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二章
八十九話 強行突破Ⅰ
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「よくよく考えたら、ハティちゃんこんだけ強いんだから、目立つところで一度ハティちゃんに暴れてもらって、その内に私達だけが囲いを突破して、その後ハティちゃんに合流してもらうって出来ないのかな?」
傭兵団の城に対する包囲網を前にチェリーさんがそんな案を投げてきた。
確かに、チェリーさんの言うとおりの方法が実のところ一番実現度が高くて、しかも成功率も高い。
というか、実はソレ、最初に思いついたことなんだけどね?
「だめ~! ハティも一緒に着いていきたいって」
「ウォン!」
とまぁ、エリスとハティに却下されてしまったのだ。
「えぇ~? これが一番確実で安全だと思うんだけど、それでもダメ?」
「だめ! ハティだけ仲間はずれは駄目だよ!」
「そっか~、だめか~……」
どうにかならないの? 的な視線を飛ばされてもこればっかりはな。
エリスだけがグズるのなら、色々理由を並べて言い聞かせていた所なんだが、エリスだけでなくハティも嫌がってるから流石に強要はできないだろ。
まぁ、ハティの場合別に一人で突っ込むことを嫌がってるわけじゃないみたいなんだけどさ。
「まぁ、諦めなって。こういう事で子供に強要するのは流石に大人げない」
「……その様子だと、キョウくんも説得済み?」
「そゆこと」
「そっか~……」
まぁ誰もが思いつく一番安全確実な突破方法だし、未練がましくなるのは分からなくもないけどな。
ただ、正直議論に費やしている時間はあまりない。
あの得体の知れないバケモノと遭遇した連中は恐らく本隊と合流しようとするはず。
そうなると、連中よりも先行して城に向かっている俺達は、城を包囲している傭兵団の本隊と、バケモノに追われてくる分隊との挟み撃ちに合うことになる。
ある程度の広さが有るとはいえ、崖上にある城への道を囲う森の広さは限られている。
その広さは城に近づくほどに狭まっていくから、城に近づくほどに遭遇率はかなり高くなってしまう。
それに、傭兵団から逃げられたとしても、あのバケモノの探知能力を誤魔化せるかどうかまでは判らない。
さて、となると……
「こっちの考えを読まれた時は少々ピンチになるけど、森の端……城壁を沿うように進もうと思うけど、どう?」
「何でピンチになるの?」
「逃げ道の半分が壁に遮られるからだよ。挟み撃ちの形になると逃亡がかなり厳しくなるから」
「あ、なるほど……」
壁の高さはかなりある。
森の木の丈の倍以上の高さだ。
ハティだけなら登れるかも知れないが、俺達ではあの高さの垂直の壁を登るのはまず無理だ。
俺達を背負ったハティが登れるのかは……まぁ判らんが試す訳にはいかない。
流石にハティの巨体が壁をよじ登っているのを見られれば一発でコチラの位置も考えもバレてしまう。
試すとしても最終手段の、イチかバチかといったシーンでだろう。
「それだけのリスクがわかっていて、それでも壁沿いに行こうとする理由は?」
「傭兵の連中がバケモノの驚異から逃れようとした場合、助かる為にも最短距離で本隊に合流すると思うんだ」
必ずしもそうするとは言えない、分析というよりもただの予想だ。
ただ、命に関わるような緊急事態に遭遇したなら、そんな状況から出来るだけ早く脱したいと誰だって思うんじゃないだろうか。
もし、そんな状況に陥った際のマニュアルが傭兵団に存在したとしても、そのマニュアルだって危機から速やかに脱する方法をマニュアル化してるんじゃないかと思う。
緊急時マニュアルなんてのは大抵は緊急時での危機からの脱し方や、やり過ごし方だというのが常道だからだ。
全を活かすために、一部を切り捨てるようなマニュアルが徹底されていたら、その時はもう忠誠度スゲェと言うしか無いというか、完全に読み違えという事になるんだが、大規模な傭兵団にそんな忠誠度を試すようなマニュアルを強いたら捨て駒にされる事を恐れて反発者続出で、組織が機能しないんじゃないかと思うんだよな。
「だから、俺達も最短ルートを使った場合、本隊の包囲陣に阻まれて足を止めた途端、自然と追われてきた連中の正面を塞ぐ事になる。追いつかれたら完全に挟み撃ちだ。しかもバケモノのおまけ付きで」
「つまり、連中には先に合流してもらって、あわよくばあのバケモノの処理をさせてしまおうってこと?」
「もしかしたら場が混乱して、囲いを突破する余地も出来るかも知れない。……まぁこれは希望的観測だけど。ただ少なくとも混乱は起こると思うんだ。だからその混乱の隙を突いて、ハティには俺達全員を乗せてもらって強行突破を狙おうって考えなんだけど……」
どちらにしろハティには色々と苦労してもらうことになる。
ただまぁ、連中が追っているのは俺達ではなくハティなのだから、そこはもう自分のためにも頑張ってもらうしか無い。
「……って話なんだけど、エリスちゃんやハティちゃんは何か思うところはある?」
「うん? キョウの決めた方法じゃだめなの?」
「ウォン?」
「あ、この作戦は良いんだ? ……うん、まぁ、よし。ハティちゃんもそれで良いっぽいし、反対ゼロということでキョウくんの案で行こうか」
その困惑、よく分かるわー。
俺もハティがうちに来てしばらくの間、時折物分りの良いエリスがワガママを言うことがあった。
最初は何をエリスが嫌がってるのか分からなくて頭を抱えたもんだ。
基本的にエリスは一緒に居たいだけなんだよな。
手がかからないせいで時折見落としがちになるが、エリスはまだ子供だから感情を優先する事が多い。
今回もさっきエリスが言ってたけど、ハティを仲間外れにすることに対して嫌がっているだけだ。
で、ハティはエリスが嫌がる指示そのものを嫌がっている……といった感じだ。
恐ろしいことに、ハティ単騎で敵をなぎ倒すとかそういう事に対する危機感はまるで感じていないせいで、余計に前提に気づかないと何を嫌がってるのか気付きにくい。
何にせよ、方針は決まった訳で、さっさと森の奥……つまり城壁を目指して進路を変える。
遠回りになるが、急がば回れと言うやつだ。
傭兵団の城に対する包囲網を前にチェリーさんがそんな案を投げてきた。
確かに、チェリーさんの言うとおりの方法が実のところ一番実現度が高くて、しかも成功率も高い。
というか、実はソレ、最初に思いついたことなんだけどね?
「だめ~! ハティも一緒に着いていきたいって」
「ウォン!」
とまぁ、エリスとハティに却下されてしまったのだ。
「えぇ~? これが一番確実で安全だと思うんだけど、それでもダメ?」
「だめ! ハティだけ仲間はずれは駄目だよ!」
「そっか~、だめか~……」
どうにかならないの? 的な視線を飛ばされてもこればっかりはな。
エリスだけがグズるのなら、色々理由を並べて言い聞かせていた所なんだが、エリスだけでなくハティも嫌がってるから流石に強要はできないだろ。
まぁ、ハティの場合別に一人で突っ込むことを嫌がってるわけじゃないみたいなんだけどさ。
「まぁ、諦めなって。こういう事で子供に強要するのは流石に大人げない」
「……その様子だと、キョウくんも説得済み?」
「そゆこと」
「そっか~……」
まぁ誰もが思いつく一番安全確実な突破方法だし、未練がましくなるのは分からなくもないけどな。
ただ、正直議論に費やしている時間はあまりない。
あの得体の知れないバケモノと遭遇した連中は恐らく本隊と合流しようとするはず。
そうなると、連中よりも先行して城に向かっている俺達は、城を包囲している傭兵団の本隊と、バケモノに追われてくる分隊との挟み撃ちに合うことになる。
ある程度の広さが有るとはいえ、崖上にある城への道を囲う森の広さは限られている。
その広さは城に近づくほどに狭まっていくから、城に近づくほどに遭遇率はかなり高くなってしまう。
それに、傭兵団から逃げられたとしても、あのバケモノの探知能力を誤魔化せるかどうかまでは判らない。
さて、となると……
「こっちの考えを読まれた時は少々ピンチになるけど、森の端……城壁を沿うように進もうと思うけど、どう?」
「何でピンチになるの?」
「逃げ道の半分が壁に遮られるからだよ。挟み撃ちの形になると逃亡がかなり厳しくなるから」
「あ、なるほど……」
壁の高さはかなりある。
森の木の丈の倍以上の高さだ。
ハティだけなら登れるかも知れないが、俺達ではあの高さの垂直の壁を登るのはまず無理だ。
俺達を背負ったハティが登れるのかは……まぁ判らんが試す訳にはいかない。
流石にハティの巨体が壁をよじ登っているのを見られれば一発でコチラの位置も考えもバレてしまう。
試すとしても最終手段の、イチかバチかといったシーンでだろう。
「それだけのリスクがわかっていて、それでも壁沿いに行こうとする理由は?」
「傭兵の連中がバケモノの驚異から逃れようとした場合、助かる為にも最短距離で本隊に合流すると思うんだ」
必ずしもそうするとは言えない、分析というよりもただの予想だ。
ただ、命に関わるような緊急事態に遭遇したなら、そんな状況から出来るだけ早く脱したいと誰だって思うんじゃないだろうか。
もし、そんな状況に陥った際のマニュアルが傭兵団に存在したとしても、そのマニュアルだって危機から速やかに脱する方法をマニュアル化してるんじゃないかと思う。
緊急時マニュアルなんてのは大抵は緊急時での危機からの脱し方や、やり過ごし方だというのが常道だからだ。
全を活かすために、一部を切り捨てるようなマニュアルが徹底されていたら、その時はもう忠誠度スゲェと言うしか無いというか、完全に読み違えという事になるんだが、大規模な傭兵団にそんな忠誠度を試すようなマニュアルを強いたら捨て駒にされる事を恐れて反発者続出で、組織が機能しないんじゃないかと思うんだよな。
「だから、俺達も最短ルートを使った場合、本隊の包囲陣に阻まれて足を止めた途端、自然と追われてきた連中の正面を塞ぐ事になる。追いつかれたら完全に挟み撃ちだ。しかもバケモノのおまけ付きで」
「つまり、連中には先に合流してもらって、あわよくばあのバケモノの処理をさせてしまおうってこと?」
「もしかしたら場が混乱して、囲いを突破する余地も出来るかも知れない。……まぁこれは希望的観測だけど。ただ少なくとも混乱は起こると思うんだ。だからその混乱の隙を突いて、ハティには俺達全員を乗せてもらって強行突破を狙おうって考えなんだけど……」
どちらにしろハティには色々と苦労してもらうことになる。
ただまぁ、連中が追っているのは俺達ではなくハティなのだから、そこはもう自分のためにも頑張ってもらうしか無い。
「……って話なんだけど、エリスちゃんやハティちゃんは何か思うところはある?」
「うん? キョウの決めた方法じゃだめなの?」
「ウォン?」
「あ、この作戦は良いんだ? ……うん、まぁ、よし。ハティちゃんもそれで良いっぽいし、反対ゼロということでキョウくんの案で行こうか」
その困惑、よく分かるわー。
俺もハティがうちに来てしばらくの間、時折物分りの良いエリスがワガママを言うことがあった。
最初は何をエリスが嫌がってるのか分からなくて頭を抱えたもんだ。
基本的にエリスは一緒に居たいだけなんだよな。
手がかからないせいで時折見落としがちになるが、エリスはまだ子供だから感情を優先する事が多い。
今回もさっきエリスが言ってたけど、ハティを仲間外れにすることに対して嫌がっているだけだ。
で、ハティはエリスが嫌がる指示そのものを嫌がっている……といった感じだ。
恐ろしいことに、ハティ単騎で敵をなぎ倒すとかそういう事に対する危機感はまるで感じていないせいで、余計に前提に気づかないと何を嫌がってるのか気付きにくい。
何にせよ、方針は決まった訳で、さっさと森の奥……つまり城壁を目指して進路を変える。
遠回りになるが、急がば回れと言うやつだ。
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