ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

九十八話 混乱の都Ⅰ

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「こいつは……どういうことだ?」

 街にたどり着いた俺達の前に広がっていたのは祭りの喧騒ではなく燃え上がる町並みだった。
 緋爪の仕業……?
 だけど、俺たちを襲う時はワザワザ深夜に人目を忍ぶようにやってきた。
 追撃も街を出るまでは殆ど仕掛けてこなかったし、少なくとも街中で目立つような真似はしたがらないように感じたんだが……

「何てこと……襲撃を受けているの? しかし首都を狙うには規模が小さいし、何よりこのタイミングで動く以上は緋爪の本隊が近くにいることは解っているはず。なのに共働していないというのはどういうこと……?」
「あの傭兵団の分隊が仕掛けているってことはないの?」
「いえ、緋爪は名声にこだわる傭兵団。率先して民間人を狙うとは考え難い。そして同じくらい規律が厳しいことでも知られています。本隊からの指示ならともかく、一部の隊が暴走して本隊の近くでこんな暴挙に出ると……というのは考えにくいです。」

 自分たちの城を襲っていた傭兵団に対して、街を襲うとは考え難いと断言するって事は、俺たちには解らないけどそう考えるに足るだけの情報や根拠があるってことか。
 となると、ソレ以外だとチェリーさんの言じゃないが『鬼』が戦場に辿り着く前にこの街で人暴れしたとか?
 流石に無いな。
 追撃者狩りとか色々寄り道が会ったとは言え、『鬼』は戦場に出る前に一度俺たちと遭遇……はしていないが一方的にその姿を確認している。
 俺たちが街を抜ける時は『鬼』が暴れていたような雰囲気ではなかったし。
 それに、もし『鬼』が襲ったのだとしても、それから結構時間が立っているはず。
 であれば本来なら『鬼』の暴威を恐れて街を離れるか、火災の鎮火等といった復旧作業に奔走するものだろう。
 だけど、今のこの街はむしろ今が本番だと言わんばかりに荒れに荒れている。
 建物が壊れているだけではなく、今まさに人が争い合うような叫びがあちこちから聞こえてきている。
 つまりあの『鬼』の仕業という線は除外していい。
 じゃあ、一体――

「まずは詰め所を目指します。元々の目的地ですし、あそこなら情報が集まりやすいはず」
「なるほど、なら道の指示をお願いします」
「詰め所は大門の中にある。このまま中央大通りを直進すれば見えて来る」
「じゃあ最優先でそこを目指そう。エリス、ハティの手綱は任せる」
「うん、ハティお願い」
「ウォン!」

 ハティの運転はエリスに任せるとして、問題はこの街の状況だ。
 詰め所で情報を得るにしても、その前に少しでも判断材料を手に入れておきたい。
 目に見える範囲では誰かが暴れては居ないが、中央通りから外れた方からはまだ怒号が聞こえる。
 つまり現在進行系で何かが起こっていると考えられる。
 『鬼』の件とは別に、俺達の認知してない何かが同時並行で発生している?
 チェリーさんの考え方みたく、これがRPGのゲームイベントなら、『鬼』の剣が終わるまでイベントの発生を待っててくれたんだろうが……って、そういや同時進行でイベント多発して対処を間違えると火の車になるRPGもあったし、あまりジャンルとかは当てにはならんか。 
 結局、門まで近かったのもあって特に何か有用な情報を仕入れる事もなく目的地に着いてしまった。
 結構な数の兵士が見えるが、ハティにビビったのか近づいてくる人は居ない。
 アルマさんの姿は見えているはずだから敵だと判断されている訳ではないはずだが……

「さて、詰め所に着いたは良いけど、流石にかなりゴタツイてるみたいだけど……さて、どうする?」
「問題ありません。私が対応します」
「おや、ではお願いします。伝える情報の方もアルマさんに任せてしまったほうが良いですか?」
「そうですね、本来なら私の紹介を経由して王から直接頼まれた貴方が伝えるべき所ですが、今は状況が状況ですし、私が伝えたほうが円滑に進みそうですね。……わかりました、事情説明も私が行いましょう。ただし、貴方を状況から排除するのは流石に王の要請への抗命と取られかねませんので、直接言葉を賜った貴方にも同席はしてもらいます」
「まぁ、そうなりますよね。わかりました」

 流石に、あとで王様に話を聞かれた時に「いや、その場に俺居なかったし」とか流石に良くないだろうし、同席だけで済むと考えればまぁ、妥当か。

「でも、あの王様がそんな事で抗命だなんだと、つまらん文句言うようには思えないんですけど」
「王は言わないでしょうね。ただ、王を快く思っていない者が、配下の行動を種に批判するというのはよくあることなんですよ」
「あぁ……そういう……」

 本人じゃなくて政敵とかそっち側の話かよ。
 めんどくせぇな

「では参りましょう。キョウ殿だけついてきてください。他のお二方は月狼の近くに居てください。こんな状況で保護者無しで突き楼が居たら大騒ぎになるので」
「わかりました、じゃあ私とエリスちゃんで見ています。エリスちゃんが乗ってればまぁ大丈夫だと思いますけど、いざという時は名前を借りますけど良いですか?」
「はい、それでお願いします」

 アルマさんに従い、詰め所の扉をくぐる。

「失礼、この詰め所の責任者へ取り次いで頂きたいのだが」
「む……その鎧は王侍の騎士殿ですか?」
「王左の騎士、アルマです。王命により伝えなければならない重要な情報があります。至急責任者へ取り次いでください」
「は、少々お待ちを、直ぐに伝えてまいります!」

 恐縮したような感じで捕まえた兵士が奥の扉に消えていく。
 いや、したようなというか本当に恐縮していたのか。
 王侍の騎士とか王左の騎士とかいうから、てっきり何処ぞの御老公に付き従う二人組みたいな感じだと思っていたんだが、一般の兵士にも影響力のある確固とした地位を持ってる人なのかもしれない。
 いやまぁ、世を忍んでるだけであっちもしっかりとした地位を持ってたんだろうけど何かイメージがなぁ。

「アルマさん、王侍の騎士ってのは実は結構な発言力があったりするんですか?」
「どうでしょう……地位という点では、直属騎士として近衛の騎士と同格ではありますが、発言権はあくまで一騎士としてのものしかありません。近衛騎士団の中においては王侍の騎士は隊を持たず、王の手として個人で動くことが多い特殊な立場にあります」

 なるほど、懐刀とかそんな感じの側近的騎士達が王侍の騎士って事か。
 ますます……いや、今はそれは置いておくとしてだ。

「今話したとおり、作戦上の発言権という意味ではこの現場においてはこの詰め所の責任者のほうが上になります。ただ、我々が他所へ遣わされる場合はその殆どが王の勅命であったりすることが多く……」

 やってることは伝令兵でも、伝令の内容が内容だけに、この国に仕えている騎士である以上、どんな高位の騎士長であっても誰も王の言葉と同義であるアルマさんの言葉に異を唱えることは許されない。
 自分たちのトップがその言葉に従う様を見せられれば、国政とかをよく知らない末端の兵士達からみれば、自分たちの所属する部隊のトップよりも地位が上の騎士だと見られてしまっても仕方がないか。

「それと、我々王侍の騎士の命令系統は王直属……つまり、王命以外で我々の行動を決めることが許されていないという点もまた誤解を助長しているかもしれませんね」
「その発言に誰も逆らえず、王以外の誰の命令も受け付けない、王直属の特殊な騎士か。そりゃ何も知らなければ超絶特権階級とか思われても仕方ないかもなぁ」
「発言力とは別の所でそういった要素があるため、詳しく我々のことを知らない一般兵や若い騎士達は王侍の騎士について少々勘違いしている者が居るのも事実です」

 要は、大した権力は持っていないが、王様から直接パシリに使われているせいで「あの騎士はきっと王様に信頼された近衛の凄い偉い騎士なんだ」と勝手に勘違いされているだけだと。
 まぁ、アルマさんは気がついてないのかもしれないが、団長や隊長格とかではないと言っても、近衛騎士と同格ってだけで一般兵士からしたら雲の上の人物と見られてもおかしくないと思うけどな。

「王以外の誰の命令も受け付けないと言っても、王から国境防衛の手助けの命を受けれて、他の騎士の指揮下に入ったことは今まで何度もあるのですけどね」
「あぁ、多分それも気まぐれに王侍の騎士様が手を貸してくれたとかそんな風に思われてるんじゃないですかね」
「騎士である以上、そう気まぐれに振る舞うことなど出来はしないんですけどね」

 まぁ、そりゃそうだよな。
 騎士って、仕組みとかは多少違うにしても要するに上級国家公務員みたいなもんだろうし、責任がつきまとう以上好き勝手に振る舞うことはできないだろう。

「おまたせしました! 責任者の元へ案内いたします!」

 おお、お役所仕事で待たされるかと思ったら意外と対応が早い。
 王侍の騎士の威光か、はたまた現状への危機意識を強く感じているからなのか。
 どっちにしろ、こちらとしては待たされなくて済んだのは喜ぶべきことだろう。

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