどれだけ放てるか判らんが、ばら撒かれまくったらそれこそ近付けなくなって一方的にゲロ射的の的にされかねない。
ニワトリ以上の胴長のコイツが飛び回れるとは思えないし、足を刈ってやれば蹴りも封印できるし、立ち上がらなければゲロの射程も大した事にはならないだろう。
だから、まずは足を奪う。
ゲロを引っ込めて、俺の攻撃を飛び上がって避けようとしたようだが、流石に反応が遅れたらしい。
片足が思いっきりミアリギスの横刃に引っかかっていた。
「ギョエエエエエエエ!」
刈り取るまでは行かなかったが、骨に深く食い込んだ手応えがあった。
かなりの深手だろう。
だが、まだ決め手には欠ける……と思っていたら意外とそうでもなかったらしい。
突然のダメージに混乱したのか、敵が目の前にいるってのに起き上がれずにもがいている。
変に冷静さを取り戻されても困るし、もがいているコカトリスの胸に穂先を付き入れ、捻り込む。
狩りで覚えたトドメの一撃だ。
混乱しているとは言え流石に無抵抗という訳ではなく、激しく尻尾を振り回して何度か張り倒されそうになったが、心臓へ一撃を受けては流石のコカトリスと言えども間を置かずにおとなしくなった。
「ふぅ……一人でも何とかなったか……」
最初見た時は流石に無理だろ、と完全に逃げ切りのつもりだったが意外となんとかなるもんだ。
俺の持つ唯一の必殺技であるピアースを使う必要もなかった。
というかこのゲームに来て初めてモンスターらしいモンスターをやっつけた気がする。
今まで倒してきたのって、ネズミにヤギ、猪にサイだからな……。
最後のは自分で倒したわけでもないが。
しかし、ガーヴさん頼って武器を変えたのは正解だったな。
攻撃力が上がったのは言わずもがな、それ以上にリーチが伸びたのが凄く良い。
ショートソードほど小回りは効かないが、攻撃範囲が広がったおかげで紙一重に攻撃を避けなくても反撃が届くのが大きい。
格ゲー時代からの癖で見に入りやすい俺にとって、反撃やカウンター性能の高い武器は自分の体を使うこのタイプのゲームでも相性が良いらしい。
とはいえ、格ゲーみたいにガードすると攻撃を無効化出来るとかではないので、このゲームの戦いは攻め手有利な場合が多いハズ。
当たらなければどうとでも……とは思うが、ライノスのときのように反撃前にこっちの体がバテちまっては元も子もない。
反撃も必要だが攻め手の牽制やピアースを軸にした攻勢なんかも覚えんとダメそうだなぁ。
「……にしても」
なかなか人が来ないな。
入口の方も野犬が暴れてるらしいが、こんなところにコカトリスが迷い込んでくるくらいだし、野犬だけじゃなくてヤバい奴も混ざってたりするんだろうか。
一応穴がありそうな箇所を注視するっていう本来の役目が果たせないんだが、流石にぶっ壊れた壁を放置するわけにもイカンし……
というか早いとこ人が来てくれないとここから野犬共が入り込んできかねんぞ。
「キョウ! ここか!」
……なんて思ってたら丁度タイミングよくガーヴさんたちが人を引き連れてくれた。
これだけいればここも平気だろう。
「コイツは、お前が?」
「ええ、まぁ。初めて見るデカイ獣だったのと壁を破壊されたことも合って呼子を鳴らしましたけど、一人で何とかなりました」
本当はゲーム知識でコカトリスかバジリスクのどちらかということは判っているがまぁこの世界での呼び方は違うかもしれんし、石化能力らしきものは見たけどゲロみたいに俺の知らない行動とかもあった事から、見た目のよく似た別のなにかという可能性もある。
俺はこのゲームの世界ではまだ新参だ。
攻略サイトも使えない以上自分で見聞きして情報を集めるしか無いワケだし、極力知ったかぶりは避けていく。
「何とかなりました……ねぇ」
「ええと……?」
あれ、俺なんかうっかり不味いこと言ったか?
露骨に胡散臭いものを見る目を向けられている。
でも、思い返してみても別におかしな事を口にした覚えはないぞ?
一体どういう事だ?
ガーヴさん以外の反応はと言うと……
「バジリコックを一人で……? 冗談だろ?」
「いやでも実際ここに死体が……」
「こいつ、ライノスとタイマンで捌き切ったってのはフカシじゃなかったって事か」
等々。
判ったことは……
一つ、こいつの名前はコカトリスでもバジリスクでもなくバジリコックらしい。
またマイナーな……
二つ、どうやらバジリコックは狩り特化のこの村の住人をして一人で退治するようなものじゃないらしい。
つまり、あの目はこれをやっつけたのが原因らしい。
俺、何も悪くねぇじゃねぇか!
「キョウよ。コイツはバジリコックっつってな。石化の爪を持つ魔獣の一種でライノスなんかよりも遥かに危険度の高い正真正銘の怪物なんだよ」
「えぇ……?」
いや、石化がヤバイってのは分かるし怪物であることは否定しないけど……
「実際戦ってみた感じ、明らかにライノスのほうが厄介だったんですけど?」
「ふむ?」
「ライノスは逃げ回るしか手の打ちようがなかったですけど、コイツ普通に攻撃通用するんで普通に倒せましたよ?」
「確かに頑強なライノスと比べれば頑丈さで劣るだろうが……そもそもコイツの爪は一発でも受ければそれで終わりなんだぞ?」
「そうは言っても、ライノスの突進も一発でおしまいですよ? 直撃しなくても避けそこなって足先が引っかかっただけで片足圧し折られたし」
「む……そう言われると……」
確かに石化というのは大抵のゲームで即死に匹敵する厄介なバッドステータスだ。
石化持ちの敵はゲーム終盤の強敵として現れることが多い。
だがそれはゲームだからであって、実際には石化だろうが毒だろうがましてやただの突進だろうが喰らえば命にかかわる訳で。
確かに今まで生きてた仲間が目の前で石になってしまうというのは視覚的にダメージがでかいかも知れない。
でもそれを言ったら毒でジワジワ苦しんで死ぬのだって辛いだろうし、ライノスの角に引っかかってた残骸みたいに、突撃されて衝撃でバラバラになるのだって見た目はショックだろう。
要は死に方のバリエーションでしか無いんだよな。
というか、そもそもの話あの爪で引っかかれれば、余程良い鎧をつけてない限り石化しなくても引き裂かれて即死だろう。
だからなのか、ガーヴさん達は石化を相当恐れている様だけれども、俺は言われるほどバジリコックのことを脅威と感じないんだよな。
「まぁ、倒せちまったヤツのことはどうでもいいとして、この壁の修復かあるいは防衛お願いできますか? 俺はまた守りの穴ができていそうな所を……」
見て回ってきます。
と、その場を離れようとした俺の背中に向けて
「おや? ここにはバジリコックを放ったはずなんですがねぇ……? どうしてあなた方生きてるんですか?」
唐突に、そんな言葉が破られた壁の向こうから投げかけられた。
野犬達の遠吠えが村の周囲から突然上がった時点で、襲撃されるんだろうなぁとは思ったが……
「よりによって俺の目の前かよ!」
事前から野獣使いによる獣の襲撃に備えて物見を普段の4倍に増やして全周囲を警戒していた。
遠吠えの時点で野犬だなんだと物見櫓の上で叫んでいたので獣共の接近自体はちゃんと察知できていたんだろう。
突然の襲撃にも右往左往せず、物見の指示で防衛担当の村人達が村の出入り口や野犬が集まっている方へ散っていった事からもそれは分かる。
だから、俺は当初の予定通りに集合した村人達によって抜けた警備の穴を埋めるために出入り口と出入り口の丁度中間地点くらいに移動したわけだが……
「何も目の壁をぶち破ってくることもないだろ……」
壁を乗り越えて獣が侵入する場合も考慮しての警戒だったが、まさか壁をぶち抜いてくるとは想定してなかった。
だってぶち破るなら普通入り口だろ。
何でわざわざ頑強な壁を破ってくるんだよ。
……と、愚痴を言いたくなるが、まぁ畜生の考えることなんて流石に理解できんし起こってしまった事態はどうしようもない。
例の振り回すことで音が出る呼子をブンブンと振り回して村への侵入者ありと伝える。
ちなみにライノスの時に使ったのとは用途が違うので鳴る音が段違いにでかい。
不慮の事態に遭遇した時、周囲が騒然としている時に下手に叫んでも何言ってるのか聞こえないことのほうが多いとかで、コレのほうが甲高くて思いの外でかい音が出るとかで緊急時の知らせにはよく使われるらしい。
とまぁ、これで緊急事態だというのは伝わったはず。
後は、突然の音にビビって固まってるデカブツをどうするか、だが……
RPGの主人公であれば、ここは任せろとばかりに飛び出して襲い来る獣をバッタバッタとなぎ倒すところだろうが、このゲームがプレイヤーのレベル相応の敵役モンスターを配置してくれるとかそんな優しく出来ていないことはいくらなんでも理解している。
というか、見た目的に無理だろこれ。
俺でも知ってるし、コイツ。
それなりの数のRPGを嗜んでるなら誰でも知ってるような有名モンスターの一体。
ニワトリの身体に蛇の尾姿の
「コカトリス、いやバジリスク? どっちだっけ……」
コレ、野獣じゃなくて魔獣じゃないのか?
こっちでの魔獣と野獣の違いについては、以前簡単な講義を受けたので事情は把握している。
コカトリスって自然発生するようなものなんだろうか。
でも、こうやって向かい合っていられるって事は、少なくとも見られただけで死ぬ的な有名な能力は持って無いみた いだし、蛇腹のニワトリって形だけの獣……なのか?
――いやぁそんな事ないな。
削られた壁の一部が不自然に白化している。
名前通りの能力なら、石化か?
壁の一部だけ、しかも抉れたようになった所だけと言うことは、ヤバイのは爪かクチバシか。
お約束通りならクチバシは要注意だろうな。
いや、そもそもこの巨体に木の杭で出来た壁をへし折ってぶち抜く馬力ってだけで充分に脅威なんだけどさ。
というかバジリスクって感覚的にニワトリと似たようなサイズだと思ってたけど、ここのバジリスクは違うようで、頭の高さが俺より高いところにある。つまりデカイ。
言ってみれば、素早いライノス的な?
……何それ最悪なんですけど。
サイズではライノスほどはないけど、厄介さも見た目の異様さもライノスより遥かにやばそうだ。
「ケエエエェェェェ!」
そこはコケコッコーじゃないのか。
文字通り化鳥の様な声を上げて威嚇してくるコカトリス。
ライノスみたく問答無用で突っ込んで来るのかと思ったがそうでも無いらしい。
威嚇ということはこっちを警戒していると言う事だ。
厄介な。
馬鹿みたいに突っ込んで来てくれれば、まだにげに徹することも出来るのに、ここまで警戒されると下手な動きが取りにくい。
人である俺より獣である相手の方が身体のスペックが高いからな。
見てから動かれるとどうにもならん。
と思ったのもつかの間、突然の跳びかかりからの爪が襲って来た。
フェイントか?
いや、威嚇に怯んだと見て攻めかかって来たか。
流石に俺も初手には最大限に警戒していたのでこれには対応出来た。
「ふっ!」
すれ違いざまに一撃。
羽根と鱗が飛び散る。
「ギョエエエエエェェェェ!?」
おおっ?
ダメージが通る?
ライノスの時みたく逃げに徹して他の村人が集まってくるまで粘るつもりだったけど、これはもしかして?
飛び上がっての爪を使った蹴りを避けつつ、翼狙いに一撃を入れる。
「ケケェッ」
やっぱりだ。
ライノスの時と違い明確にダメージが通った、そんな手応えがある。
武器の変化もあるが、コイツは素早い分ライノスほど頑強では無いのだろう。
巨体に見合わぬスピードは厄介だが、こちらの攻撃が通るのならば勝機があると言うことだ。
コカトリスは傷付けられ、自分の血を見たからか、目に見えて興奮している。
ここまで頭に血がのぼっているのなら、何とかなるか……?
変に攻めかからず、徹底してカウンター狙いのスタンスに集中して次の攻撃にそなえるのが一番効果的だな。
俺が手を出すのは明らかに弱ったときだけにしよう。
迂闊に手を出して怪我するのも馬鹿らしいしな……
「ゴオオエェェ……」
む、また来るか。
次は蹴りかクチバシか、どっちが……
「ゴゲエエェッ!」
「ちょっ!?」
まさかのゲロである。
凄まじい異臭を放つゲロを吐きかけて来やがった。
飛び掛かりを警戒していた為、判断が一瞬遅れたがギリギリ回避には成功する。
洒落にならん腐乱臭から察するに、ファンタジー的な毒効果が無かろうが、あんな物をまともに浴びれば感染症待った無しだろう。
絶対に喰らうわけにはいかない。
というか単純にあんな臭いもの浴びたくない。
「オラァ!」
再び喉を鳴らし始めたコカトリスの足元に転がり込み足を狙って薙ぎ払う。
あのゲロがどれだけ放てるか判らんが、ばら撒かれまくったらそれこそ近付けなくなって一方的にゲロ射的の的にされかねない。
ニワトリ以上の胴長のコイツが飛び回れるとは思えないし、足を刈ってやれば蹴りも封印できるし、立ち上がらなければゲロの射程も大した事にはならないだろう。
だから、まずは足を奪う。
ゲロを引っ込めて、俺の攻撃を飛び上がって避けようとしたようだが、流石に反応が遅れたらしい。
片足が思いっきりミアリギスの横刃に引っかかっていた。
「ギョエエエエエエエ!」
刈り取るまでは行かなかったが、骨に深く食い込んだ手応えがあった。
かなりの深手だろう。
だが、まだ決め手には欠ける……と思っていたら意外とそうでもなかったらしい。
突然のダメージに混乱したのか、敵が目の前にいるってのに起き上がれずにもがいている。
変に冷静さを取り戻されても困るし、もがいているコカトリスの胸に穂先を付き入れ、捻り込む。
狩りで覚えたトドメの一撃だ。
混乱しているとは言え流石に無抵抗という訳ではなく、激しく尻尾を振り回して何度か張り倒されそうになったが、心臓へ一撃を受けては流石のコカトリスと言えども間を置かずにおとなしくなった。
「ふぅ……一人でも何とかなったか……」
最初見た時は流石に無理だろ、と完全に逃げ切りのつもりだったが意外となんとかなるもんだ。
俺の持つ唯一の必殺技であるピアースを使う必要もなかった。
というかこのゲームに来て初めてモンスターらしいモンスターをやっつけた気がする。
今まで倒してきたのって、ネズミにヤギ、猪にサイだからな……。
最後のは自分で倒したわけでもないが。
しかし、ガーヴさん頼って武器を変えたのは正解だったな。
攻撃力が上がったのは言わずもがな、それ以上にリーチが伸びたのが凄く良い。
ショートソードほど小回りは効かないが、攻撃範囲が広がったおかげで紙一重に攻撃を避けなくても反撃が届くのが大きい。
格ゲー時代からの癖で見に入りやすい俺にとって、反撃やカウンター性能の高い武器は自分の体を使うこのタイプのゲームでも相性が良いらしい。
とはいえ、格ゲーみたいにガードすると攻撃を無効化出来るとかではないので、このゲームの戦いは攻め手有利な場合が多いハズ。
当たらなければどうとでも……とは思うが、ライノスのときのように反撃前にこっちの体がバテちまっては元も子もない。
反撃も必要だが攻め手の牽制やピアースを軸にした攻勢なんかも覚えんとダメそうだなぁ。
「……にしても」
なかなか人が来ないな。
入口の方も野犬が暴れてるらしいが、こんなところにコカトリスが迷い込んでくるくらいだし、野犬だけじゃなくてヤバい奴も混ざってたりするんだろうか。
一応穴がありそうな箇所を注視するっていう本来の役目が果たせないんだが、流石にぶっ壊れた壁を放置するわけにもイカンし……
というか早いとこ人が来てくれないとここから野犬共が入り込んできかねんぞ。
「キョウ! ここか!」
……なんて思ってたら丁度タイミングよくガーヴさんたちが人を引き連れてくれた。
これだけいればここも平気だろう。
「コイツは、お前が?」
「ええ、まぁ。初めて見るデカイ獣だったのと壁を破壊されたことも合って呼子を鳴らしましたけど、一人で何とかなりました」
本当はゲーム知識でコカトリスかバジリスクのどちらかということは判っているがまぁこの世界での呼び方は違うかもしれんし、石化能力らしきものは見たけどゲロみたいに俺の知らない行動とかもあった事から、見た目のよく似た別のなにかという可能性もある。
俺はこのゲームの世界ではまだ新参だ。
攻略サイトも使えない以上自分で見聞きして情報を集めるしか無いワケだし、極力知ったかぶりは避けていく。
「何とかなりました……ねぇ」
「ええと……?」
あれ、俺なんかうっかり不味いこと言ったか?
露骨に胡散臭いものを見る目を向けられている。
でも、思い返してみても別におかしな事を口にした覚えはないぞ?
一体どういう事だ?
ガーヴさん以外の反応はと言うと……
「バジリコックを一人で……? 冗談だろ?」
「いやでも実際ここに死体が……」
「こいつ、ライノスとタイマンで捌き切ったってのはフカシじゃなかったって事か」
等々。
判ったことは……
一つ、こいつの名前はコカトリスでもバジリスクでもなくバジリコックらしい。
またマイナーな……
二つ、どうやらバジリコックは狩り特化のこの村の住人をして一人で退治するようなものじゃないらしい。
つまり、あの目はこれをやっつけたのが原因らしい。
俺、何も悪くねぇじゃねぇか!
「キョウよ。コイツはバジリコックっつってな。石化の爪を持つ魔獣の一種でライノスなんかよりも遥かに危険度の高い正真正銘の怪物なんだよ」
「えぇ……?」
いや、石化がヤバイってのは分かるし怪物であることは否定しないけど……
「実際戦ってみた感じ、明らかにライノスのほうが厄介だったんですけど?」
「ふむ?」
「ライノスは逃げ回るしか手の打ちようがなかったですけど、コイツ普通に攻撃通用するんで普通に倒せましたよ?」
「確かに頑強なライノスと比べれば頑丈さで劣るだろうが……そもそもコイツの爪は一発でも受ければそれで終わりなんだぞ?」
「そうは言っても、ライノスの突進も一発でおしまいですよ? 直撃しなくても避けそこなって足先が引っかかっただけで片足圧し折られたし」
「む……そう言われると……」
確かに石化というのは大抵のゲームで即死に匹敵する厄介なバッドステータスだ。
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だがそれはゲームだからであって、実際には石化だろうが毒だろうがましてやただの突進だろうが喰らえば命にかかわる訳で。
確かに今まで生きてた仲間が目の前で石になってしまうというのは視覚的にダメージがでかいかも知れない。
でもそれを言ったら毒でジワジワ苦しんで死ぬのだって辛いだろうし、ライノスの角に引っかかってた残骸みたいに、突撃されて衝撃でバラバラになるのだって見た目はショックだろう。
要は死に方のバリエーションでしか無いんだよな。
というか、そもそもの話あの爪で引っかかれれば、余程良い鎧をつけてない限り石化しなくても引き裂かれて即死だろう。
だからなのか、ガーヴさん達は石化を相当恐れている様だけれども、俺は言われるほどバジリコックのことを脅威と感じないんだよな。
「まぁ、倒せちまったヤツのことはどうでもいいとして、この壁の修復かあるいは防衛お願いできますか? 俺はまた守りの穴ができていそうな所を……」
見て回ってきます。
と、その場を離れようとした俺の背中に向けて
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唐突に、そんな言葉が破られた壁の向こうから投げかけられた。
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
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勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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