ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

百一話 混乱の都Ⅳ

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「ホンっと、何だったのさ、さっきの奴!」

 詰め所を離れ、ハティの背中に揺られている中、先程の騒動の件で背後のチェリーさんはいまだ激おこである。
 俺が現場に到着する前にすでに一悶着あったそうで、どれだけ状況を説明しても罵倒しか帰ってこなかったのだそうだ。
 何を言っても聞く耳を持たず、しまいには子供のエリスにまで手をあげようとしたらしい。
 あっさり躱されたようだが。
 で、それに怒ったあの兵士が剣を抜き、その場に俺が駆けつけた、と。
 エリスはともかくチェリーさんもハティの背中に対比していたのはそれが理由らしい。
 俺が詰め所の中にいる状況で変に反撃して怪我させたらろくな事にならないと踏んで、何とか殴り返さずに我慢していたのだそうだ。

「あんな人の話を聞かない馬鹿キャラ、ゲームや漫画でもそうは……って、つい最近会ったわね……」

 まぁ、あの貴族を連想するよなぁ。
 自分が正しいと疑わない、他人の話を聞こうともしないって感じがかなり一致する気がする。
 当然、全く同じというわけではない。
 根本的な価値観みたいなのは全く違ってはいた。
 貴族は自分の虚栄心を満たすためといった、自分本意な考え方の権化みたいな感じだったが、あの兵士は言動がおかしいなりに、国のために行動しようとはしていた。
 全く言動が噛み合ってなかったけどな。
 チェリーさんも口走っているあの貴族の時も散々感じたことだが、普通に街という巨大コロニーで生活していてあの様な自己中……というか周りの話にまるで聞く耳を持たない様な思考が育つものだろうか?
 どう考えても、誰かが悪意を持ってそう振る舞っているようにしか考えられないのは自分が日本人だからだろうか?
 海外の……もっといえばこの世界の文明基準ではああいう考え方の人間もちらほら出てもおかしくないのか?
 だが、どうにも誰かに意識を乗っ取られて……と言うには、今回は思想的なものがあまりに違うように感じる。
 もちろん2人以上の術者が関与しており、操っていたのはそれぞれ別の対応を見せたという可能性もあるにはある。
 或いは、人によって演技してキャラを使い分けてるとかな。
 が、流石にそこまで思考が飛躍すると、状況証拠の少ない今のままではありとあらゆる可能性が想定できてしまう。
 ジルクリフさんの言っていたことが、部下を庇うためのデマカセというのでないのなら、突然ああいう言動をするようになった原因が何かあるのは確かだと思う
 でも、その何かについて結論を出すにはまだ情報が足らないってことか。

「まぁ、終わったことは気にしないでおこう。何か閉じ込められてたみたいだし、リーダーにも反抗的だったから、あの貴族のボンボンと違ってきっと処罰されるでしょ」
「そうなんですけど! 腹が立つのは仕方ないっしょ!?」
「まぁ気持はよく分かるけどな」

 いきなり的はずれな事で責め立てられた挙げ句武器まで向けられて、腹が立たないわけがない。
 俺がやられても当然腹が立つ……というかキレてたかもしれないが、適切に処理されたのならまぁ、それでいいかなってなるな。
 というか、あんなおかしなヤツの為に自分の考える時間を必要以上に奪われる事の方が個人的には許容できないので、自分に害として降り掛かってきそうな要素以外は考えたくないというのが本音だ。
 あの行動が異常行動だったとした場合、原因が何処に有るのかは気になっても、あの兵士自体は正直どうでもいいのだ。
 もちろん、今後も関わりがある人物であればそうも言ってられないが、少なくともあの兵士と今後関わる事はないだろうし、あの貴族もこの街にいる間は勝手に絡まれるかもしれんが、この街を離れれば恐らくもう二度と会うこともないだろうからな。
 というか、宿舎攻撃からこっち、ログアウトせずに付き合ってくれてるチェリーさんが居る手前口にはしないが、実のところさっきの会議から眠くて仕方なくて、多少の無礼とか無視していいからさっさと帰りたいというのが本音だったりするのだ。

「あぁ、もう! まつりは楽しかったけど、この街来てからストレスのたまり方が半端ないんですけど。けど!」

 貴族、兵士と続いて話の通じない奴に絡まれるわ、せっかく発生した大型イベント(チェリーさん主観)で、ほとんど手出し禁止の見てるだけ進行だわで、チェリーさんの激おこボーダーが大分下がってきてるなコレ。

「ほら、アレだよ。ゲームや漫画だとこういうメインシナリオとは関係のない、どうでもいい面倒くさい人間関係的なシーンはカットされてるだけで実際にはスムーズに世界を救ったように語られる勇者も皆こういうのを経験してるんだよきっと、多分」
「ほんとにそうかしら? そういうのに遭遇しない天運持ってるのが主人公になれるとかなんじゃないの?」
「そう言われると確かにそんな気もしないでもないけど、世界を救う系って大抵王様とか大統領とかと関わり合いになるじゃん? なのに政治に一切関わらずに話しが進められるとは思えなくね?」
「そりゃそうかもだけど……」

 まぁ、今のは完全にただの思いつきだけどな。
 でも、少なからずそういう事はあるとは思う。
 たった一人の最強俺ツエーで世界を救うとかいうストーリーならともかく、MMOの主人公ってナニカスゴイ系能力を持ってはいても、突出して強いってのはあまりないんだよな。
 まぁMMORPGっていうシステムからして大抵は他のプレイヤーとパーティ組んで大ボスと戦うってゲームだから、そこらの中ボスでも一対一じゃ勝てないような敵だらけってのもあるんだが。
 無双系のゲームと違って、雑魚ですら物量で押されれば苦戦どころか下手すりゃ壊滅するこのゲームシステムで世界の巨悪と戦う的な展開を望むなら、国王とかそういう権力者から金銭的にも戦力的にも支援を貰わないと多分どうにもならないと思うんだよな。
 それを覆す場合、それこそ超大型の戦闘系プレイヤーギルド立ち上げて戦争に介入するとかそういった無茶が必要になるだろう。
 だが、どちらにしろプレイヤーかNPCかの違いはあっても人と人のつながりが大きくなればそこには政治が生まれるのだ。

「チェリーさんは製品版の方も触るんでしょ? あっちでもメインシナリオないって話だから、大規模戦闘に主力で参加とかしたいなら結局コネとか作らないと厳しいんじゃない?」
「あぁ~……そっかシナリオ追っていけば戦闘になるRPGと違って、そうなるのか」

 製品版の方も、公式のシーズナルイベントや突発イベントは企画しているが、メインシナリオに当たるグランドクエスト的なものは用意していないと明言していた。
 だけど、遊び方次第でNew Worldの英雄になることも出来るとも言っていた。
 つまり、何らかの災害や襲撃に対して自分の名を挙げ、国家規模のなにかに関われるだけの知名度だったりコネなんかを上手く作り上げることでこの世界の中での英雄として振る舞うことも可能、という事だと話を聞いた時俺は感じた。
 だからこそ、本来のMMOではにぎやかしやクエストトリガーとしての意味のないNPCにの高度な自立思考ができるAI搭載させているんじゃないかと。

「でも考え方によっては、リアルの人付き合いが面倒な人でもNPCと仲良くなればゲーム外に人間関係持ち出すこともなく何かが起きるかもしれないって考えればアリなんじゃない?」
「そういう考え方もできなくはないけど、でもNPCっていっても人間と変わらないレベルなんじゃ、結局人付き合いやってるるのと変わんないって思うんだけど」
「そりゃそうかも知れないけど、少なくとも選択肢があるだけマシだと思わない?」
「うぬぬ」

 まぁ、俺の場合昔やってた有名所のMMOの一つがサンドボックスタイプだったせいもあって、ゲーム内イベントというのはつまりユーザーイベントであって、人と関わらなければイベントに参加できないって言う考えが頭の隅に残っていたんだが、チェリーさんはその手のゲームはやった事無さそうな感じだな。

 そんなこんなで、ハティを走らせて目指していたのは街の外れだ。
 門からも遠く、城からも遠く、おまけに繁華街や詰め所からも遠い住宅地。
 ようは、何かあった時に戦力が流れ込んでくるであろう門の周辺や、緋爪に狙われそうな詰め所、盗賊共が狙いそうな繁華街から離れた場所となると、市壁沿いの閑静なエリア……と言うわけだ。
 敵であれ味方であれもっとも暴れやすい中央通り付近、さらに言えば詰め所付近であれば兵力的には安全度が高いかもしれないが十中八九戦闘に巻き込まれる。
 俺たちが止まっていた宿舎も緋爪に一度攻められてるし、もしかしたら見張りが残っているかもしれない。
 となると、事が収まるまでは隅で大人しく身を潜めておくに限ると言うわけだ。
 ――訳なのだが……

「キョウ、叫び声が聞こえる」
「何? こんな場所でか……? ちょっと様子を――」
「エリスちゃん! すぐに向かって!」
「うん!」

 俺がエリスに慎重に行動させるように促す前にチェリーさんに発破をかけられてしまった。
 まぁ、相当戦いたがってたし、反応が遅れた俺のミスか……
 ハティにも聞こえていたようで、エリスが特にコレと言った指示を出さなくても、淀みなく道を進んでいく。

「あの、チェリーさん? ストレス溜まってるのは何となく分かるんだけど、もうちょっとこう、慎重にですね?」
「何いってんの! NPCだって人間に近いAIもってるんだから粗末に扱うなっていったのはキョウくんでしょ!? こんな盗賊が暴れてる街の中で叫び声が聞こえたなら、誰かが争ってるって事のはず。兵士なら助太刀すべきだし、万が一住民が盗賊に襲われていたりしたならすぐに助けに行くべきでしょ!」

 まぁ、うん。
 言っていることはわかるんだけど……それでもね?

「あのですね? 一応確認なんだけど、すでに避難が終わってる筈の、こんな街の端っこの住宅地で叫び声が聞こえるという状況に罠だとかそういう可能性みたいなのはちゃんと考慮してますよね? 緋爪の連中は勿論、盗賊共も同じ貴族共に雇われていたわけで、その貴族達は元々ハティやその飼い主である俺らを狙ってたんですけど?」

 詰め所で揉めていた分、ある程度の時間は流れたとは言え、こんな奥まった所に潜んでいたような連中に王城前の出来事が伝わっているとは思い難い。

「え? あ~~っと……」

 あ、これ何にも考えてなかった顔ですわ。
 盗賊団がどれくらいの強さなのかは未知数だが、相手が街中に残った緋爪の連中だとしたらかなり厄介なことになる。
 あの俺を狙ってきたアサシンもかなりの強さだったし、城前で戦っていた中でも何人か、明らかに出鱈目な強さを見せつけていた連中がいた。
 あんなのと戦うのは流石に無謀がすぎる。

「頼みますってチェリーさん。死んでもリスポーン出来るチェリーさんと違って……まぁ、俺はまだ生き返れる可能性はありますけど、NPCのエリスは恐らく復活できないんですよ?」
「はい……そうでした。ちょっと大人しくします……キョウくんの予定通り、様子見を……」
「あ、ちょっと遅かったかも。もう現場が見えてる。相手側もハティに気づいたみたい」

 まぁ、この巨体だしな。
 こちらが相手を視界に捉えたってことは、相手からも丸見えってことだろうさ。

「あああああ……ホンっとごめんなさいぃぃ」

 鼻息荒く、獲物を見つけたとばかりに興奮していたチェリーさんは一転、シュンと肩を落として小さくなっていた。
 まぁ、いい大人がこれだけ反省してれば流石にもう大丈夫だろう。

「……まぁ、自分のストレス発散が大目的だったとは言え、人助けに向かおうとしてた訳だから、それについてあまり責めることは出来やしませんよ。ただ、今後はもうちょっと慎重に考えてくれれば」
「はいぃ……」

 こうなってしまった以上腹をくくるしか無い。
 まずは状況を確認するべく、叫び声が聞こえたという現場へと踏み込むとしよう。
 幸い、相手側から飛び道具をけしかけられるようなこともなく、俺の肉眼でも顔を見分けられる程度の距離まで何事もなく近づくことが出来たのだが……

「どういう状況なんだこれは?」

 どうにも、少々状況がおかしいというか、気になる点が。

「何で盗賊っぽい方が騎士達からが民間人守ってるんだ?」

 普通騎士が民間人を守るものだろうに。
 まるで騎士が民間人を襲い、盗賊風の連中がその騎士達から民間人を守っているようにしか見えないんだが。


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