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二章
百話 混乱の都Ⅲ
しおりを挟む「さて、キョウ殿は今の私とジルクリフ殿の会話で、この街で何が起こっているのか理解できたと思います」
「え? ええまぁ、一通り聞いていたんで理解はしましたけど」
・街が襲撃を受けている。
・襲撃しているのは緋爪ではなく貴族共に引き込まれた盗賊団。
・緋爪はこの状況で静観を決め込んでいる。
・体裁を気にする緋爪がこの件に賛同するとは思えず、貴族が緋爪ともめた可能性がある。
箇条書きに並べるとこんな感じか。
まぁ要するに馬鹿な貴族がまたぞろ馬鹿な事をやらかした、と。
本当に漫画の子悪党みたいな行動するな。
どういうAIの教育したらこんな暴挙に出るNPCが育つんだ……?
「私はこれから城へ戻らなければならないので、貴方がたにはこの先自力で立ち回って頂く必要があります。本来なら宿舎で大人しくして頂ければという所なのですが、相手が盗賊共となると、金目の物狙いでむしろ狙われかねない……というのは理解できますでしょう?」
「ええ、まぁはい。というかすでに昨日襲撃されましたし」
「この状況では詰所も人を匿っている余裕はないでしょうし、街の外に出ては緋爪に捕まる恐れがある。なので何とかして事が収まるまで身を潜めていただきたいのです」
なるほど。
緋爪が手を貸していないと言っても、自分から連中の前に姿を見せるのは流石に危険すぎる。
というか俺達……というかハティは連中から明確に狙われてるから無意味に街の外に出るのは却下だな。
ハティの足なら逃げきれはするだろうが、俺達がハイナ村から来たことは宿舎の部屋を狙い撃ちで襲撃しかけて来た事からバレているとみていい。
変にこの街から逃げ出した所を見られ、そのまま姿をくらますと、俺達の帰還を待ち伏せしたりといった形で村の方に迷惑が掛かりかねない。
「なんあら俺達が再びアルマさんをハティで城に送って行っても良いですけど。そのついでに城に匿ってもらうというのは?」
「その申し出は有難いのですが、未だ『鬼』の脅威に晒されている城に比べればこちらの方が安全のような気がします。そもそも、客人をそのような場所に連れ戻したとあっては私が王に叱られます」
それもそうか。
敵対しなければ襲われない「可能性が高い」だけで、未だ『鬼』の事は何一つわかっていない。
何か一つ、間違った瞬間命がないとかいうあの地雷原状態の城に戻るよりは、修羅場の街の方がまだ安全とか、ここはどんな世紀末なんですかよ?
なんにせよ、ここはアルマさんの言う通り面倒でも状況が決着するまでこの街の中で立ち回った方が良さそうだ。
「わかりました、俺達は俺達で何とかしてみます。アルマさんの方もあの森を抜けるのは大変でしょうがお互いなんとか切り抜けましょう」
「ええ、あなた達のご武運を祈っています」
短い挨拶を済ませ、アルマさんとは詰め所の扉前で別れた。
あまりブラブラしていても詰め所の人のじゃまになるし、さっさとこの場を離れるべきか。
そう考えながらエリスたちの元へ向かってみれば、何やら人だかりが……
あ~……なんかめんどくさい空気が……
「ちょっと、通してもらえますか?」
「おっ、おい、押すなって」
人の囲いを無理やり突破して見れば、そこには武器を突きつけられたハティとその背中に乗るエリス達の姿が。
どうしてこうなった……
「すんません、ちょっとコレ、どういう状況なんですかね?」
どうにも剣呑な空気を孕んでいるため、変に状況が動く前に武器を構える兵士達に状況を確認してみる。
こういう所で日和って他人のふりすると、大抵ろくなことにならないってのは経験済みだ。
後になって、兵士からはどうしてさっさと事情を話さなかったんだとか怒られて、チェリーさんたちからも、どうしてすぐに弁護に回ってくれなかったんだとか責め立てられる俺の姿が容易に思い浮かぶ。
会社務めの頃によくあったなぁ、こういうパターン。
嫌な思い出だぁ……
「見て分からぬのか! この街の混乱に乗じてこんな所にまで凶悪な野獣が入り込んできておるのだ! 怪我をしたくなくば下がっておるが良い!」
うん、まぁ何となくそんな気はしてた。
してたんだが……アルマさんと別れた途端これかよ。
「あの、その狼は俺の家族みたいなもんで、変に攻撃したりしない限り危険なことはないですよ。現に俺の妹やツレが背中に乗ってるでしょう?」
「馬鹿なことを言うんじゃない! あの姿が見えんのか!」
「いやだから、あの姿見てくださいよ。しっかりと乗りこなしてるでしょうが」
「お前は何も知らないからそんな事が言えるんだ! 野次馬は怪我をしないうちにさっさと下がりなさい!」
「いや、だから人の話聞けよ!」
おっと、ついイラッと来て素の暴言が。
「何も知らないと言いますけど、貴方にハティの何を知っていると言うんですか?」
「そんなもの見ればわかるだろう!」
駄目だ、まるで話を聞いてもらえん。
流石のエリスたちも困り顔だ。
突破しようと思えば出来るだろうが、あまりこの国で事を荒立てたくもない。
だが、後も囲まれてるとなぁ。
「アンタ本当に見ただけでわかるのか? あの狼、ハティはつい今しがた、王城から王命によって重要な情報を伝えるため王侍の騎士殿を背に乗せてきたんだが? それに対して武器を向けるのがどういう事かちゃんと理解しているのか?」
「馬鹿なことを言うな! あんな凶暴な獣に王侍の騎士様が乗るはずがないだろうが!」
「それはアンタの勝手な思い込みだろうが……ならその凶悪な獣の背中に女子供二人仲良く乗っかってるのはどう説明するんだよ?」
「無理やりさらわれてきたに決まっておるだろうが!」
何でこのオッサン、全て決めつけで話すんだろうか?
取り囲んでいた周りの兵士も反応を見るに、このオッサンの発言のほうがおかしいという事に気づき始めている。
な~んかおかしいんだよな。
この不自然なまでの支離滅裂な思考や言動、つい最近どっかで見たような……
「アンタまさか、貴族共の関係者じゃないだろうな……?」
「何だと貴様!? この俺を愚弄するのか!?」
あれ、このキレ方は違ったか?
あの貴族のボンボンと思考が被って見えたからてっきりコイツも貴族関係者だと思ったんだが……
というか、人の話全く聞こうとしなかったくせに、愚弄されたことだけには反応するのかよ。
あの貴族だけが頭おかしいんだと思ってたが、コレはもしかしてあんな思考の人間が割と多いのか?
漫画に出てきてもおかしくないような極端な難聴系自己中やられキャラ的な思考だぞこれ。
こっちの鯖は運営側はAI弄ってないんだよな?
こんなの本当に自然発生するものなのか?
一人だけなら「このひとあたまおかしい……」で済むが、この短期間で複数人となるとAIの制作過程に問題があるんじゃないかと考えたくもなる。
「何の騒ぎだ! 騒々しい!」
強烈な怒号と共に現れたのは、ついさっきまで一緒にアルマさんが話していたこの詰め所の責任者の人だった。
「大隊長! 不用意に近づいてはなりません!」
「馬鹿者! お前は一体誰に対して武器を向けておるのだ! その狼と主人たちは王城より王侍の騎士殿と重要な情報を運んできてくれたのだぞ!」
「な、何を言っているのですか? 相手は大型獣ですよ!?」
「だから何だ!? 実際俺の所に王左のアルマ殿はたどり着き、重要な情報がもたらされた! そのアルマ殿が直々にこちらのキョウ殿を俺に紹介した。その狼や背中の娘たちもキョウ殿と共に王直々にこの都に招かれた重要な客人だ!これ以上何か言葉が必要か!?」
「納得しかねます! 何故――」
「……お前たち、そのたわけを拘束しろ。どうやら錯乱しているようだ」
事情を説明してなお、まるで話を聞こうとしないその兵士を相手に、もはや話は通じないと諦めたのか対話を切り周囲の兵士に命令して叫ぶ兵士を捕縛させた。
最初はハティたちに剣を向けていた兵士達も、その兵士の言動と、責任者の人の言葉からどちらが正しいのかを察したのだろう。
皆、暴れる兵士を押さえ、引きずるようにして詰め所の中に入っていった。
「大隊長殿! 貴方はこの国を滅ぼす気か!?」
その間も、すごい勢いで喚き散らしていたが、詰め所の扉が閉じてしばらくしてその声も届かなくなった。
何処かの部屋に閉じ込めでもしたのか。
「どうしてしまったというのだ、あやつは……」
そう、つぶやくように言葉を吐いた責任者の人は、ため息のまま深呼吸するとこちらに向き直ってきた。
「すまない、普段のアイツは冷静な考えができる男で、あんな事を言うような奴ではないのだが……」
「とても冷静な姿は思い描けないくらいに決めつけと思い込みだけで喚き散らしてましたけど」
「私も驚いているのです。あ奴のあの様な姿は今まで一度も見たことがないので……何にせよ、王の客人に大変迷惑をかけた。許してほしい」
そういって責任者の人……ジルクリフさんは90度きっかりの礼をしてきた。
確かに、あの言動はちょっと普通じゃなかったな。
自分たちにとってのリーダーの説明すら、まるで最初から聞く気がないんじゃないかって位に聞く耳を持っていなかった。
あの貴族のボンボンでもあるまいし、普段からあんな態度では軍隊のなかでやっていくのは無理だろう。
という事は、この人の言う通り普段はマトモで、今回に限って頭のおかしい言動を繰り返した……?
俺たちを狙ってピンポイントでか?
明らかに何らかの作為性を感じるんだが。
……というかジルクリフさんの下げた頭が戻ってこない。
「よしてください、確かに王の誘いでこの祭りに参加しましたけど、俺は所詮ただの辺境の村人ですよ。その謝罪だけで十分です」
「そう言っていただけると助かります。今後、このような事で足止めされぬよう他の兵たちにもキョウ殿達のことは周知徹底させておきます」
「よろしくおねがいします、助かります」
流石に味方の兵士に遭遇する度に敵対されていたのでは流石にやっていられない。
ここはその言葉に甘えることにしよう。
「では、私は仕事が残っておりますのでここで失礼させていただきます」
「仕事の邪魔をしてしまって申し訳ない。大変助かりました、ありがとうございます」
感謝の挨拶は大事だよな、うん。
腹の立つ対応をされた後だからこそ、自分は違うアピールをしようとか考える辺り、俺の器は小さいのだろうか。
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